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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十九章 婚約者として過ごす日々

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カタルとの再会

 実技は剣と魔法に分かれていて、基本的にはA・B・Cのクラス関係なく、それぞれの得意分野に分かれて受けることになっている。けれど、近年になって実験的な要素として、クラスごとの授業というのも組み入れられるようになった。


 もちろん、反対意見もある。魔法や剣など、それぞれ方向性が完全に決まっている生徒が、違う実習を行う意味などないと言われれば、その通りかもしれない。


 だがあくまで学園は"学ぶ場"である。剣と魔法は切っても切れない関係だ。お互いがお互いの戦い方、戦うときにどう動きたいのか、相手にどう動いてほしいのか。そういったことを知るという意味では、決して無意味ではないのだ。



※ ※ ※



「先生、よろしいでしょうか」


 こういうとき、真っ先に質問するのは、アークバルトである。それをハリスも分かっているのだろう、予想通りと言わんばかりに先を促す。


「なんだ」

「その生徒は、剣の試験で上位に食い込んでいる、カタルという生徒ですか?」

「そうだ」

「平民が貴族クラスにくれば、否応なしに情報が漏れますが、よろしいのでしょうか。それと、剣の授業ではなくこのクラスでの授業とした理由は何でしょうか」


 ハリスは頷いた。当然あるだろうと思っていた質問だ。


「情報漏れに関しては、本人と平民クラスの担任であるダスティン先生も交えて話して、ある程度は仕方ないという話になった。実力が上がりすぎて、平民クラスで彼の相手をできるのが、ダスティン先生しかいないんだ。これでは授業の意味がない」


 アークバルトが頷くのを確認して、ハリスはさらに続ける。


「このクラスでの授業とした理由は……一番の理由はベネットがいるからだな。知り合いがいないよりはいた方がいい」


 リィカをチラッと見て、また続ける。


「あとは、他のクラスの生徒となると、平民出身というだけで見下す生徒が出てきて、やはり授業にならない可能性が高い。このクラスに来てもらうのが、一番問題ないと判断した。以上だが、何か質問はあるか?」


 アークバルトだけではなく、他の生徒たちも見回す。リィカが嬉しそうにしているのが見えた。

 そして、アークバルトもリィカの表情を見て頷く。


「いえ、納得しました。リィカが仲良くしている人物であれば、問題はないでしょう」


 心からそう思いつつアークバルトは言ったが、その直後にチラッと見えたアレクの顔に、何も起こらなければいいなと思ったのだった。



※ ※ ※



「か、カタル・リマブル、です。よろしく、お願いします」


 Aクラスの剣術の授業の日、ハリスの言葉通りに、平民クラスから一人の生徒がやってきていた。ガチガチに緊張しているのが丸分かりだ。

 その隣にいるのは、平民クラスの教師であるダスティンだ。カタルの肩に手を置いて、Aクラスの生徒たちを見回す。リィカと目が合うが、表情は変えない。


「ご迷惑をおかけしますが、カタルをよろしくお願いします」


 教師といえど平民だからか、生徒に対してもその言葉遣いは丁寧なものだった。一礼して顔を上げると、担任のハリスを見る。


「ハリス先生も、よろしくお願いします」

「ええ、もちろん。ご安心を、ダスティン先生」


 ダスティンは頷くと、カタルの肩をポンポンと叩く。


「俺はこれで行くからな。しっかりな、カタル」

「は、はいっ!」


 返事をする声は裏返って、平民クラスへと帰っていくダスティンの背中を不安そうに見ていたが、そこにリィカが声をかけた。


「カタル、久しぶり!」

「……リィカ」


 ホッとした顔を見せて、次の瞬間、しまったという顔をする。


「あ、いや、ええと、リィカさま、お久しぶりです……」

「…………」


 少し目を伏せて、他人行儀な挨拶をしたカタルを見て、リィカは複雑な気持ちになった。


 身分は絶対だ。それを覆すなど、少なくとも平民だった頃は想像もできなかった。だから旅から戻ったとき、アレクとの別れを選んだし、その後に会ったときだって、丁寧な態度を取った。それが間違っていたとは、今でも思っていない。


 けれど、自分が貴族という立場になってみると、平民時代の友人にこうして会って、よそよそしい態度を取られると、すごく寂しい。自分は変わらず友人のつもりでいるし、これからもそうでありたいと思っているから、なおさらだ。


