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9.リィカ⑨ー回復

2021/12/18、修正です。

元々一話分だった話でしたが、長くなってしまったので二話に分けています。そのため、また以降の話数がずれます。申し訳ありません。


崩れ落ちるわたしを支えてくれた第二王子殿下が、丁寧にわたしを地面に座らせてくれた。


「ユーリ、回復を頼む」

「ええ。――これは」


殿下は、近寄ってきたユーリッヒ様に声を掛ける。

ユーリッヒ様は、一言つぶやいて顔をしかめた。視線は、わたしの右腕。


胡狼ジャッカルウルフの二体に、同じような場所を噛まれた。

ちぎれそう……と言うほどひどくないけど、どんなに控えめに表現しても重傷だ。


「『光よ。彼の者を癒やす強い光となれ』――《上回復ハイヒール》」


おもむろにユーリッヒ様が詠唱を始めた。

唱えた魔法は、基本となる《回復ヒール》より効果の高い魔法だ。


回復魔法は、水魔法か光魔法のどちらか。

水魔法の《回復ヒール》は何回か見た事があったけど、光魔法は初めて見る。


光魔法のほうが効果が高いとは聞いた事があるけど、それにしても、ずいぶん威力がある気がする。

全く回復魔法を使えないわたしからすると、羨ましい。


ズキンズキンと痛みを発していた右腕が良くなってきた。

知らず、ホッと息を吐いた。


そこでやっと余裕ができて、《防御シールド》で守っていたレーナニア様のことを思い出してそっちを見ると、第二王子殿下と何か話をしているところだった。


「大丈夫ですか? 先に一番ひどい右腕の治療をしてしまいますので、他の場所はもう少しお待ち下さいね」


「えっ!? あ、はい。その、だ、大丈夫、です」


回復をしてくれているユーリッヒ様に話しかけられて、慌てて返事をする。


この方からも一度逃げ出しているわけで、ついでに言うと、中間期に続いて期末期のテストでも、魔法の実技においてこの方から一位を奪い取ってしまっている。


心配そうな顔をして治療をしてくれている顔を見る限り、その件をどう思っているのか分からなかった。


「……その、余計な手間をかけさせてしまい、すいません」


これまで色々迷惑をかけただろう方に、回復してもらっているのが申し訳なくなってきた。

けれど、謝罪すると不思議そうな顔をされた。


「手間でも何でもありませんよ? これだけの魔物の群れに囲まれて、よくこの程度の怪我で済んだと思います。僕たちの方こそ、もっと早く来られなかったこと、申し訳ありませんでした」


