話が逸れる
短いです。
「さて、話が逸れたね。じゃあ、ワタシらの商売道具、見せてあげるよ」
ひとしきりリィカをぎゅうぎゅうして満足したらしいサルマが、手を離して一同を見渡した。
しかし、言われた方は困惑だ。
道具らしい道具は、ほとんど見当たらない。
「あんたら、ちょっと警戒してただろ? 商人なのに全然商品がない、ってさ。その若さにしちゃ、うまく隠してたほうだろうけど、商人には通じないから、覚えておきなよ」
笑われて口ごもる。確かに警戒した。それに気付きながら、無視されていた事実は、面白くない。
「では、商品はあるというのですか?」
挑むようにユーリが問いかければ、サルマは面白そうな顔をした。
「いいね。そういうちょっとムキになる辺り、年相応っぽくて安心するよ。――もちろん、あるさ。なかったら商売にならない。ただ、小さいし、数もそんな多くないからね。それで儲かるし」
サルマはもったいぶるように言葉を切ってから、もう一度口を開いた。
「あんたたち、魔道具ってのはどのくらい知ってる? リィカちゃんは?」
唐突な質問に、リィカは悩んだが素直に答えた。
「……言葉を聞いたことがあるくらいです」
さらに視線を向けられたバルとユーリが、交互に答える。
「知り合いに、魔力病の人がいるんだが……」
「その人が、常に魔力を吸い出す魔道具を身につけているのは知っています。知っているのは、そのくらいです」
「……魔力病の人がいるんだ」
ポソッとつぶやいたのは、フェイだ。バルとユーリが視線を向けると、慌ててうつむいてしまった。
「フェイは人見知りが激しくて、悪いね。フェイ、神官だからさ、魔力病の魔道具を作ったこともある。でも、魔道具って言って、知られているのは大体それくらいだね。魔法が使える人は、魔道具に興味を持つこともないからね。普通に生活するだけなら、生活魔法の魔石があれば、大体それで済んじゃうし」
「…………もしかして、サルマさんたちは、魔道具を作ってるんですか?」
リィカが問いかけると、サルマは嬉しそうな顔をして、リィカをまた抱きしめる。
驚くリィカにお構いなしだ。
「そ、正解だよ、リィカちゃん。生活魔法の魔石だけじゃどうにもならない事も、場所によってはあるからね。そういう所には、魔道具が必要なのさ」
「分かったから、放して下さい……!」
「いやだって、リィカちゃん、抱き心地いいんだもの。このまま男たちと旅させるの心配だなぁ。ワタシと一緒に来ない?」
「行きません! ていうか、また話が逸れてます!」
その様子を見て、バルは思った。
(アレクが、外に出てて良かったな)
じゃなかったら、もっとこの空間はカオスになっていた。




