表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十九章 婚約者として過ごす日々

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

673/677

リィカVSセシリー①

 それから数日たち、放課後。

 リィカはセシリーと試合場で向かい合っていた。


 場所は、三年目の最初に模擬戦を行った、大きく豪華な試合場だ。場所を聞いたとき、リィカは目立ちたくないと思ったが、観戦したいという希望も結構あるようで、ほぼ強制的にその場所になってしまった。


 ちなみにユーリとブレッドの戦いもこの場所だったらしい。ある意味、そのせいでリィカとセシリーの戦いに興味を持つ人が増えたといっても過言ではない。


 今、リィカはまだ試合場の外にいた。セシリーと向かい合っているが、その雰囲気はまだ友だち同士のそれである。


「リィカ、剣の練習できたの?」

「――全然」


 セシリーに聞かれて、リィカはガックリ肩を落とす。ユーリと戦うと、どうしてもエンチャントの応酬になってしまうし、レンデルやミラベルが「教えて!」と言ってくるせいで、練習らしい練習にならなかった。


 そう説明すると、セシリーは苦笑した。


「アレクシス殿下に教えてって言ったら、あたしじゃなくリィカを教えてくれたと思うけど」

「だって、セシリーと先に約束したんでしょ? それなのに、そんなことできないよ」


 そう言うと、セシリーの笑みが深まった。


「……リィカのそういうところ、好きだよ。自分は勇者一行なんだって、いくらでも強く出られるのに、そうしない。誰が相手でも、対等であろうとする」

「友だちだもの。そんなの当然でしょ?」

「それを当然だって言ってくれるからだよ。……ベルもそうだけど、あたしはホントに友人に恵まれてると思う」


 そして、セシリーはリィカに手を出した。


「今日はよろしく、リィカ。あたしのワガママ聞いてくれて、ありがとう」

「わたしこそ、よろしく。――正直に言えば、なんでセシリーがそんなに戦いたいのか、わたしには分からない。けど望むように本気で戦うよ」


 分からないからこそ、本気で戦う。きっとそうすることで、何かが分かるかもしれないから。


 リィカも手を出して、二人の手が握り合う。そして、どちらからともなく手を離し、お互いに試合場へと登った。



※ ※ ※



「試合開始の合図は?」

「本番の戦いに、そんなものないよ」

「ごもっとも。じゃ、遠慮なく」


 セシリーの問いにリィカが答え、それを受けてセシリーがその場で地面を蹴った。アレクほどじゃない。しかし、素早い動きでリィカの前に躍り出る。その時にはすでにセシリーは剣を抜き放っていた。


「【天馬翼轟閃てんまよくごうせん】!」

「…………!」


 唱えられたのは、風の直接攻撃の剣技だ。

 リィカは咄嗟に魔法を使おうとして……それが禁止であったことを思い出す。舌打ちの一つもしたかった。今からエンチャントは間に合わない。その代わり、脳裏によぎったのは……。


『剣技への対抗手段?』


 旅の途中に、泰基に質問したことがある。バルと戦ったアシュラが剣技を使った。であれば、他にも使う魔族がいるかもしれない。

 魔法を使う暇もなく剣技が放たれてしまったとき、どう対抗したらいいのか。そう聞いたとき、泰基は少し考える様子を見せて、言った。


『遠距離攻撃ができる剣技二つは、普通に魔法で対抗できるだろ。突き技の剣技もだ。遠距離の二つほどじゃないが、距離があっても発動できる剣技だから、逆にお前たちには有利だ。だから、警戒すべきは直接攻撃の剣技のみだろうが……』


 リィカはフッと笑う。泰基が日本に帰っても、旅の間では使うことはなくても、教えてもらったことはちゃんと自分の中に残っている。


『直接攻撃の剣技は、そのインパクトの瞬間に放たれるもの。だからほんの少し、()()()()やればいいだけだ』


 セシリーの放つ剣技の軌道を見ながら、リィカは一歩後ろに下がる。それだけで焦点がずれる。とはいっても、セシリーも剣技の実技三位を争う実力の持ち主。この程度、簡単に対応してくるだろうが、それでも一瞬の間は空いた。


