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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十九章 婚約者として過ごす日々

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翌朝

 翌朝の学園で、リィカは妙に疲れた様子のユーリに、首を傾げた。


「……どうしたの?」

「昨日、ブレッドと戦って勝ったのはいいんですが、今日朝から練習に付き合わされたんですよ」

「あ、勝ったんだ」


 リィカがセシリーと約束した、剣のみでの“本気”の戦い。それと同じ約束をブレッドとユーリもやって、そして昨日の放課後に戦っていたことは知っている。つまりは、昨日リィカがミラベルやレンデルに魔法を教えているとき、ユーリはブレッドと戦っていた。


 見にいかなかったのは、レンデルとの約束があったこともあるが、来なくていいとユーリ本人に言われたからだ。バルは見ていたらしいが、そのバルはここにはまだ来ていない。


「勝ちましたよ、当たり前でしょう。魔族や魔王と戦うつもりでと言われて、そう簡単に負けてやるわけにはいきませんから」

「――そうだね」


 ブレッドやセシリーがどういう気持ちでそれを言ったのかは分からないけれど、リィカたちにとってそれの負けは、死や奴隷になることと同意だ。何をしたところで、負けるわけにはいかない。


「それで勝ったのはいいんですけどね、逆にそれでやる気が漲ってしまったらしくて。朝練してますよ。僕も付き合えと言われて行きましたけど、普通の訓練じゃ役に立ちませんから。早々にバルに押しつけてきました」


 なるほど、と思って苦笑する。訓練の役に立たないことを分かっていても行くのは、ユーリらしくない。つまりは、それだけ昨日のブレッドの戦いぶりを評価したということだろうか。


「セシリー嬢も見てましたよ」

「……そっか」


 ユーリがサラッと言った言葉に、一瞬押し黙る。


「きっと、ブレッドと条件は揃えてくるでしょう。魔法であってもエンチャントだけは使用していいと言ってくるはずです。……僕は意表を突くことができましたけど、セシリー嬢は分かった上で対策を取ってくるはずです」


 そうだろうなと思う。通常のエンチャントとは違う、自分たちのエンチャントの使い方。意表を突けるのは初見のみ。でも、とリィカは笑ってみせた。


「――わたしのはユーリと違うから」

「ま、そうですね」


 光魔法でのエンチャントの使用方法と、リィカの持つ四属性のエンチャント使用方法は、自ずと変わってくる。ユーリの戦いを見てしまったからこそ、余計に考えが狭まる可能性は十分にある。


「わたしも剣の練習しようかなぁ……」

「やっても意味ないですよ。ただ普通に剣を振るうだけで勝とうと思うには、日数が足りません」

「それもそっか」


 セシリーと戦う日まであと四日。最後まで足掻くのもいいだろうが、やるならエンチャントの練習をした方がよほどいいだろう。

 それに、今回のリィカは「挑戦を受ける側」だ。であれば、変なことはせずにどっしり構えて待ち構えるのもありなんだろうか。


(いや、ムリ)


 自分でその考えを否定した。正直なところ、リィカもそこまで余裕があるわけではない。自由に魔法を使っていいならともかく、使えないなら不利なのは自分の方だ。であれば、できることはやっておきたい。


「それよりリィカ、レンデルは混成魔法を発動できたんですか?」

「あ、うん、それなんだけど、ユーリにも見てほしくて」

「……?」


 不思議そうにするユーリに、リィカは昨日のことを説明していく。聞いていくうちに、ユーリも興味深そうな顔をした。


「へぇ。詠唱すると魔力をバカ食いする、ですか。面白いですね」


「うん。《熱湯アクア・カリエンテ》であれだけ魔力を消費するってなると、発動できる人ってかなり限られると思う。だから、昔混成魔法の発動が成功しても、それが広まっていくことはなかったのかなって思った」


 レンデルも、魔法の実技第三位につける実力の持ち主だ。その魔力量も、決して少ないわけではない。そのレンデルが、魔力を枯渇させてしまうほどの魔法を使える人は、そうそういなかっただろうと推測できる。


