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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十九章 婚約者として過ごす日々

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怒りと不安と

「ね、ねぇ! アレク!」


 腕を引かれながら、リィカはアレクの背中に呼びかける。教室を出てから、アレクは一度もふり返らない。ただリィカの腕を掴んでズンズン前に進むだけ。


 いくら呼んでも答えはなく、アレクについていくのにリィカは早歩きだった。息が切れてきた頃、ようやくアレクが立ち止まる。ホッとしたのも束の間、ふり返ったアレクの表情に息を呑んだ。


「ど、どうしたの、アレク……いつっ」


 怖いくらいに無表情だったアレクに、肩を押された。背中が壁にぶつかって痛みが走る。その一瞬後には、アレクが目の前にいて、リィカの両脇にはアレクの腕がある。


「アレク……?」

「……リィカ、俺、言ったよな。俺は独占欲が強いんだと」

「え? えと、うん、その……」


 それは何度も聞いた。過去に聞いたそれは、とても恥ずかしかったのに、今はアレクの表情にどこか怖さを感じる。


「なのに、他の男とあんなに仲良く楽しそうにしやがって。いい加減自覚しないと、俺に閉じ込められるぞ」

「……他の男って、カタル?」

「他に誰がいる?」

「……いや、でも友だちだし」


 何が悪かったのか、一体何がアレクをそんなにも無表情にさせているのか、リィカには分からない。平民クラスだったときの友人だ。そんな自分が最初に声をかけて話をしたことが、間違っていたとは思えない。


 困るリィカに、アレクの表情が微妙に泣きそうに歪んだ。距離を詰めて、抱き付くように密着する。


「あ、アレク……!?」

「……分かっては、いるんだよ。別にリィカは悪くないって」


 密着して、リィカの首元にあるアレクの口がボソボソと動く。声は小さくても、耳に近いからしっかり聞こえる。


「分かってても、それでも悔しいんだよ。……俺の知らないリィカを、あいつは知ってるんだから」

「え?」

「平民クラスでリィカがどう過ごしていたのかなんて、俺は知らない」

「それはまあ、そうだろうけど」


 むしろ知ってたら、その方が怖い気がする。


「……おそらく、あいつだろう?」

「何が?」

「……リィカが、剣士と組んだときの戦い方を学んだのは」

「う、うん、そうだけど」


 一学年のとき、平民クラスの皆と一緒に、王都郊外の森へと出かけた。魔物を倒しての、小遣い稼ぎが目的だったようなものだが。


 別に、カタルからこうしろと教えてもらったことはない。けれど、実戦を通して自分がどう動けば剣士が戦いやすいのか、その勉強になったのは間違いない。

 そして、その経験があったから、魔王誕生時に初めて組んだアレクとも一緒に戦えたのだ。


「……悔しいんだ。その相手が俺じゃないことが、悔しいんだよ」

「そ、そんなこと、言われても」


 大体、魔物に取り囲まれたあの状況で、リィカにその経験がなかったら、持ち堪えるのも大変だっただろう。アレクにすべての負担がかかってしまっていたはずだ。悔しいと言われても、はっきり言って困る。


「分かっているさ。分かっているが、しばらくこのままでいろ」

「……えっと、うん」


 リィカが理解できようとできまいと、きっとアレクには大切なことなんだろう。アレクの気が済むまでは、このままでいたほうがいいんだろう。


(授業中だけど)


 結果的に、授業をサボったことになる。

 けれど、授業中だからか、近くには誰もいない。こんなところを誰かに見られたら恥ずかしいから、そこは良かった。


 リィカは背中の壁の冷たさを感じながらも、しがみついて動かないアレクを黙って受け入れ続けたのだった。



※ ※ ※



(我ながら、どうかしてるな)


 アレクは、そう思わざるを得ない。リィカを困らせるだけだと分かっているのに、どうしても言わないではいられなかった。


 何も知らなければ気にもしなかった。けれど、目の前に現れたカタルに、どうしたって嫉妬せずにはいられなかった。自分の知らないリィカを知っている男の存在に、こんなにも腹が立って不安になってしまうなど、思いもしなかった。


 アレクは、口元を緩ませる。自分の言い様は理不尽でしかないだろうに、文句も言わずに黙って受け入れてくれているリィカに、怒りも不安も落ち着いていく。


(もう少しだけ、このままで)


 リィカは間違いなく自分のものなのだと、そう感じていたかった。


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