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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十九章 婚約者として過ごす日々

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リィカVSセシリー③

「なぜわざわざ距離を詰めるんだ。遠方から攻撃していればいいものを」


 リィカが剣を弾き飛ばされたとき、おそらく一番慌てたのはアレクだっただろう。バルが止めていなければ、試合に割り込んでいたかもしれない。


「セシリーに合わせたんだろうさ。一応、申し込まれたのは剣の試合なんだから」


 バルもアレクの言いたいことは分かる。リィカの方からわざわざ接近戦を仕掛けたのだ。そんなことをしなくても、と言いたくもなるだろう。何をどうしたところで、接近戦ではセシリーの方が強い。


「ユーリも同じことをやってたな。やって、ブレッドに剣を飛ばされてたぞ」

「……そうなのか?」


 アレクが聞いたのはブレッドである。そのブレッドは、非常に不満そうにしつつも視線を逸らせた。


「うっさいな」


 その様子にアレクは察した。その後の流れまで、この試合と同じだったんだろう。


「本気の戦いを挑んでおいて、油断したのか」

「格上との戦いで、剣を飛ばしたんだぞ。勝ったと思って何が悪い」

「格上だからこそ、わずかなチャンスを活かさないでどうする? そこで勝ったと思ってしまう辺りが、本気で命のやり取りをするつもりがなかった何よりの証拠だ」


 ブレッドが言葉に詰まる。それを宥めるようにバルが苦笑して、間に入った。


「その辺にしとけ、アレク。ブレッドだって分かってるさ。ユーリにキツイ言葉をもらってるしな」

「それもそうか。……悪かったな、ブレッド」

「別に、いいさ。言ってることは何も間違ってねぇ」


 そうは言いつつ、アレクとは目を合わせようとしないが。

 ブレッドなりに色々考えているんだろうと判断し、アレクはリィカに目を向ける。そして、僅かに眉をひそめた。


「……拳にエンチャントをかけて、手は大丈夫なのか?」


 リィカの剣の持ち方が、微妙にぎこちない気がした。



※ ※ ※



 リィカは剣を握る。なるべく自然に持っているように見せているが、通じているだろうか。

 ズキンズキンと手が痛む。先ほど、自分の右手の拳にエンチャントをかけて攻撃した。それがどう作用したのか、かなりの痛みだ。


 利き手の右じゃなく左手にすれば良かった、と今さらながらに思うが、多分左手ではうまく攻撃を命中させられなかっただろう。あの状況では、右手にエンチャントをするしか方法が浮かばなかった。


(やっぱり、あの一撃で終わらせちゃえば良かったかな)


 変なことを思わなければ、今頃は「いたいー!」と叫んで、ユーリに治してもらうことができたのに。けれど、あの隙を突いた攻撃で終わらせてしまうのは、セシリーのためにならないと思ってしまったのだ。我ながら偉そうな考えだと思うが。


 だがそのせいで、今痛いのを隠して我慢して、こうして剣を構える羽目になってしまったのだが。


「行くよっ!」


 その宣言と同時に、セシリーが斬りかかってきた。それを、リィカは受けずに躱して対応する。受けたところで、この手で受けきれる自信はない。


(さて、どうしようかな)


 このままでは、追い込まれるのはリィカの方だ。接近戦では、どうしたってセシリーの方が強い。そして一番の問題は、セシリーが剣技を使わずに普通に剣を振るってきていることだ。


 剣技を放つには、多少の“溜め”が必要だ。距離をあけて発動される剣技三つはもちろん、近距離で発動される直接攻撃の剣技でも、その溜めの時間に魔法を唱えることは可能だ。


 だがセシリーは剣技を使わず、普通に剣を振るってきている。そのせいで、魔法を唱える余裕がない。セシリーはきっと、ここまでの戦いの中でそのことに気付いたのだ。


(落ち着け。焦るな)


 そう言い聞かせる。この状況こそが、元々自分たちが剣を習い始めた理由だ。近接戦を仕掛けてくる相手を、剣で動きを止めて魔法を唱える。リィカの剣はそのための剣だ。


「……っ!」


 だが、言うほど簡単なわけじゃない。痛みがある今は特に。

 全てはかわせず、時には剣で受け流す。右手の痛みに剣を手放しそうになるが、そうしたら負けだ。二度目の油断は期待できない。


(まだだ。落ち着け)


 必ずどこかで反撃のチャンスは来る。きっと、この状況に焦りを見せるのは……。


「――!」


 セシリーの動きが大きくなった。大きく振りかぶって、一気に勝負を決めようということか。でもそれは……。


 ――ガギィンッ!


