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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第二章 旅の始まりと、初めての戦闘

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剣を選ぼう

「ねえ、お風呂ってないのかな。ちゃんとお湯に浸かれるの」

朝食時、暁斗がそんなことを言い出した。


宿にある入浴設備は、せいぜいタライにお湯を張って、タオルで身体を拭くくらいである。

日本人からしたら、それはお風呂と呼べる代物ではない。


「多分、難しいと思うぞ」

答えたのはアレクだ。



そもそも、アルカトル王国でお風呂が普及しているのは、建国王アベルの影響だ。

王宮の他に、貴族の家にも浸かるタイプの入浴設備はあるし、大きな街などでは、共同浴場があるのが普通だ。


村レベルにまでなると、入浴設備など存在しない。……のだが、それも近年状況が変わっている。


「クレールム村でも、わたしが小さい頃にできたよ。男女分けて作れるほどじゃないから、一日おき交代での入浴だったけど」


入浴、つまり身体を清潔に保つ、というのは、病気の予防になる。

今のアベナベルド国王になってから、新しく入浴設備を作る場合、補助金が出るようになった。


そのおかげで、とても手が届く代物ではなかった小さな村であっても、入浴設備を作れるようになったのだ。


「へえー」

「あの国王陛下、いいことやってるんだな」


感心したように、暁斗と泰基がつぶやいた。

その横で、アレクが微妙に照れくさそうにしていたりする。


「それだけじゃないよ。……って言っても、わたしも村のお年寄りから聞いただけだけどね。生活魔法の魔石も前はものすごく高くて、貴族とか平民でもよほど裕福な人しか手に入れられなかったって。

 だけど、今の国王陛下になってから、かなり値段が下げられたんだって。安いって言える金額ではないけど、ちょっと頑張れば購入できるくらいの金額になって、おかげでかなり生活が楽になった、ってよく言ってた」


アベナベルド国王の功績を二つあげろ、と言われれば、大半の人が上げるだろう二つだ。


入浴設備によって病気が減ったことで、疫病対策に取られる時間と税金が減り、逆に税収が増えた。

魔石も値段を下げたことによって、よくお金が出回るようになり、結果、経済が回るようになった。


最初は渋っていた貴族も、さすがに認めざるを得ないくらいの結果なのだ。



しかし、それはあくまでもアルカトル王国内での話だ。

ここは、モントルビア王国だ。


今いる場所は、あの僻地の教会から半日ほどの所にある街、レソントだ。

主要な街道からは離れているため、それほど発達しているわけでもない。


大きな街であっても入浴設備などあるかどうか分からないのに、ここにあるはずもなかった。




「出かけよう、リィカ」

差し出されたアレクの手を、リィカは見つめる。


確かに昨日言われた。

でも、リィカは行くと返事はしていない。


それなのに、アレクにも、他の仲間たちにも、なぜか二人で出かけることが決まっているかのように話が進められていた。



すでに、バルとユーリ、暁斗は出かけている。

泰基は残ってゆっくりすると言っていた。


その泰基は、すぐ側にいるので、困って思わず視線を向けて、目を見開いた。

泰基が辛いような苦しいような、もの悲しい目で自分を見ていた。


泰基は視線が合うと、サッと視線を逸らす。

「行ってこい。アレク、リィカ」

すぐに戻った目は、いつも通りだった。



リィカはうつむいたまま、黙って歩いている。

問題は、手だ。

つながれた右手。


アレクに強引に右手をつかまれ、気が付けば指同士を組んだつなぎ方……いわゆる恋人つなぎをしている。

思わず離そうと手を引いたが、簡単にアレクに阻止されて、今に至っている。


「リィカ。まずは、剣を見てしまうか?」

アレクの声に顔を上げて、頷く。

今日の目的は、それだ。


(……っていうか、まずは、って何……?)

まずも何も、それだけのはずだ。

何となく嫌な予感を抱えながら、リィカは手を引かれるままに歩いていた。



この街に一軒だけある、武器屋。

宿の人から場所を聞いたが、そんなに品揃えは良くないよ、と言われていた。


中に入って、アレクはなるほど、と納得せざるを得なかった。

数も質も、どちらも良くない。


割り切って、練習用くらいのつもりで買った方がいいかもしれない、と思う。

物珍しそうにキョロキョロしているリィカを、微笑ましく思っていると、店主だろう人が声をかけてきた。


「いらっしゃいませ。何をお探しですか?」

「……え……と」

聞かれて口ごもるリィカに代わり、アレクが答える。


「彼女が使う剣を探しているんだ。レイピアとかスモールソードとか、軽めの剣を見せてくれないか」


「なるほど。軽めでしたら、あまりレイピアはお勧めしませんよ。軽そうに見えて、あれで結構重さがあります。それに、スモールソードもですが、どちらも突き技用の剣で人気がないので、ここには置いていません。

