魔道具と勇者伝説?
「魔道具っていっても色々あるんだけどさ。一番売れているのは、こいつだよ」
サルマが、いくつかある荷から何かを取り出した。
抱きしめられていたリィカは、サルマが手を離した途端に距離を置いている。
取り出された物を見て、リィカがわずかに目を見張る。
バルとユーリは首を傾げ、泰基と暁斗は「あっ!」と声を上げた。
その見た目は、カセットコンロ、そっくりだった。
「簡易調理器、ってワタシらは呼んでる。枝とかが当たり前に取れるんなら、生活魔法があれば何の支障もないけどさ。砂漠地帯なんかいくと、思うように手に入らないこともあるからさ」
簡易調理器の脇にある蓋を開けると、そこに魔石が二つ収まっているのが見える。
その魔石に封じ込められているのは《火》の魔法だが、調理器に合うように、多少のアレンジが加えられているらしい。
ボタンを押せば、中央とその前後左右、あわせて五つの炎が吹き出てきた。
きちんと鍋などが置けるようになっているので、それで料理を行える。
本当によくカセットコンロと似ている。
「調理器そのものは、そんなに壊れる代物じゃないけど、魔石は定期的な交換が必要だ。手を加える必要があるから、普通の生活魔法の魔石じゃ合わない。そんな訳で、定期的に魔石の注文が入るんだよ」
説明を受けて、リィカとユーリがマジマジと見つめている。
「……いいなぁ。わたしも欲しい」
「料理するとき、便利そうですね」
「気に入ってくれて、嬉しいけどね。旅に持って行くには、かさばると思うよ。……本当はもっと小さくするなりして、冒険者とかに携帯用として売れればいいなぁ、とは思ってんだけどさ」
リィカがコクコク頷く。
「うん。絶対売れると思う。旅してても、温かいもの食べたいし」
「……なかなか上手くできないんだけどね。まあ頑張るよ」
冒険者に売り出すとしたら、魔石の補充をどうするか、という問題もあり、簡単にはいかない、というのが現実だった。
「……なあ。砂漠地帯はもっと北だろ。だったら、何でこんな所にいるんだ?」
バルが聞けば、サルマは何を言ってるんだ、という顔をする。
「あんた、今のこの時期に北に行けって?」
「……………悪かった」
北は魔王が攻めてきているのだ。そうそう行けるものではない。
「早いうちに行って売って、さっさと戻ってくればいいんじゃないか、なんて話もしてたんだけどねぇ」
サルマに浮かぶのは苦笑だ。
チラッと視線が御者台の方に行く。
「……オリーがさ、勇者伝説大好きで、いろんな話を寄せ集めてるんだ。で、魔王が誕生したんだから勇者が召喚されたはずだ、実物が見られる、行くぞって、アルカトル王国に勝手に馬車を走らせた」
え、とサルマを凝視する。
「王都アルールで、きっと顔見せのパレードとかあるはずだ、とか張り切ってたんだけどね。いざ行ってみたら、まったくそういうのなくて、結局勇者を拝めずじまいでさ。でも、召喚された事は確からしいから、アルカトルから北上していけば、どこかで会えると期待してる」
すでに会ってます、とは言えない。
パレードは、そういう話は確かに国王からあった。嫌だと断ったのは、暁斗だ。
冷や汗をかいて固まっている暁斗を見て、泰基が怖々と質問した。
「……ちなみに、もし会ったらどうするんだ? いや、その前に、会った人間が勇者だって分かるのか?」
「そんなの、オリーに聞いてくれ。勇者に会えば、自分の勇者センサーが働くから絶対に分かる、なんて言ってたけどね」
世間に出回っている勇者の伝説というのは、様々だ。どこからどこまでが本当か嘘かが分からない。
見た目の特徴も、語られる話によって、マチマチだったりする。
きちんとした言い伝えを知っている、例えばフロイドみたいな人もいなくはないが、ほとんどの人は、知らない事実だ。
泰基も、暁斗も、顔が引き攣りそうになっている。
(勇者センサーってなに……?)
そのセンサーとやらがまったく働いていないことには、感謝した二人だった。




