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8.リィカ⑧―魔物との戦い

「《狂乱の風(フォリーウインド)》!」


魔法を唱えた。

風の上級魔法だ。


わたしは、魔法は自信があっても、近接戦は自信がない。

まずは、魔物との距離をおくことが、最優先だった。


狂ったように吹き荒れる風が、魔物を切り刻み、あるいは遠くに吹き飛ばす。

それを確認して、さらに魔法を唱えた。


「《濁流マディストリーム》!」


水の上級魔法。

荒れ狂う濁流が、魔物をさらに奥に押し流す。


ふう、と息をつく。

魔物との距離が、開いた。


「《氷の剣林(ペニテンテ)》!」


これも、水の上級魔法だ。

尖った氷の柱が連なったものが出現した。


これは、下から魔物を刺すこともできるけれど、わたしは、魔物が一度に押し寄せてこないように、壁としての役割を期待して、使った。


上級魔法は、広範囲に効果のある魔法だ。

けれど、その分魔力も消耗する。

魔物の数が膨大である以上、魔力の消耗は可能な限り避けたかった。


今、《氷の剣林(ペニテンテ)》を越えて、わたしに向かってきているのは、空を飛ぶ魔物。そして、跳躍力のある魔物。


「《風の千本矢(サウザンドアロー)》!」


風の中級魔法。広範囲に効果のある魔法だ。

魔物を倒した。


広範囲に効果のあるとはいっても、上級魔法と比べると、その範囲は狭い。

その狭い範囲の中級魔法でも、《氷の剣林(ペニテンテ)》を頼りにすれば戦えると、そう思ったのだ。


ーーそれは、途中までは上手くいっていた。


それが崩れたのは、頼りの《氷の剣林(ペニテンテ)》が、魔物によって、その一部が崩されてからだ。


崩されたところからさらに壊れていき、だんだん壁の役目を果たさなくなった。


そうなる前に、気付いてどうにかできれば良かったのかもしれないけど、次から次に襲いかかってくる魔物の対応に精一杯だったのだ。



※ ※ ※



わたしは、クレールム村で大量の魔物を目の前にして、恐怖から魔力を暴走させた。

その恐怖がまだ残っていたのだと知ったのは、学園に入学して数ヶ月が経った頃だ。


クラスメイトたちに誘われて行った、王都郊外の森での魔物退治。

魔物は定期的に倒していかないとすぐに数が増えるから、魔物退治は推奨されているらしい。


お金ももらえるし、魔法の練習にもなるし、と誘われて、一緒に行ったんだけど、そこで魔物を目の当たりにしたわたしは、動けなくなった。


足がすくんだ。手が震えた。

自分が、魔物に食われる様が頭に浮かんだ。


もしかしたら、ここで魔力暴走、なんて最悪の事態が起こった可能性もあったのかもしれないけど、そうなる前にクラスメイトたちが魔物を倒しきってくれた。

あるいは、この時点で、魔力の制御ができるようになっていたからかもしれない。


迷惑かけてごめんなさい、と謝った。

もう誘われることはないと思ったのに、また誘われた。

クラスのリーダーの男の子だ。


「せっかくの魔法がもったいないよ」


そう言って、わたしの手を引っ張った。

何度も何度も誘ってくれた。


その男の子が、魔物の攻撃を受けてしまいそうになったとき、わたしは咄嗟に魔法を放った。

放った魔法一撃で、魔物を倒した。


「やっぱりリィカ、すごいよ」


その子がそう言ってくれて、他のクラスメイトたちも口々に褒めてくれた。


それからだ。

魔物への恐怖が薄れて、戦えるようになったのは。

だから今、戦えているのは、クラスメイトたちのおかげだ。



※ ※ ※



一人で戦うのは初めてだ。

不安で、怖くて。


でも、後ろに人がいる。

咄嗟だったとはいえ、わたしが《防御シールド》で守った人だ。


一人だけど、一人じゃない。

その人を、見捨てるなんてできない。



「《地割れ(グラウンド・クラック)》!」


押し寄せる魔物に、土の中級魔法を使う。

これも範囲魔法だ。


割れた地面に、魔物達が吸い込まれていくのを横目で見る。

さらに、魔法を発動させる。


ーードォン!


