魔道具を作ろう②
魔道具作りは順調だ。
属性の魔力封じも、あっさりクリア。剣技を使えないリィカとユーリも、さほど苦労することなく、できた。
ここで苦労するかと思っていたサルマは、あまりにも簡単にクリアされて、驚きを通り越して呆れていた。
今度は魔石そのものの加工だ。
例えば、風の手紙みたいに、耳に付けるようにするには、その形に変えていかなければいけない。
「ナイフなんかじゃ削れないからね。魔力で形を整えるんだ」
言って、サルマが手本を見せてくれる。
四角い魔石が、サルマの手の中で形を変えていくのを見て、一同が驚く。
「魔力を出しながら、こういう形にしたいってイメージすると、その形になってくよ。後は、少し難易度は上がるけど、属性付きの魔力でやると、その後の魔法付与が楽になる。
例えば、風の手紙なら、風が基本となる魔道具だから、風属性の魔力を使うようにすればいい」
暁斗が、はい! と手を上げた。
「魔法のバッグは?」
「現状、不明。だから、お手上げなのさ」
不満そうな暁斗に、サルマは笑う。
「四属性と光、どれでやっても駄目だった。闇魔法は試したくても試せないしね」
「「闇魔法……!?」」
泰基と暁斗の声が被った。
光魔法があるなら闇魔法があってもおかしくない、とは考えていた。
しかし、日本でよく読んだ小説なんかでは、闇魔法の立ち位置というのは、作品ごとにバラバラだ。
ごく普通に存在しているものもあれば、悪いものの代表として存在するものまで。
今まで闇魔法が欠片も話に出てこなかったので、何となく聞きにくかった。
「そう言えば、お二人は知らなかったですね」
ユーリは、二人に闇魔法についての説明をしたことがなかったと思ったが、今は後回しだ。
「後で、説明しますよ」
それだけ言って、ユーリは目の前の魔石に視線を戻す。
なんだかんだ言っていたユーリだが、やはり夢中になっていた。
そんなユーリにサルマが苦笑して、
「まあ、何でもいいさ。自由に作ってみて。何かいいアイディアがあったら、欲しいけど」
自分たちの考えだけでは限界だ。だから、飛び込んできた彼らに自由に作らせてみたい。
それがサルマの本音だった。
(魔道具作り、か)
オークとの戦闘後、馬車の中に入ってきたアレクは、夢中になっている一同を見渡す。
最初は色々警戒したものだが、話を聞けば納得だ。
魔石にしても、魔道具にしても、小さい物がほとんどだ。
だから、荷物の場所が取られないんだろう。
魔石を持って集中しているリィカに近寄っていく。
声をかけるのは流石に憚られるが、真剣な顔をしているリィカを眺めているだけで、楽しい。
やがて、ふぅ、と一息ついたのが聞こえたので、アレクは声をかける。
見れば、リィカの魔石は円球になっていた。
「何を作るつもりなんだ?」
「……ぴゃっ!?」
リィカが、やたらと可愛い悲鳴っぽい声を出した。
「……ア、アレク、いつの間に、そこに」
「さっきからずっと。――それで?」
「……暖かいお風呂に入りたいなぁって思って」
《熱湯》という混成魔法もあるにはあるが、難しい。
浴槽をどうするのかを考える必要はあるが、とりあえずそこは後回しだ。
「へえ、いいね、それ。ワタシもアルカトルで入浴したことあるけど、気持ちよかったもんねぇ」
サルマが、会話に入ってきた。
「アルカトルの入浴施設は、火と水の魔石をそれぞれ複数個使って成り立ってる、って聞いたことあるけど、それを一つでやっちゃおうってことか」
そして、マジマジとリィカの円球の魔石を見る。
「――リィカちゃん、水属性の魔力でやったんだね。難しいって言ったのに」
「分かるんですね」
「そりゃね。魔力を読めなきゃ、無詠唱も魔道具作りもできないさ」
この魔石の加工まで話が進めば、なぜ魔道具作りが無詠唱でないと駄目なのかが、分かる。
魔力で形を整える、など、普通に詠唱して魔法を使っている人には無理だ。
「次は火属性の付与か。水と火は反発するから、難しいよ。――と、待った。リィカちゃん、属性は何を持ってるの?」
オークと戦ったときは、水と風を使っていた、とオリーが言っていた。
「……実は、四つ全部持ってまして」
えへへ、と笑うリィカは可愛いが、サルマはそれどころじゃない。
「四つ!? そんな人、本当にいるの!?」
「アキトも四つ持っているけどな」
脇からアレクが口を出す。
リィカと二人で話をしていたのに、そこに割って入られて、口を挟めず、実は不満だったアレクだ。
サルマは、口をあんぐりさせる。
「……いや、属性四つ持ちって、相当に珍しいでしょうに、それが二人も……」
本当に、あんたら一体何なんだ、と思う。
それを聞こうと思わないのが、サルマ自身も不思議だが、あまり深く突っ込むべきじゃないと、商人の勘が告げていた。
(まあ、いいか)
少なくとも、悪い子たちじゃない。それは確かだ。
それよりも、サルマはアレクを見る。妙に、リィカとの距離が近い。
試してみようかな、という半分いたずら心で、サルマはリィカに抱き付く。
「きゃあっ?」
「……んな!」
悲鳴を上げるリィカと、いきり立つアレクを見て、サルマは確信する。
リィカ側は分からないが、少なくとも、アレクの方はリィカに気がある。
(これは、問い詰めないとね)
リィカとのガールズトークが、楽しみなサルマだった。