 一般的に、混成魔法は発動が難しいから手を出すな、と言われているのだ。


「今日の放課後にでも、実験しましょうか」

「わたし練習するからダメ」

「練習したって変わらないと言ったでしょう」

「それでもやるの」

「真面目ですね、リィカは」


 そう言って笑われたが、ユーリのような気楽な気持ちにはなれない。セシリーの真剣な様子を思い出せば、自分もしっかり受けて立たないとと思う。


「何の練習をするの?」


 唐突に声をかけられた。そっちを見れば、いたのはセシリーとブレッド、そして練習に付き合っているというバルだ。そういえば、セシリーも朝早くに学園に行ったと言って、寮では顔を合わせなかった。


「もちろん、剣の練習だよ」


 セシリーにそう答えれば、あからさまに顔をしかめられた。


「リィカは練習しなくていいってば」

「そう言われても、わたしだってセシリーが思うほど余裕はないよ」

「……自己評価が低いのか、あたしを高く見過ぎなのか。正直、昨日のユーリッヒ様の試合を見て、勝てると思えなくなったんだけどね」


 リィカは首を傾げた。頭に浮かんだ言葉をそのまま言うのは、大切な友だちに対してどうだろうとは思ったけれど。


「セシリーは、勝つつもりでいるんだ」

「…………」


 無言だったが、その表情が引き攣ったようにリィカには見えた。


「……ただ勝ちたいだけなら、本当に剣だけの試合にすればいいんだろうけど」


 気を取り直したように、セシリーが口を開く。


「リィカは、剣技は使えないんだよね?」

「うん」

「それなら試合のときは、リィカはエンチャントだけは魔法を使っていいよ。あたしは魔法も剣技も両方使う。それでいい?」

「分かった、いいよ」


 リィカが頷くと、セシリーは踵を返して離れていく。ブレッドがそれを見て、ニッと笑った。


「ユーリッヒもこんくらい言ってくれりゃ、面白いのに」

「なぜあなた相手に言ってやんなきゃいけないんですか」

「あ、ひでぇ」


 ゲラゲラ笑うと「またな」と去っていく。残ったバルは、苦笑した。


「一応、ブレッドにもセシリーにも言ったんだけどな。ユーリやリィカに魔法を使わせたら、勝ち目ねぇぞってな」

「剣だけじゃ、何をどうしたって僕たち側の勝ち目がありませんけどね」

「それもそうだ」


 バルが笑う。リィカは苦笑した。はっきり言って、自分もユーリも“勝つため”の剣の練習はしていないのだ。あくまでも魔法を使うために必要な、時間稼ぎのための練習しかしていない。そのせいで、生粋の剣士に勝つのは実質上不可能だ。


「セシリーもブレッドも、ただ勝ちたいってわけじゃないんだよね」


 なぜいきなりあんなことを言い出したのか、その理由をリィカは知らない。キャンプのときにそう思った、という話を聞いただけだ。

 誰に聞くという風でもなく言った言葉だが、それにバルが反応した。


「まあ強い奴と戦いたいって剣士のさがだと言っちまえばそれだけだが。――見てみたいんだろうさ、おれらが見て感じたものを、ほんの少しでも。魔王誕生なんて時代に生きていた。だから、ほんの一端でもそいつらがどんな存在だったのか、どの程度強いのか、見て感じたい。んなところだと思うぞ?」


「んー……」


 リィカは唸った。分かるような気もしなくもないけれど、やはり自分が当事者だからか、よく分からない。知らないなら知らないでいた方が幸せだと思うのだ。


「無理に分かる必要はないと思いますよ。僕もなぜ、あんな命がけの戦いを知りたいと願うのか、さっぱり分かりませんから」

「そうだよね」


 頷き合っている魔法組を見て、バルはチラッとブレッドやセシリーを見たあとに、声を潜めた。


「本当のところでの命のやり取りなんか、想像してねぇんだろ。魔族や魔王と戦うくらい本気でと言ったところで、自分が殺される可能性なんか欠片も考えてねぇ。だが、そこはしょうがねぇと思うぞ」