 ご注文が、軽めの剣というだけでしたら、ショートソードならございますが」


「……ああ、あれで重いのか。では、ショートソードを見せてくれ」

奥に入っていく店主を見ながら、リィカが首をかしげている。


「どうした?」

「……話が何も理解できなかった」


はっきり言えば、剣の種類が分からない。

レイピアは知っている。といっても、凪沙の知識だが。細身の刀身を持つ剣の事だろう。

ショートソードは、ゲームなんかで出てきたことがある気もするが、細かく気にしたことはなかった。


学園に通っていた頃、クラスメイトたちは普通にただ「剣」としか言っていなかった。

授業でやったかどうかは、記憶にない。


アレクたちが持っている剣も、それぞれ違うなぁ、くらいの認識はあったが、何がどう違うかは、よく分かっていない。



「スモールソードは、レイピアを小型化したものだと思ってもらえればいい。ショートソードは、ロングソードを小型化した感じだな。レイピアは、昔一度だけ手に持ってみたことがある。細くて軽かった、という印象だけ残っていたんだが、まさか重めと言われるとは思わなかった」


昔を思い出しつつ、話をしていると、店主が戻ってきた。

「お待たせしました。こちらの二本と、あとは店頭に並んでいるものですね。どうぞ、手に取ってみて下さい」


持ってきた二本のうちの一本を見て、アレクが目を見張った。


店頭に並んでいるショートソードは、そんなに質がいいわけではない。

持ってきたうちの一本は、店頭に並んでいるのよりも若干大きめだが、質は変わらない。


しかし、残るもう一本は、明らかに質がいい。

「……店主、これは?」

アレクが示すのが何か、すぐに店主は理解したようだ。


「以前、冒険者が置いていったものですよ。どこかで拾ったものを、荷物になるから安くていいから引き取ってくれ、と言われて、引き取ったものです」


アレクは昔聞いた話を思い出す。

冒険者とは、死と隣り合わせの職業だ。

魔物と戦って、あるいは単純に道に迷って、食料がなくなって、移動の途中で死んでしまうことは珍しくない。


そうして残された武器などを見つけて拾って、売り払うのは良くあることらしい。

別に慈善事業じゃないからな、とダスティン先生が言っていた。


しかし、拾った武器は、言ってみればただの荷物だ。

高く売れればそれに越したことはないのだろうが、元手がタダなので、少しでもお金が手に入るならラッキー、程度に考える人が多い、と聞いた。

つまりは、この剣もそういうものなんだろう。


「リィカ、手に取ってみろよ」

ジッと剣を見たまま動かないリィカに声を掛ける。


コクン、と頷いて順番に手に持っていくリィカだが、三本全部持って、リィカは何とも言えない顔をした。


「……よく分かんない」

「ま、そうだよな」


これまで剣に触れたこともない人間が、手に持っただけでいきなり剣の善し悪しが分かるはずもない。


代わりに、アレクが手に持つ。

軽いな、と思いながら順番に持って行くが、やはり質のいい物は違う。


「これ、いくらだ?」

店主の答えた金額に、リィカは目が飛び出るかと思った。


「――たかい!!」

「そんなものだろ。むしろ、安いくらいだぞ。――これを頂くよ。あと剣帯が欲しいんだが」

「待って、アレク。高すぎるよ。もっと安いのでいいから」


あっさり言ったアレクに、リィカは驚いて抗議の声を上げる。

しかし、アレクは気にした様子はない。


「大丈夫だ。そのくらい、大したことない。せっかくいい物があったんだから、買えるときに買った方がいい」


元々、支度金は国王からたくさんもらっている。無駄遣いをするつもりはないが、必要なものを渋る必要はない。


「剣帯の料金はオマケしておきますよ。ここで付けていきますか?」


クスクスと笑いながら店主が言ってきて、リィカの顔が赤くなる。

サッサと支払いを済ませたアレクが、品物を受け取る。


「動くなよ、リィカ」

言うや否や、腰に手を回してきたアレクに、リィカが固まる。


剣帯を付けて、さらに剣の装着までアレクの手でされた。

そして、固まったままのリィカの手を取り、引っ張った。


「ありがとうございました」

店主の声を聞いてリィカは我に返ったが、その時にはすでに手はしっかり握られていた。


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