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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第二章 旅の始まりと、初めての戦闘

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追憶―アレク⑧―、そして目覚め

長かったアレクの過去も、これで終わります。

 〔アレクシス〕


それからというもの、平和な日が続いた。

何が一番大変だったか、と聞かれて出る答えが、兄上に剣の稽古をしてもらうこと、なのだから、平和だったんだろう。


しばらく、兄上は剣の稽古をしていないらしい。

なんと言っても、まずは体力的な問題があって、剣の稽古どころではなかった。


しかし、今では義姉上以外が作ったものも、食べられるようになっているらしい(この頃から、兄上の婚約者のことを、義姉あねと呼ぶようになっていた)。


俺も兄上を見た時に、まだ細くはあるが、それでもしっかりしてきているのが分かって、すごく安心した。


そろそろ問題ないだろうからと、剣の稽古が始まったらしいのだが、兄上はいっこうに訓練場に姿を見せていないらしい。


「え? サボっている?」

その話を最初に聞いた時は驚いた。兄上がまさかサボるという行為をすると思っていなかった。


「ええ、そうなんです」

ヒューズ副団長の笑顔が怖い。


「と言うことで、アレクシス殿下。アークバルト殿下を引っ張ってきて下さい」

何が、と言うこと、なのかは分からなかったが、逆らえる雰囲気ではなかった。



兄上の部屋に行くと笑顔で迎えてくれたが、事情を話すと笑顔が固まった。

その表情を見て、本当にサボっていたんだ、と納得してしまった。


「……しょうがない、行くか」


すんなり同行してくれた。どうやって説得したらいいのか、と考えていたので、肩すかしを食らった気分だ。



訓練場では、ヒューズ副団長が待ち構えていた。

兄上の姿を見ると、こめかみがピクッとなったのが分かった。


「おや、アークバルト殿下。初めて来て頂けて、大変嬉しく存じます」

言葉だけは丁寧だが、棘だらけ、嫌みたっぷりで怖い。


「――何でアレクが迎えに来る?」

対する兄上の声は、聞いたことがないくらいに低い。


「国王陛下より、アレクシス殿下を前面に押し出せば、アークバルト殿下も強く出られない、と助言を頂きましたので、それを参考にさせて頂いたまでです」


「――……ぐ……」

「……は? ……俺?」

兄上が小さくうめいたのが聞こえたが、なぜここで俺の名前が出る?


「アレクシス殿下が迎えに行って、それをアークバルト殿下が断れば、アレクシス殿下が責められるでしょう? それが嫌だから来て下さったんですよ」


「――……ぐぐぐ……」

兄上にうめきが大きくなった。――どうやら本当らしい。


「あの、兄上……すいません……」

思わず謝れば、副団長に睨み付けられた。


「……………………はあ。分かったよ。やればいいんだろう」


「最初からそう仰って頂ければ、アレクシス殿下を巻き込まずに済んだんですけどね」

副団長の嫌みたっぷりの返事が返ってきた。が――、


「いや、このまま巻き込む。――アレク、私に剣を教えてくれ」

「……………………は?」


あっさり言った兄上の言葉に、俺は呆然とつぶやいた。



人に教えたことなどないのに、副団長が賛成したせいで、俺はなし崩しに兄上に剣を教えることになった。


すぐに上達するわけもないし、そもそも俺がきちんと教えられていないのもあるだろうが、上手くいかない、と兄上が落ち込んでしまった。

思わず「俺が守るから、大丈夫です」と言ったら、副団長が睨んできた。


「そうやってアレクシス殿下が甘やかすから、アークバルト殿下が調子に乗るんですよ」

と苦言を呈された。そんなつもりはないんだが……。



冒険者も変わらず三人で続けている。

ランクは上げずにDランクのままだ。


ウィニーさんには、「もっとランク上がるのに」と言われたが、今以上に上がると、日帰りできる仕事が少なくなってくる。

流石に、夜帰らないわけにはいかなかった。



そうやって冒険者を続けていくうちに、どうも実力も上がっていったらしい。


ある日、俺もバルも、人外の実力を持つミラー騎士団長に勝ってしまった。

大人げない騎士団長に、次はやり返されたが、それでも、互角と言っていい力を身につけていた。


「ったく、強くなりやがって」

そう複雑な顔をしたミラー団長の表情が、印象的だった。



※ ※ ※



「……ん……」

日差しが目に入って、意識が覚醒する。

自分がベッドに寝ていることは分かったが、状況が思い出せない。


コンコン


控えめのノックが響いて、扉が開いた。

入ってきたのは、リィカだった。

俺と目が合うと、リィカは大きく目を見開いた。


「――アレク、目を覚ました……!」

しがみつかれて泣かれて、やっと思い出した。



あのアルテロ村からの記憶がまったくない。

お腹の痛みは、なくなっていた。

どうやら助かったらしい、とだけ理解して、泣いているリィカに声を掛ける。


「あー、リィカ? 大丈夫だ。俺は大丈夫だから」


黙ってうなずくだけで、泣き止まないリィカに困っていると、また扉が開いた。

バルとユーリだ。

二人も俺を見て、少し目を見開いて、安心したように笑った。


「起きたんだな、アレク。この寝ぼすけが」

そんな事を言われて、ふと不安になった。


「……俺、どのくらい寝ていたんだ?」

「リィカの話も合わせて考えると、丸四日。今日が五日目ですね」

「――………………ああ……」


それは心配もかけるだろう。

さて、リィカをどうしよう。そう思っていたら。


グウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!

俺のお腹が、盛大な音を立てた。


バルとユーリが、必死に笑いをこらえているのを睨んでいたら、顔を上げたリィカと目があった。


目元を拭って、少し恥ずかしそうに笑う。

「お食事、持ってくるね」

リィカが部屋から出て行った。



せっかくしがみついてくれていたんだから、抱きしめるくらいすれば良かった、と見送りながら思った。


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