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魔力検査

「これより、コルバ郡主エッセン・ロー・ヴァイム・フォン・アイスベヒミア卿の名のもとに、魔力検査を実施する! 全員列に着け!!」


 領主が率いる兵隊たちは、唐突に村にやってきた。中でもひと際上等な白い馬に乗った小男が領主だ。「肥料臭くてかなわん、手短にすませよ」と眉間に皺を寄せながら兵士たちに命令している。

 はっきり言って、悪い予感しかしない。


 それでも畑仕事をしていた男は収穫したキャベツを放り投げ、塩漬けしすぎたニシンにパン粉をはたいていた女は手も洗わずに、検査の列へ並ぶ。遅れたら、殴られて済むならマシで、ムチは打ち据えられる回数次第でしばらく仕事がまともにできず、捕まれば最悪。二度と帰ってこられない。


「まったく急に来よってからに、これじゃ今日中に収穫が終わらないじゃない、ねえベルカ!?」

 列に並ぶ幼馴染のリーヤが、後ろのベルカに向けて不平を漏らした。後ろで束ねた亜麻色の髪の先っぽがベルカの顔をかすめ、甘い花の香りが鼻孔をくすぐった。

「魔力検査なんて、小さいころ若年健診で町に行ったとき、一緒にやってもらって以来だな」

「6歳だからー、8年前? あのときはまだベルカもかわいかったよねえ! 私の後ろをぴよぴよくっついてきて……今じゃすっかり生意気になっちゃったけど」

「くっついてたのはおまえが見てて危なっかしいからだよ、年上なのにさ」

「また憎まれ口叩いてからに~、こんにゃろこんにゃろ!」

「痛い痛い! 15にもなって頭ぐりぐりすんのはやめろ!」

 と、あんまり騒がしいもので兵士が怒鳴り、二人はしゅんとなって大人しくした。


(それにしても)

 魔力検査とは、魔力のレベルを測ること。レベルが高いと、それだけ強力な魔道具を扱ったり、魔法を扱う魔術師(メイジ)にだってなれる。

 ひょっとしてこれは――


「4です」

 気品のある女性の声が列の先頭から聞こえてきた。列から少し外れて様子を見ると、兵士の隣に黒いローブを着込んだ人間が立っていた。頭巾を頭の後ろ半分だけ浅く被り、顎の下までかかる銀色の髪から、浅黒く尖った耳が突き出している。エルフだ。褐色の肌をしていることから、おそらくダークエルフ。彼女が検査を行っているのだろう。


「このような魔境に近い辺鄙な田舎にも、ふん……いるものだな」

領主が魔力レベル4と判定された村人を見下ろしながらつぶやいた。

 その村人は、検査を終えて列を外れた者と違って、兵隊が持ってきた幌馬車の脇に立たされた。荷台は、詰めれば成人男性10人は入るだろうかという大きさだ。

 その後も魔力レベル4以上の村人だけは、同じ場所に固められた。


「あの、これは一体どういう……?」

 不安に耐えられず、村人の一人が、近くの兵士に検査の意図を尋ねた。

「貴様らの中で魔力レベルが高い者を選別しているのだ。選ばれた者は、領主様の兵士として仕えることになる。名誉なことだ」

 やはり、とベルカは青くなった。こいつらは徴兵に来たのだ。村の働き手が減ること、家族がバラバラにされること、その辛さを微塵も考えずに。


「次ィッ!」

 そしていよいよリーヤの番がやってきた。

「んん? 田舎娘のくせになかなかいいツラじゃあないか。レベルと関係なく連れていってしまおうか、なあ?」

 領主がへらへらと馬上から軽口を叩き、かっとなったリーヤは領主を睨みつけた。

「貴様、何だその目はァッ!」

 エルフの脇に立っていた兵士がリーヤの顔をはたく。今度はベルカが頭にきて兵士にとびかかろうとした。

「だめだベルカ、手を出したら何をされるか……我慢しろ!」

 村人に抑えられて、ベルカは歯ぎしりをする。村人たちはざわついたが、領主は悪びれもせず鼻を鳴らし、早く検査を進めろとがなりたてた。

「大丈夫だってベルカ。私も6歳の時測ってもらったけど、たったの2だったから! へーきへーき!」

 気丈に振る舞っていたが、長い付き合いだ。ベルカはリーヤの隠しきれない不安の色を読み取っていた。


「では……」

 エルフの魔術師がリーヤの頭に両手をかざす。その姿が、幼いころの自分と重なる。その日は家族でピクニックに行く予定があいにくの雨で、俺はずっと家でだだをこねていた。そしたらリーヤが、じゃあ家で冒険者ごっこしようといって、破ったカレンダーを折りたたんで、俺のために兜を折ってくれたのだった。リーヤにそれを頭に乗せてもらうとき、まるで戴冠式で即位する君主のような、自分がすごい者になったような気がして、すっかり機嫌をよくしたのだった。それを皮切に、今までのリーヤとの思い出が津波のように頭の中で押し寄せ、検査の結果が出るまでの数秒が永遠のように感じられる。

 エルフの目が大きく見開かれた。やめろ、よせ。


「これは――レベル8です」


 頭の中が真っ白になった。


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