「《土の付与(アース・エンチャント)》!」


 今度こそ、エンチャントを唱えることに成功する。

 セシリーは決して空振りすることはなく、リィカの空けた一歩の間に対応して、剣を振り下ろそうとしていた。その眼前に、リィカの唱えた《土の付与(アース・エンチャント)》が大きく広がった。


「なっ!?」


 普通《土の付与(アース・エンチャント)》とは、剣を土が覆って厚みと長さが増す魔法だ。これを使うと、切るというよりは打撃に近い攻撃になる。

 しかし、今リィカが唱えたものは、剣を中心に土が長方形に広がっていた。それを日本人が見たならば、「盾」と表現しただろう。その盾が、セシリーの放った剣技を受け止めたのだ。


 セシリーの驚く声を聞きながら、リィカは魔力を流した。


「弾けて!」

「っっっ!」


 土でできた盾が、リィカの指示に応じて弾ける。小さな土塊がセシリーへとぶつかり、慌てたセシリーが後ろに下がる。リィカは、エンチャントの解けた剣に再び魔法を唱えた。


「《風の付与ウインド・エンチャント》!」


 剣の周りに風が渦巻く。その剣を、リィカはその場で横に薙ぐ。その動きに合わせて、渦巻いた風が、ムチのようにセシリーに伸びた。


「ムチャクチャ……っ」


 セシリーが毒づくのが聞こえた。この風のムチは結構使っているのだが、アレクやバルから聞いてはいないんだろうか。そんな疑問がわいたが、攻撃の手は緩めない。


「【金鶏陽王斬きんけいようおうざん】!」


 唱えられたのは火の直接攻撃の剣技。風のムチの不規則な動きに惑わされることなく、剣技は確実にその動きを捉えて相殺する。

 けれど、とリィカは口元を緩める。あくまでもムチが相殺されただけ。エンチャントはまだ残っている。


 リィカは再び剣を構え、横薙ぎに切る。剣から、複数の小さい三日月型の風が放たれた。



※ ※ ※



「チャンスがあるとするなら初撃だと思ったが、駄目だったか」

「剣技への対処はユーリもやってたから、リィカも知ってっとは思ったが」

「タイキさんが教えたのか?」

「ああ。らしいぞ」


 アレクとバルは、二人の戦いを見ながら会話を交わす。

 この場にユーリはいない。離れた場所で、レンデルやミラベルといった魔法組と一緒にいる。代わりに、というわけではないが、この場にいるブレッドが口を開いた。


「教えられただけで簡単にできるもんでもないだろうが」


 ユーリにいなされて、リィカも躱してみせた。一応、剣には自信があるというのに、格上とはいえ魔法職にそれをされたことが悔しくてしょうがない。

 そんなブレッドに、アレクが肩をすくめてバルは苦笑した。


「俺たちと剣を合わせた影響だろうな」

「ああ。手加減をしていたとはいっても、おれたちと手合わせしてたせいで、色々と見切れるようになってやがる」


 剣を振るスピードが速いのもそのせいだろう。ユーリもリィカも、何とか自分たちに食らいつこうとした結果なのだ。


「迷惑極まりない話だな」


 ブレッドのしかめられた顔は、心の底からそれを言っていることが分かる。それを分かっていながら、アレクが言ったのは別のことだった。 


「だが、やはりリィカがすごいのは魔法だ。あの一瞬で、エンチャントを発動したんだから」


 たった一歩の間を修正するだけの、ほんの僅かな間で。


 リィカとユーリが剣を習おうとするきっかけとなった、ポールとパールとの戦い。もしあの時に、これだけの早さで魔法の発動ができていたなら、きっと二人が剣を習うこともなかっただろうと思う。


 そうであれば、今この試合が行われることもなかったはずだ。それが良かったのか悪かったのか、それを判断するのはユーリであり、リィカだろうが。


 アレクはフッと笑った。


「どちらにしても、もうセシリー嬢に勝ち目はないな」


 その言葉にバルも口元を緩め、ブレッドは逆に不満そうに口を結ぶ。

 だが、どちらも何も言わず、試合場を見上げたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