凪沙の思い出
泰基は、不機嫌なリィカを見て苦笑する。
明らかに自業自得だ。後先を考えないから、そうなる。
それでも、アレクがとても分かりやすくて、誤解の余地がないのは良い。
じゃなかったら、きっとまた、凪沙の時と同じく面倒だった。
可愛いタイプのリィカとは違い、凪沙は美人なタイプだった。
しかし、自分の見た目に興味がなかった凪沙は、男にモテている自覚もなかった。
自分という彼氏がいたし、真っ正面から告白すればフラれる事は分かっていた周囲の男どもは、回りくどい手を取った。
凪沙が興味のある映画とかイベントなどに、偶然チケットが手に入ったんだけど、と誘う。
この時点でデートの誘いであることは明白で、回りくどくも何ともないのだが、凪沙には通じなかった。
自分の興味があることだから、何も考えずに普通に「行く」と返事をする。
それを当たり前のように泰基にも言う。
「次の日曜日、○○君と出かけるから」
その日は会えないよ、と凪沙が言うわけだが、ここで「俺も一緒に行く」というと、凪沙の返事が笑えた。
「泰基も興味あるの? 一緒に行く?」
別に興味があるわけじゃなくて、デートをさせないためだが、そこに思考が行き着かない。
他の女子たちの反感を買っていた時期もあったようだが、本人の無自覚に周りが先に諦めた。
凪沙の巻き起こす男問題を凪沙の友人が察知して、時には解決して、時には報告してくる。
その友人はよくキレていた。キレながらも、よく面倒を見てくれた。
「いい加減面倒だから、鎖につないで監禁しちゃえ」
「できるならそうしたい」
こんな会話を、大真面目にしていた。
そこまで思い出して、泰基は大幅に思考がズレていることに気付いた。
いくら興味があるからと言って、男に誘われたことに飛びつくな、と何度も言ったが、なかなか改善されなかった。
飛びついた結果起こる問題を、自分や友人が解決してしまっていた事が、その要因かもしれないが。
それが高校生の時の話だ。
(少なくとも、あの時の凪沙よりはマシだよな)
婚約者がいるというバルやユーリは、リィカに気を移すこともない。
アレクは誤解しようのなく、はっきりとリィカに言葉と態度で表している。だから、リィカもアレクから向けられる気持ちを、誤解することはない。
リィカがどう、というよりも、周りにいる男たちがしっかりしていると言うべきか。
(暁斗は、……まあな)
アレクと一緒に、気配を読む練習をするんだと御者台に出た息子を思う。
恋愛関係に全く無関心なのは、女性全般に苦手意識を持ってしまっているのだから、しょうがない。
今は普段通りになっているが、暁斗が抱えている物がなくなったわけじゃない。
どうしたら良いのか、まだ答えは出ない。
リィカを見れば、昨日のCランクの魔石を取り出していた。
昨日できなかった火属性の付与をするらしい。
泰基も雑念を振り払って、魔道具に集中した。
第三章、残り五話です。