「きゃあっ!」


いや、させようとしたところで、何かがぶつかる音と悲鳴がほとんど同時に聞こえた。

見れば、《防御シールド》に、魔物が体当たりしている。

すぐさま《火球ファイヤーボール》を放つ。幸いにも一撃で倒せた。


あまりランクの高くない魔物ばかりなのが、本当に幸運だ。

おかげで、初級魔法でも一撃で倒せる。


できるだけ《防御シールド》に攻撃されたくはなかった。

もし壊されたら、また同じように《防御シールド》を張れる自信はない。


「きゃぁっ!!」


しかし、またもドォンと音を立てて、《防御シールド》に魔物が体当たりされた。

火球ファイヤーボール》を放ち、倒す。


「…………………!」


しかし、その隙に、わたしの方に魔物が襲ってきたことに気付けなかった。


襲ってきたのは、魔物のランクでは一番下のEランクである、大山猫リンクス

だけれども、その爪の攻撃は、制服を切り裂いて、わたしに怪我を負わせるには、十分すぎた。


「《狂乱の風(フォリーウインド)》!」


魔力の温存などと言っていられず、再び風の上級魔法を唱える。

けれど、先ほどより威力が弱い。


魔法を使うときは、呼吸を整えること。

荒れた呼吸で魔法を使えば、威力が落ちる。


ダスティン先生に教えられたことを思い出すけど、この魔物に囲まれた状況で、呼吸を整えるのは不可能だった。


威力の落ちた上級魔法を、耐える魔物もいた。Eランクの一つ上、Dランクの胡狼ジャッカル


耐えきったと思ったら、一直線に襲いかかってきた。

動きが、早い。


「ーーいっ……」


躱せず右腕を噛まれた。痛みで声が漏れた。


「もういいです!」


後ろの《防御シールド》の中から、叫び声が聞こえた。


「わたくしのことなんか、放置していいですから! お願いですから、逃げて下さい!」


今にも泣きそうな声に、ほんの少し笑みが浮かぶ。

勢いよく飛び込んできたくせに、やられてばかりで心配かけてしまった事が、申し訳なかった。


でも、心配してもらえるのは、嬉しくて。

もう一度、気合いを入れ直す。


痛みがなんだ。

負けるわけには、いかない。


「《灼熱の業火(フレイムヘル)》!」


火の上級魔法。

その場に長く残り続ける炎だ。


魔物が怯んだ。

それを確認し、さらに唱えた。


「《爆発の轟火(デトネーション)》!」


これも火の上級魔法。

凄まじい爆発を引き起こす魔法。


爆発の音が凄まじいから、あまり使いたくないんだけど、それでも威力は抜群だ。

灼熱の業火(フレイムヘル)》の火によって、その爆発はさらに大きくなった。


「よし」


二度の上級魔法の連発で、周辺にいた魔物は、軒並み倒した。


ほんの僅か、空いた時間で、何回か呼吸を繰り返す。

完全には程遠いけれど、多少は呼吸が落ち着く。


「《砂嵐サンドストーム》!」


「《風の千本矢(サウザンドアロー)》!」


「《紅炎プロミネンス》!」


立て続けに魔法を唱える。

どれも中級魔法の、範囲魔法。


さらに魔物を倒す。

けれど、素早い魔物は捉え切れなかった。


「うしろっ!」


響いた悲鳴に、振り向けば、そこにいたのはDランクのウルフ

その口を大きく開け、鋭い牙が見えた。


「……………………っ……!」


先ほど胡狼ジャッカルに噛まれた右腕の傷に、重なるようにして噛まれた。


「《火炎光線ファイヤーレイ》!」


火の中級魔法を唱え、ウルフを倒す。

右腕から走る痛みを、歯を食いしばって耐える。


「《水流瀑布カタラクト》!」


再び、上級魔法を発動させた。

滝のようになだれ落ちる水が、魔物を倒し、押し流す。


右腕が痛い。

ちゃんと、回復魔法を使えるようになっておけば良かったと思う。

後になって悔やむから後悔なんだと、益にもならないことが頭をよぎる。


「危ないっ!」


再び悲鳴が響く。

ドスンドスンと派手な音を立てて、凄まじい勢いで、魔物が突進してきていた。

その頭に、尖った一本角が見える。

Cランクの魔物、ライノセラスだ。


躱さなきゃ。

そう思うのに、体が重い。動かない。


ーーだめだ、かわせない……!


スローモーションのように見える、ライノセラスの突進。

その一本角に自分が貫かれる光景が、見えた気がした。


「【隼一閃しゅんいっせん】!」


聞こえた声に、ハッとする。

ライノセラスが、一刀両断にされていた。

同時に、誰かに腰をグイッと引き寄せられる。


「…………え?」

「【百舌衝鳴閃もずしょうめいせん】!」


何が起こったのか、漏らした疑問と重なるように、わたしを引き寄せたらしい誰かは、さらに魔物に攻撃していた。


これは、剣技と呼ばれるものだ。

クラスメイトたちが使っているのを見た事があるし、言っている技名も同じだけど、本当に同じなのかと思うくらいに、威力が段違いだ。


「アレク!」


さらに別の声がした。

走って近づいてきている二人の男性。

かつて、一度ずつ遭遇した方たち。わたしが、すぐ逃げ出してしまった方たち。

ユーリッヒ様とバルムート様だ。


「ユーリ! 結界を!」


あれ、じゃあ、今わたしの横から叫んだのは……と思って顔を見れば、いたのは第二王子殿下だった。


「『光よ。我らと彼の者らを隔てる障壁を築け』! ーー《結界バリア》!」


ユーリッヒ様が詠唱し、周囲に光の結界ができる。

魔物が体当たりしているのが見えたけど、結界はビクともしない。


「たす、かった、の……?」


呆然とつぶやいて、つぶやいた事で、その事実を悟る。

力が抜けた。足が崩れる。


「おい、大丈夫か!?」


地面に倒れ込む前に、腰に回されたままだった手が、わたしを支えてくれたのだった。




とりあえず、改稿ははここまでです。

気付いたら、また修正したり割り込みしたりしているかもしれませんが。


番号がずれてしまっていますが、そちらはそのうち直します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] リィカの連続魔法詠唱シーンがカッコいいです。 戦闘シーンも臨場感があって良いと思います。
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