穏やかに笑った。

その姿は、クレールム村に来ていた貴族の方と同じ貴族とは思えない。近寄ることさえ怖かったのに、ユーリッヒ様からはそんな怖さは全く感じなかった。



※ ※ ※



右腕の治療が終わって、今度は全身に《回復ヒール》が掛けられた。

痛みが徐々に薄れていく中、第二王子殿下に話しかけられた。


「傷はどうだ? 違和感が残っていたりはしないか?」


片膝をついて、わたしと目線を合わせて話しかけてくる。

その目が、心配だと言っているのが見て取れる。


「大丈夫、です。痛みも少なくなってきました」

「そうか。なら、良かった」


ホッと息をつかれた。


「改めて、義姉あね上……俺の兄の婚約者なのだが、助けてくれて感謝する。俺はアレクシスだ。よろしくな」


知ってます、とは言えず、黙って頷く。


さらに、回復してくれているのがユーリッヒ様で、もう一人いる男性、体の大きい方がバルムート様。

わたしが《防御シールド》で守った方がレーナニア様だとご紹介して下さったが、言われなくても全員知っています、とはやはり言えなかった。


「わたしは、リィカ、と言います」


第二王子殿下に目で促された気がして、わたしも自己紹介する。

もっと何か言うべきか、と思うけど、何を言えばいいか分からない。

そもそも、声を掛けられた時に逃げ出したことを、謝罪したほうがいいんだろうか。


けれど、わたしがそんな事を頭の中でグルグル考えているうちに、第二王子殿下が口を開いた。


「ああ、知っている。俺たちの間じゃ、お前は有名だから」

「えっ!」


肩を思い切りビクつかせてしまった。

有名って……いやまあ声を掛けたのに逃げた平民が、有名じゃないわけないのか。


「さて、リィカ。治療中で悪いが、義姉上の《防御シールド》、解除してもらっていいか?」


どうやら有名云々の話を掘り下げるつもりはないようで、ホッとした。

けれど、別の意味で、わたしは固まった。

当然言われるだろうと分かっていても、言って欲しくなかった言葉だ。


「……その、すいません。………………できないんです」

「は? できない?」


殿下の訝しげな声に、言いたくないと思いつつも、説明しないわけにはいかない。


「わたし、支援魔法、苦手で……。どうしてか自分で作った《防御シールド》を、自分の意思で解除できないんです……」

「はあ?」


殿下の声が不審に変わる。


気持ちは分かる。

普通、《防御シールド》は作った人の任意のタイミングで解除できるものだ。だというのに、わたしはそれがどうしても出来ない。


ダスティン先生が唸り、学園長先生にも相談してくれたらしいけど、結局できるようにはなっていない。


「……そんな事、あるのか?」

「僕に聞かれても。僕だって初耳ですよ」


第二王子殿下とユーリッヒ様の会話に首をすくめる。


「ああ、悪い。責めるつもりはないんだ。だが、そうなると、どうしたらいいんだ?」

「壊すしかないでしょう。――バル、出来そうですか?」


ユーリッヒ様に名前を呼ばれたバルムート様が、《防御シールド》をゴンゴンと叩いた。


「出来なくはねぇが……まだ保つぞ。このままでも、いいんじゃねぇの?」


バルムート様が周囲を見渡した。


そうだった。

ノンビリ会話しているけれど、それはここがユーリッヒ様の《結界バリア》で守られた中だからだ。


現在進行形で、《結界バリア》には魔物が体当たりしまくっている。

いつまでもこの中にいるわけにはいかない。また魔物の群れとの戦いが待っている。


そうなれば、戦えないレーナニア様はこのまま《防御シールド》の中にいてもらった方がいい。


――わたしとしては、自分の《防御シールド》じゃ不安だから、壊してユーリッヒ様の《結界バリア》を張り直して欲しいけど。


「俺としては、義姉上を安全な校舎の中に届けたい。戦うにしても、四方を囲まれたこの状況では不利だ。魔物の囲みを突破して、背後の心配が少ない場所で戦いたい」


第二王子殿下の言葉は、そんなわたしの身勝手な考えを簡単に越えていた。

確かにその通りだ。

すごいなぁ、と感心してしまった。


「それもそうか。分かった。壊そう」


バルムート様も頷いて、レーナニア様に屈むように声をかける。

そして、剣を振り上げた。

第二王子殿下が持っている剣より、大きい剣だ。


「【獅子斬釘撃ししざんていげき】!」


剣技を放った。

先ほど第二王子殿下が放った剣技が風の剣技なら、今バルムート様が放ったのは土の剣技だ。


その一撃で、わたしの《防御シールド》にヒビが入って、崩れた。


こう言っては何だけど、驚いた。

防御シールド》を張ったとき、込められるだけの魔力を込めたつもりだ。何度も魔物に攻撃されたとはいえ、まだまだ強度は残っていたはず。


例えば攻撃したのが平民クラスのクラスメイトたちだったら、壊れるまでに何発も必要だったと思う。それを、一発で壊してしまうとは思わなかった。


「リィカ、回復終わりましたよ」

「リィカさん、痛いところはありませんか?」


呆然とバルムート様を見ていたわたしの耳に、続けて声が飛び込んだ。

ユーリッヒ様、そして、わたしに駆け寄ってきたレーナニア様だ。


「あ、ありがとうございます。大丈夫です」


一応前半はユーリッヒ様に、後半はレーナニア様に答えたつもりだ。

レーナニア様の目が潤んだように見えて、あれ、と思った瞬間、わたしは抱き締められていた。


「良かったです。本当に、良かったです。守って下さってありがとうございます。あんなに傷だらけになって……助けて頂き、ありがとうございました」


「え、いえ……心配掛けて、すいませんでした」


涙声のレーナニア様にどうしていいか分からない。

とりあえず、思い浮かんだ言葉を言ったら、レーナニア様の顔が左右に動いた。


「リィカさんが謝る必要なんて、何もありません」


そう言われてしまうと、わたしもどうしていいか分からない。

元々、貴族の方々と話す能力なんてゼロのわたしだ。


されるがままに抱き締められているしかなかったけれど、ちゃんと救い主はいた。


「義姉上、申し訳ありません。いつまでもこのままというわけにはいきませんので……」


第二王子殿下だ。

公爵家のご令嬢に何か言えるなんて、この人しかいないだろう。


「それと、リィカ。これを着てくれ」

「……………………?」


殿下が自分のブレザーを脱いで、わたしに差し出してきた。

なぜ? と首を傾げていると、代わりに受け取ったのはレーナニア様だった。


「リィカさん、制服がボロボロです。ご自分のブレザーを脱いで、こちらを着て下さいな」


言われて、気付いた。

あちこち魔物の攻撃を受けていたのだ。当然制服だってボロボロにもなる。


見れば、あちこち肌がのぞいて見えてしまっていた。

わたしの方を見ようとせず、背中を向けている第二王子殿下に、顔が赤くなる。


絶対見られちゃダメな部分が見えてるわけじゃないけど、そういう反応をされるとこっちも恥ずかしい。


いそいそと殿下のブレザーを着込んだら、サイズが大きかった。


「あら」


レーナニア様が笑って、袖を捲って下さった。

それでも大きい。肩が落ちそうだ。


脱いだ自分のブレザーの袖で腰の辺りを結わえれば、少しはマシになった。

これで動くのには、支障はなさそうだ。


振り返ったアレクシス殿下にジッと見られた。


「あの、ありがとうございます。第二王子殿下」


サイズはブカブカだけど、気付いて差し出してくれたんだから、お礼は必要だよね、と思って言ったら、顔をしかめられた。


何かダメだっただろうか、とパニックになりそうになったけど、殿下の言葉は意外だった。


「……名前で呼んでくれ」


――なまえ?


「……アレクシス、殿下?」

「そうだ」


わたしみたいな平民が、王子殿下を名前で呼ぶなんて失礼じゃないんだろうかと思ったけど、呼んだら大真面目に頷かれた。




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