 彼らも、魔物とくらいは戦っていただろうが、魔族や魔王との戦いは、それの比ではない。そんなことは、実際に戦ってなければ分からないことだ。


「ユーリはもうちっと、殺気を叩き付けてやれば良かったんだ。そうすりゃ、ブレッドはきっと動けなくなったぞ」

「……………」


 思わぬバルからのダメ出しに、ユーリは口を曲げた。


「殺すつもりもない相手に、どうやって」


 殺気とはすなわち、相手を殺そうとする気配である。だが、いくら本気とはいっても、ただのクラスメイト相手に、そんな気持ちになれるはずがない。せいぜい出せて、「絶対負けない」という気迫程度である。


「そうか? 剣士だと、殺す気なくても殺すつもりで殺気を出せるもんだが」

「意味が分かりません」


 ユーリが一刀両断し、リィカもそれに頷く。バルはややゲンナリした顔をしたが、その辺も剣士と魔法使いの差なのだろう。


 リィカは、バルの言いたいことが分からないわけではない。渚沙だった頃に読んだ漫画とか小説とかには、そんな表現が多々出てきたからだ。だが、それを自分でやるとなると、チンプンカンプンである。


「やっぱり剣の練習だなぁ。ユーリ、相手して」

「僕が相手をしてどうするんですか。バルかアレクに頼んで下さいよ」

「その二人が相手だと、強すぎて練習にならない」

「それは分かりますが、僕よりはマシですよ」

「……褒めてんのか貶してんのか、分かるように話せ」


 リィカとユーリの会話を聞いて、バルはツッコむ。そして告げた。


「悪ぃが、おれもアレクもセシリーから練習相手を頼まれててな」

「そうなの?」

「俺がなんだって?」


 登校してきたアレクが、話に入り込む。それに三人とも驚いた様子もなく、リィカが答えた。


「セシリーとの剣の戦いに備えて、練習相手をお願いできないかなって話してたの」

「俺は構わないぞ」


 アレクがあっさりと頷いたせいで、セシリーと約束したんじゃないんだろうかという疑問すら、口から出てこない。


「……えっと」

「おいこらアレク、お前セシリーに相手を頼まれて了承してたじゃねぇか」

「リィカより優先するものがあるわけないだろう」

「どアホが。先にした約束を守れ」

「……分かった。セシリー嬢に断ってくる」

「うわっ待って! そんなことしなくていいから! セシリーを優先して!」


 アレクが本気でセシリーの方に足を向けたので、リィカは慌てて止める。そんなことをされたら、セシリーに悪すぎる。リィカがいつまでも気にしてしまって、それこそ友だち関係を続けられなくなりそうな気がする。


 だが、アレクがリィカに向けた目は、ヤケに複雑だった。


「……リィカはそれでいいのか。俺がセシリー嬢を優先しても」

「え? うん。だって、約束したんでしょ?」


 言わんとしていることが分からず、リィカは首を傾げる。アレクの目が寂しそうな色に染まり、バルとユーリが苦笑する。


「……そうか、ならいい。だがリィカ、こういうときはできれば」


 いったん言葉を切って、その口をリィカの耳元に持っていった。


「なぜ自分より他の女を優先するんだと、言ってくれた方が嬉しい」

「……へ?」


 その内容よりも、アレクとの距離が恥ずかしくなって、リィカの顔が赤くなる。耳を押さえた。

 それを見て、アレクがニッと笑った。


「俺が、カタルと仲良くしているリィカを見て寂しくなったように。リィカもそうなってくれると、俺としては嬉しいんだけどな」


 ようするにヤキモチを焼いて欲しいのだが、リィカにそういった感情はあまり通じない。だから代わりに「寂しい」という単語を使えば、リィカは目に見えて慌てだした。


「い、いや、わたしは、その……」

「その、なんだ?」

「いやもうだから! 約束したんなら、ちゃんと守ってよ!」


 アレクに迫られて、リィカは真っ赤な顔で絶叫したのだった。


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