ガールズトーク
街に到着した頃は、すでに暗かった。
宿を取って夕飯を食べて、そのまま休む事にした。
リィカとユーリは、明日朝剣の練習をすることを泰基と約束した。
「リィカちゃん、何故剣の練習を?」
宿は、女性陣、リィカ、サルマ、フェイの三人部屋だ。
男性陣も、三人ずつの部屋になっている。
リィカとユーリは、かなりの魔法の使い手だ。剣を使う必要があるとは思えない。
「ちょっと、前衛なしで接近戦をする羽目になった事がありまして。魔法唱えるの大変だったんです。だから、少しでもできるようになればいいかなぁって」
サルマは、へえ、とつぶやく。
そんな事態を引き起こしそうなパーティーには、とても見えない。
「意外だね。全員が全員、かなりの実力だし、連携も上手いのに、そんな事になるなんて」
「……あの時は、色々あったので」
困ったようなリィカの顔に、サルマもそれ以上の追求はやめる。
どんな事でも、深追いは禁止だ。
それよりも、本題に入ることに決めた。
「リィカちゃん、アレクとはどんな関係?」
「…………へ!? え、なんで、アレク!?」
リィカがアタフタするのが分かり、サルマは笑いを漏らす。
魔法のとんでもない才能とは別に、その反応は年相応だ。
「アレク、リィカちゃんとの距離近かったでしょ。魔石を一生懸命作ってるところ、楽しそうに見てたし。ワタシが抱き付いたら怒るし。あれで分からない方が難しい」
枕に顔を埋めてしまって、何も反応を見せないリィカに、サルマはなおも話しかける。
「リィカちゃんは、アレクの気持ち、知ってるんだ?」
「……………言われたから」
「じゃあ、リィカちゃんは?」
「……………よく分かりません」
なるほど、と頷く。
「青春してるねぇ」
サルマの言葉に、リィカが身体を起こして叫んだ。
「何が、どこが、青春ですか!? もう本当に、困るからやめて欲しいんです!」
「だったらそう言えばいいじゃないの。あんたなんか好きじゃないから、手を出してくるなって」
リィカが、グッと息を詰まらせるのが分かった。
「それが言えない程度には気を許してるんなら、諦めるしかないね。手っ取り早いのは、サッサとアレクを好きになって、気持ちに応えてやることさ」
「……手っ取り早い……って」
不満そうなリィカだが、サルマは至って本気だ。
「手っ取り早いでしょ? 好きになったなら、手を出されれば、むしろ嬉しいだろうし」
「――手を出す!?」
何を想像したのか、真っ赤になったリィカを見て、サルマは笑いをこぼす。
大変なのは、リィカちゃんよりもアレクだろうね、と内心思う。
だから、せめて、少しくらい本人に自覚させてあげる。
無自覚でいるよりは、まだマシだろう。
「リィカちゃんさ、自分が可愛い顔立ちしてる自覚、ある?」
「…………………ふえっ?」
「好みはあるかもしれないけど、多分ほとんどの人が可愛いと思うだろうね。――もっと言えば、男に好かれそうな顔してる」
「……………………………………ふえっ?」
「間抜け面してても可愛いんだから、羨ましいくらいだよ」
「………………………………え、と………」
口をポカンとさせたままのリィカを見る、サルマの目は、からかっている言葉とは裏腹に、優しかった。
「覚えていた方がいいよ。なんで男五人に女一人なんてパーティーなのかは知らない。みんな、アレクも含めて紳士的っぽいし、大丈夫なんだろうけど、旅なんて何が起こるか分からないしね」
うつむいたリィカに、さらに語る。
「道中、どんな男に会うかも分からない。どんな相手でも、リィカちゃん一人で男と会うのはやめた方がいいよ。魔法でどうにでもできるだろうけど、余計なもめ事を作ることもない」
「………………………はい」
小さく返事をしたリィカを満足そうに見たサルマは、手をパンと一回叩いた。
「よし、じゃあ、話しは終わり。――ほら、リィカちゃん、寝な。明日も朝早いんでしょ」
ゴソゴソと無言でベッドに潜ったリィカを確認して、サルマも目を閉じた。




