表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第三章 魔道具を作ろう

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/679

スチームバースト

宿の裏庭で、ユーリとリィカが、泰基に教わりながら剣を振っているのを、バルは見ていた。

アレクも同じく見ているが、視線がリィカにだけ向いているのが分かって、苦笑を漏らす。



昨晩、部屋でアレクに聞かれた。

「なんで、無詠唱じゃないと魔道具が作れないのか」

「義姉上の魔道具を作ったという神官、実は無詠唱を使えたのか」

と。


バルとユーリは、顔を見合わせてから、全部を説明した。

聞いたアレクの反応は「そうか」の一言。


それ以上、なんの反応も見せないので正直心配もしたが、今のこの様子を見る限り、大丈夫そうだ。



二人の剣の振りは、まだまだだ。

どこがどうおかしいのか、と聞かれても、バルには分からない。

しかし、泰基がアドバイスすると、明らかに二人の動きが良くなる。


アルカトルの王宮にいるとき、泰基が教えて、動きの良くなった王太子殿下を見て、父である騎士団長も驚いていた。

副団長のヒューズとともに、かなり本気で、泰基を騎士団の指南役にしたい、と考えていたようだ。


伸び悩んでいる騎士や兵士は、それなりに多い。泰基が教えれば、もしかしたら改善されるかもしれない、と考えたのは当たり前だと思う。


「身体の動かし方ができていない人に、ただ剣を持たせて振らせても、何の意味もない。どう動かせばいいのかを教えないとな」

王太子殿下に教えた時、泰基はアレクにそう言ったらしい。


しかし、バルは自分がそんな事を教えてもらったことはないし、アレクも同じだろう。

自分たちは、ただ剣を持って振ってきただけだ。


指南役に、と望んだ父たちの気持ちは分かる。

けれど、泰基の、そして暁斗の望みは、元いた世界への帰還だ。

この世界に縛り付けるような事はしたくない。


だから、せめて、どうやって教えているのか、それを学びたいとバルは考えていた。




「ここまでにしておくか」

泰基の言葉で、リィカとユーリが座り込む。

馬車で移動できるからと、今までより時間が長かった。


「《回復ヒール》」

唱えたリィカが、内心であれ、と思い、ユーリも「あれ」とつぶやく。


「……なんか、すごく魔法使いやすくなった」

「……見ただけで、魔力の流れが見えたんですけど」

お互いにつぶやいて、視線を合わせる。


「……ユーリ、チェンジで」

「ええ、そうしましょう。――《回復ヒール》」


今度はユーリが魔法を唱えて、確かに、と思う。魔法が使いやすいというか、魔力の動きが良い、と言った方が正確だろうか。


「うわあ、本当だ。見ただけで魔力の流れが分かる」

リィカの感動した声が響く。


「俺も確かに、見ただけで分かるな」

泰基もそれに同意する。

アレクとバルが、なんだなんだと寄ってきた。



「……つまり、今までみたいに、いちいち手に触ったりしなくても、魔力の流れが分かるってことか?」


話を聞いて確認するアレクの表情は、微妙に嬉しそうだ。

魔力の流れを見る、という名目で、リィカが手を取ったり取られたりしていたことに、焼き餅を焼いていた事を知っているバルは、小さく苦笑を漏らす。


「何で急にそうなった?」

バルの質問は、当たり前と言えば当たり前だろう。

とはいっても、心当たりは、一つだけだ。


「魔道具作り、かなぁ。かなり集中して魔力を動かすから」

言いながら自分の手を見ていたリィカは、何かに気付いたように立ちあがり、周りを見渡し始めた。が、すぐにションボリする。


「……ここじゃ無理かぁ。街を出てから、良さそうな場所を探そうかな」

「どうしたんだ?」

「混成魔法、使えるような気がしたの。それで、魔法の的になるようなものがないかな、って思ったんだけど」


アレクに答えたリィカの言うように、ここは少し開けた空間になっているだけの場所だ。

下手に使えば、宿や回りの建物に影響がでる。


けれど、リィカの使える混成魔法は、《熱湯アクア・カリエンテ》だけ。

ただ熱湯を出すだけの魔法なのだから、的はいらないだろう、とアレクが考えていたら、ユーリが、もしかして、と声を上げた。


「もう一つの混成魔法ですか? 《熱湯アクア・カリエンテ》を攻撃用に発展させたという……」

頷くリィカに驚く一同だが、ユーリの表情は面白そうだ。


「では、僕にどうぞ、リィカ。全力で《結界バリア》張りますから、遠慮なく」

一瞬ギョッとしたリィカだが、すぐに面白そうに頷いた。


「分かった。じゃあ、お言葉に甘えて。《結界バリア》壊しちゃっても、文句言わないでね」

「やれるものでしたら、どうぞ」

後衛組二人がいきなり盛り上がり出した。



そこに、暁斗が近寄ってくる。

「みんな、朝ご飯だって……、あれ、どうしたの?」

「……どうしたんだろうな」

困惑している周囲をよそに、リィカとユーリは向かい合う。



結界バリア》を張ったユーリは、リィカに挑戦的な目を向ける。

その視線を受け止めて、リィカは右手を前に出して、魔法を唱えた。


「《水蒸気爆発スチームバースト》!」

高温の水蒸気がユーリに向かい、《結界バリア》に接触した瞬間に、大爆発を起こす。


「お、おい?」

「マジかよ……」


アレクが慌てて声を上げ、バルが呆然とつぶやく。

泰基と暁斗は声もなく、爆発が収まれば、そこには、かろうじて《結界バリア》の残ったユーリの姿があった。


「あ、壊せなかった」

「いや、壊れてたら大変な事になってただろ、これ」


リィカの言葉に、泰基は思わず突っ込みを入れた。壊れてたら、ユーリは大怪我程度で済まなかったはずだ。


だが。

「僕の勝ちですね、リィカ!」

「……勝ち負けの問題じゃないだろ」


高らかに勝利宣言をするユーリと、悔しそうなリィカに、泰基は頭痛を感じて、頭を押さえた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