表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第三章 魔道具を作ろう

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/679

テントの魔道具とお風呂

少し遅めの昼食休憩中。

サルマが出してくれた魔道具のテントに、一同驚きだ。


長さは短刀くらい。太さは手で握れる程度。

日本風に言うなら、折りたたみ傘くらいの大きさしかない。

だというのに、魔石に魔力を流した途端に、大きく広がった。


やがて広がったテントを見れば、座るだけなら六人が入っても十分。

一度に中で寝られるのは、四人程度、という感じだ。


「テントが飛ばないように、固定は自力でやって」

と言われたが、それだけなら全然大したことはない。


「……なにがどうして、こうなるんですか」

リィカの質問は、メンバー全員の質問でもあった。


「悪いけど、秘密。色々大変だったんだよ。張り切って作ってみたはいいけど、量産できる代物じゃないし、値段はバカ高く付くし、死蔵されていた品だよ」


「バカ高いって、どのくらいだ?」

アレクが聞いて返ってきた答えに、流石に唖然とした。


「……城一つ建つんじゃないか?」

金額交渉も何もない。少々安くなった所で、そんなもの買えるわけがない。


しかし、分かってると言いたげなオリーが、

「だから、この金額だったらどう?」

提示してきた金額に、さらに絶句した。


値引きというのも馬鹿馬鹿しい、元値を考えればタダ同然の値段。

店で買える、普通のテントの値段だ。


「ボクらがキミたちに報酬として提示したのって、モルタナまで馬車に乗せてあげる、ってだけだろ? 食事も出せないばかりか、代わりに肉とか出してもらっちゃってるし、魔道具のアイディアも、もらってる。

 さすがに、キミたちほど実力のある人たちに護衛してもらって、報酬がそれだけっていうのは、ないなぁと思うんだよ。だから、どうせ死蔵されていた品だし、どうかなと思ったんだけど」


アレクはさすがに迷う。しかし、素直に思ったことを言うことにした。

「……こっちは嬉しいが、本当に良いのか?」


「もちろんだよ。じゃあ、決まりだ」

こうして、彼らは魔道具のテントを手に入れた。



テントの交渉が終わった所で、ユーリはカセットコンロに目を向けた。

「……やっぱり、いいですね、これ」


「持って行くのは無理だからな」

アレクが先手を打つ。小型ではあるんだろうが、旅には不向きだ。


「どうしてもって言うんなら、魔法のバッグの魔道具を頑張って作ってくれ」

「……それこそ、無茶言わないで下さいよ」

そもそも、そんな物を作ろうと、チャレンジすらしていないのだから。



「何の魔道具を作ってんだ?」

外にいたバルは、中の様子が分からない。

なので、その質問も最もなのだが、挑戦していた四人が目を逸らし、アレクは苦笑した。


「とりあえず、リィカは成功だろう?」

「……成功なのかなぁ」


出してみろと手を出すアレクに、一応の成功品を渡す。

それがバルの手に渡り、アレクが指示を出す。


「剣技をやる時のように、魔力を流してみろ」

言われた通りにバルがやってみたら、お湯が出てくる。

しかも、魔力を通すのをやめても、出っぱなしだ。


「もう一回魔力を流せば、止まるよ」

今度は、リィカに言われた。その通りにしたら、お湯が止まった。


「……すげぇじゃねぇか」

「すごくない! そんなチョロチョロしか出なかったら、お風呂にならない!!」

思わず零れたバルの感想に、しかしリィカは不満爆発だ。


リィカの目的は、浸かるお風呂だ。

しかし、作った魔道具から出るお湯の量は、お風呂として溜めるのには少なすぎるのだ。


「Eランクの魔物の魔石だからねぇ。そんなもんだろうさ。それでも、寒い冬には喜ばれるよ。本当にこれ、ワタシらで作って売っていいの?」

サルマの言葉に、リィカは躊躇わずに頷く。


「わたしも、寒い日に冷たい水で洗濯とか辛かったし、ぜひお願いします。――でも、魔力を流さないとダメな所とか、大丈夫なんですか?」


「その辺はちょっとした調整だよ。魔石みたいに、触れればいいようにしてみるさ」

ニヒヒ、とちょっと怪しく笑って、そうだ、と一つ加える。


「リィカちゃんがやりたい事、Cランクくらいの魔物の魔石見つけたら挑戦してみなよ。それで、できるんじゃないかな」


リィカは少し目を見張る。Cランクだったら、遭遇すればきっと倒せる。

「……分かりました! やってみます」


聞いていたアレクは、あれ、と思う。

確か持ってきていたはずだ、と荷物を漁れば、やはりあった。


「リィカ、これやるから作ってみろ」

「え?」

渡されたのは、かなり大きめの魔石。


「あの時の、ライノセラスの魔石だよ。Cランクの魔石なんてそう簡単に手に入らないから、これだけ魔石の形でもらったんだよ」




魔王誕生直後に発生した、大量の魔物。

リィカたち四人は、それを倒した報酬を国からもらっていた。


ほとんどがEランクやDランクの魔物だったが、唯一いたCランクの魔物、ライノセラス

リィカがその角で貫かれそうになった所を、アレクがギリギリで助けた、その時の魔物だ。


リィカたちは後から聞いただけだが、国の方で可能な限り魔物を解体して、その肉と魔石を確保していたらしい。


食料と生活魔法用の魔石は、人々の生活にはなくてはならない代物だ。

解体した兵士たちは大変だったようだが、おかげで大量に確保できたと国王に感謝された時には、リィカは卒倒したくなった。


思い出さなくていい所まで思い出してしまって、リィカは顔をしかめた。


あの時、自分は上級魔法を連発していたのだ。

自分が倒した魔物の中で、どれだけ肉や魔石を取れるくらいに形を保っていたのか、正直怪しい。


とは思ったが、口に出せる勇気もなく、黙って報酬をもらった。

もらった報酬額を見て気を失いそうになったのも、思い出と言えば思い出だ。



リィカは、手の中の魔石を見る。

Cランクの魔石なんて、次いつ手に入るか分からない代物だ。


「……もらっていいの?」

「ああ、もちろんだ。その代わり、成功したら俺も風呂に入らせてもらうぞ」

「……うん。ありがとう、アレク」


本当に嬉しそうに笑ったリィカに、アレクは一瞬息が詰まる。

(……勘弁してくれ)

顔が赤くなるのを、抑えることができなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