「今まで通りでいいよ、カタル。普通にリィカって呼んでほしい」


 だから、平民時代に言われていたら「そんなこと言われても」と思っていたことを、リィカは口にする。これを言うのが、貴族側からすると、こんなにも緊張するものなのかと思う。相手のことを好きに思っているから、なおさら。拒否されたら、辛い。


「…………うん、分かった。リィカ、変わってないね」

「自分は偉いんだぞーって、威張るのが得意じゃないの」

「アハハハ。ホントに変わってない」


 こうして受け入れてくれて、普通に話をしてもらえるのは、こんなにも嬉しいことなのだ。

 そして、それを見ていたハリスが頷く。


「いいかカタル、せっかく来たんだ。緊張していたらもったいない。大丈夫だ、このクラスの生徒は気の良い奴ばかりだからな」


 安心するように話しかけて、ついでというように言った。


「せっかくだから、そのまま二人で手合わせしてみろ」

「え?」

「……わたしが、カタルの相手をするんですか?」


 カタルが不思議そうにして、リィカの顔が引き攣る。一年生のときを思い出す。カタルは強いのだ。そして、あの頃からさらに強くなっているはず。

 だが、ハリスは当たり前のことのように頷いた。


「そうだ」

「……がんばります」


 リィカは肩を落としつつ答えた。それを苦笑して見つつ、ハリスはカタルを見た。


「そういうわけだ、相手をしてやってくれ。……とは言っても、油断したら負けるかもしれないがな」

「はい」


 なおも不思議そうだが、それでもカタルは返事をして、リィカを見た。


「リィカ、剣使えるんだ?」

「……うんまぁ一応は」


 力なく返事をしたが、すぐ気を取り直す。ものは剣だ。本職に勝てると思う方が間違っている。そもそも自分の剣は、勝つために習った剣ではない。近接戦の相手の隙を作るための剣なのだ。だから、剣だけの戦いで、勝てるはずもない。


「よし! じゃ、よろしく、カタル」

「うん」


 リィカはカタルと向かい合う。

 持つ剣はお互いに練習用の剣だ。力のない女性用に細身の剣もきちんとあり、リィカが使っているのもそれだ。それでも片手で持つとすぐ疲れてしまうので、両手で持っている。


「始め!」


 ハリスの号令に、リィカが足を前に踏み出した。先手必勝……となるわけではないが、最初の一手を受けではなく攻撃から入った方が、その後が戦いやすい。


 ……というのは、学園の生徒たち相手での話であり、これがアレクやバル相手だと、どっちもどっちでたいした差はないのだが。


 横から胴を狙ったリィカの剣を、カタルが受け止める。その顔が驚いていた。

 しかし、リィカは構わず畳みかけるように剣を振るう。泰基から習った、剣の動き。最初の頃に比べたら、今はずいぶん体が動くようになったと思う。


 けれど、それでも全部カタルに受け止められた。強いことは分かっていても、悔しい。顔を歪めたリィカに、カタルは少し笑って、受け止めた剣に力を込めた。


「………!」


 それを察したリィカが、慌てて後ろに下がる。力比べは絶対に無理だ。

 距離を開けて、息を切らしているリィカに対して、カタルはまだまだ余裕の表情だった。


「すごいね、リィカ。驚いた」

「……全部簡単に受け止めておいて、なんですごいって思うのか、分かんない」

「だって、剣のスピードが早い。確かに油断したら負けるかもしれない」


 そこまで言って、首を傾げた。


「でもなんで、そんなに剣を使えるようになったの?」

「――ちょっとね。必要だったから」


 リィカは曖昧にごまかした。その理由を知るのは、旅の仲間たちだけでいいと思っているから。セシリーにも話していない。


 今から考えれば、必要なかったのかもしれないと思うことはある。魔法の習熟が進むにつれて、発動もより早くなったのだから。仮に、今パールと戦ったとしたら、苦もなく魔法の発動に成功しただろうなと思う。


 でも、こうして剣を習っていたから、勝てないまでも何とか試合になるレベルで、直接打ち合うことができる。それが楽しくて嬉しいと思う。


 リィカの返答をどう思ったのか、カタルは笑った。


「そっか分かった。――じゃ、今度はこっちから行くよ」

「……!」


 カタルの言葉に、リィカの緊張が一気に増した。上段から振られてきた剣を受け止める。――が、やはり強い。アレクやバルよりはまだ()()気がしたが、それでも自分が届く範囲じゃない。


 結局、リィカの剣が弾き飛ばされるまで、そう時間はかからなかった。


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