救世主の資格
戻ったベルカを迎えたのは、広場の半分を埋め尽くすほどのエルフ達だった。ひょっとして、里中のエルフがここにいるのだろうか。
「一体何事ですか、長老さん!?」
長老は一歩前に進んで、真剣なまなざしをベルカに向けた。
「まずは嘘をついた非礼を詫びさせてください。実はあなたを試させてもらいました。あなたが天帝の後継者の証である万象珞の所有者の資格があるか、この世界の救世主足りうる存在かどうかを」
「これを……?」とつぶやきながら、ベルカは万象珞を懐から取り出した。
すると万象珞に刻まれた天帝の紋が光りだし、ベルカを包みこんだかと思うと、ベルカの背後に同じ形の光り輝く大きな紋章を浮かび上がらせた。それはさながら神像の光背のようで、紋章の光を一身に受けるその神々しさに、エルフ達は感嘆の声を漏らした。
「私の予知夢によれば、遠くない未来、世界は魔が猖獗を極めます。生きとし生けるものすべてが淘汰され、魔物だけがはびこる世界になるでしょう。それを止められるのは、天帝の後継者であるあなたしかいないのです」
「ちょちょ、ちょっと待ってくれ!」
ベルカは長老を片手で制した。
「何度も言うけど、俺はただの農夫なんですって! そんな大役を急に投げられても困る!」
「あなたにその気がなければ、万象珞はあなたを選ばなかったでしょう。あなたは救世主になる資格がある」
「いやしかしですね……!」
「何もあなた一人の力で事を為せ、と申し上げているのではございません。これから訪れる災厄は、人類が一丸とならなければ為せぬこと。あなたは人類の旗印として、皆をまとめていただきたいのです。無論我々エルフは、全力であなたをお支えいたします!」
そして長老は、森中に響き渡るほど力強く、叫んだ。
「諸共に偉大なる王を讃えよ、オーデン!!」
「「「オーデン」」」
ベルカを前に、すべてのエルフが、忠誠の構えをとる。
ベルカはひきつった笑みを浮かべることしかできなかった。