「なっ!?」

「わたしも、待ってたんだよっ!」


 リィカはガッチリとセシリーの剣を受け止めていた。右手どころか腕全体に衝撃が響くが、根性で耐える。


「《火の付与フレイム・エンチャント》!」


 エンチャントを唱えることに成功した。剣が炎に包まれ、そこにリィカはさらに魔力付与をする。

 大きく燃え上がった炎に、本能的にセシリーが後ろに下がろうとした瞬間、リィカは剣を思い切り振り抜いた。


 ギィンと音を立てて、セシリーの剣が手から離れて落ちる。――そして間髪入れずに、リィカはその首元に剣を突きつけていた。


「わたしの、勝ちだよ」

「……そうだね。あたしの負けだ」


 セシリーは笑う。それを確認して、リィカは剣を引いて、エンチャントを解除する。そして、その場に座り込んだ。


「つかれたー。いたいー……」

「は?」


 セシリーが目をまん丸にする。

 アレクが駆け寄り、ユーリも苦笑しつつリィカの元へと歩いてくる。


「リィカ、やっぱりその右手」

「うん、いたい」

「拳にエンチャントなんてかけるからですよ」

「だって、他に方法浮かばなかったんだもん」

「はいはい。《回復ヒール》しますから、大人しくして下さいね」


 ユーリがリィカの右手を回復している。その様子を見て、セシリーは驚いていた。


「リィカ、ケガしてたの?」

「ケガっていうか何ていうか……。右手にエンチャントかけたでしょ? あれですごく手が痛くなって……。なんで?」


 アレクやユーリには、ごまかしていたことがバレていたらしいが、セシリーは騙されてくれたらしい。聞かれたユーリは、肩をすくめた。


「支援魔法以外の魔法は攻撃魔法だと考えると、エンチャントだってそうなんですよ。武器は痛みを感じないでしょうけど、人の身に掛けられれば攻撃になるということですよ」

「……そうですか」


 ガクリと肩を落とす。しかし、あそこでエンチャントを使わなければ負けていた。そう思えば、しょうがないのだろう。


「はい、回復終わりですよ。――セシリー嬢も《回復ヒール》必要ですか? リィカの攻撃をまともに受けてましたけど」

「……え? あ、いや、あたしは……」


 セシリーは攻撃された腹部に触れる。確かにあの時は痛かったが、それだけだ。考えてみれば、その後の攻撃でも痛みに邪魔はされなかった。


「リィカ?」

「一応、加減はしたから。それで重傷負わせちゃっても嫌だったし」

「…………はぁ」


 セシリーは大きく息を吐いて、今度は諦めたような笑みを見せた。


「ホントにすごいね、リィカ。右手の痛みだって、全く気付かなかった」

「気付かせないようにしたからね。成功してるかどうか自信なかったんだけど、良かった」

「良かったじゃないよ」


 やや憮然と言って、その後リィカに頭を下げた。


「ありがとう、リィカ。本気で戦ってくれて、嬉しかった」

「ううん、わたしこそ。わたしも、まだまだだなぁって思った。もっと練習しないと」

「……あのね、リィカは魔法使いなんだからね? 分かってる?」


 確かに剣の腕は「まだまだ」なのだろうが、リィカの専門は魔法である。「まだまだ」な剣で戦ったから試合になったのであって、魔法を使っていたらセシリーは何もできずに負けていたはずだ。


「でも、そういうところなのかも、しれないね」


 リィカの……勇者一行の強さは。きっと、どんな戦いも無駄にしていない。自分たちの成長する糧としている。そうしないと、ここまで戦って来られなかったのだ。


「そういうところ……?」


 リィカが不思議そうに首を傾げたが、セシリーは笑うだけ。それにさらに不思議そうにしたが、そんなリィカにアレクが手を伸ばした。


「これで終わりだな。リィカ、戻って休め」

「――待ってアレクっ! なんで抱き上げるのっ!?」


 そう、今リィカはアレクに横抱きに抱え上げられていた。それをユーリとバルが呆れてみているのだが、リィカもアレクも気付かない。


「疲れたんだろう? 寮まで送っていくよ」

「いいってばっ! 自分で歩けるからっ!」

「気にするな。ここは甘えておけ」

「気にするっ!」


 リィカは暴れるが、アレクがあっさり抑え込む。セシリーはキョトンとして、バルとユーリは、旅の間から何度となく見た光景にツッコむ気にもならない。それでもユーリはアレクの後について歩き出した。


「別にこなくていいぞ、ユーリ」

「あなたが本当に寮に送るのかを見届けようと思いまして」

「……なんでだよ」

「そのまんま城に連れ込む可能性があるからだろうが」


 バルもついてきた。アレクはムッとなったが、何も言い返さない。その様子に、リィカがギョッとなった。


「お城連れてく気だったのっ!?」

「寮だ寮! 最初からそう言っているだろう! バルもユーリも変なこと言うなっ!」


 四人は、普段通りの会話をしながら去っていく。それを見ながら、セシリーも試合場を降りつつ、視線を向けたのはブレッドだった。


「よしっ! ブレッド! 今から手合わせしよう!」

「アホかっ! 今日は休みやがれっ!」


 もっともすぎる言葉に、セシリーがやや不満そうにして、そこにミラベルが近寄った。


「その通りだと思うわ。セシリーだって疲れたでしょう?」

「……うん、まぁね」


 セシリーは苦笑いしつつ、それを認めた。そして、リィカたちが去っていった方を見る。


「でも、本当にすごかった」

「そうね」


 ミラベルも同じ方向を見る。直接戦っていなくても、セシリーの気持ちは分かった。


「私も、もっと頑張るわ。そしていつか、戦いを挑んでみる」

「うん」


 笑顔で見合わせて、どちらからともなく寮へと足を進める。

 それがほんの一端であったとしても、勇者一行の本気を見た学生たちは、それぞれの想いを持ってその場を去っていったのだった。



 ――そしてそれは、()もだった。


「……何なんだよ、剣もあんなに強いのかよ」


 ナイジェルだった。


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