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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十九章 婚約者として過ごす日々

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国王との話

 それからは大きな変化はなかった。


 毎日のように、魔法師団員への指南を続けている。レイズクルス公爵たちは初日に来たのみで、次の日から来ることはなかった。

 国王にきっちり苦情は入れたらしい。だが、「嫌なら出なくていい」の一言で終わらせた、と後で国王が悪い笑顔で言っていた。リィカの顔が引き攣った。


 だが、今までずっと自分たちの練習場として使っていた場所を、指南のための場所として使われることには我慢がならなかったらしい。「どうせ練習などしておらぬのに」と国王はぼやいていたが、指南の場所は変更になった。


 副師団長の派閥の人たちは、リィカに従って練習を重ねている。無詠唱までできそうな人は今のところはいないが、順調に魔法の威力は増している、とリィカは思っている。


 冬になると、騎士団も魔法師団もトーナメント方式による大会がある。軍の力がいつ必要になるか分からない。だから一年に一回、そういう場を設けることによって、常に軍人たちが力の鍛錬を怠ることがないように、と行われるものらしい。


 一応、リィカも王都に来てからその大会の存在は聞いていた。一般に公開されているので、クラスメイトには見たことがある人もいたが、リィカは興味がなかった。

 だが、ある程度の実情を知ってしまうと、疑問が浮かぶ。


「騎士団のトーナメントって、騎士団長様が絶対優勝するんじゃないの?」


 騎士団長、つまりはバルの父親であるミラー団長は強い。剣のことなので詳しくは分からないが、それでも騎士団長の強さが他の団員たちとは段違いであることは分かる。


「だから親父は出場しねぇんだ。優勝者と対戦はするけどな。まぁ、親父に勝ってる奴を見たことねぇが」

「なるほど」


 バルの言葉に、そういうことかとリィカは頷いた。優勝者が分かりきっている大会じゃ面白くないだろうが、それなら盛り上がりそうだ。


「騎士団の大会はそれなりに盛り上がるが、魔法師団の方はイマイチだ」

「副師団長派閥の人間は、早々に負けてしまいますしね。そうなると、後は長々詠唱して、上級魔法をぶつけ合うだけ」


 そして、魔力量の多い魔法師団長のレイズクルス公爵が優勝して終わる。毎年のように優勝しているが、騎士団長のように遠慮するつもりはゼロらしい。だが、そのせいであまり人気のない大会らしいが、魔法師団は気にしていないようだ。

 だが、とアレクが続けた。


「今年はどうなるか、楽しみだな」

「ええ。リィカの指南で副師団長たちがどこまで勝ち上がれるか。できればそれで、師団長たちをコテンパンにしてほしいですね」


 ユーリもニヤッと笑って続けて、リィカは何となく引くものを感じつつ、首を傾げた。


「でもあと数ヶ月だよ。もともとあっちの方が魔力量が多いし、そこまで行くかな?」


 順調に強くなっていることは否定しないが、"コテンパン"にできるほどまで強くなれるのかと言えば、疑問はある。


「その辺は副師団長たち次第ですけどね。でも彼らも数ヶ月後を見据えています。正直なところ、対等になるだけでも全然違うと思いますよ」

「……それであんなにやる気があるんだ」


 初日、少しやっただけで魔法の威力が増した、魔法師団員たち。それから時々危機迫る迫力を感じることもあったのだが、つまりはその大会があるからか。


 想像した以上の確執にリィカは逃げたくなるのだが、頑張って堪えている。目標があるのはいいことだよね、と必死にそう思うことにしている。


 その時、ドアがガチャッと開いた。


「待たせたな」


 入ってきたのは国王だ。同時にリィカは弾かれたように立ち上がり、アレクたち三人も立って一礼する。

 口を開いたのはアレクだった。


「お時間を取っていただき、ありがとうございます」

「……お前にそんな丁寧に言われると、本当に身構えてしまうからやめて欲しいんだがな」


 言葉通りに、表情を強張らせている。

 そもそも、アレクがゆっくり話をしたいので時間を作ってほしい、話す相手は国王一人だけでと言った時点で、それが重要な話であることくらいは分かっただろう。


 そして、今日なら時間が取れると言われて、国王の私室で四人集まって待っていたのだ。

 魔国の現状とこれからを、話をするために。



※ ※ ※



「………………」


 話を聞き終わった国王は、大きく息を吐いた。


「儂の、国王としての意見を言わせてもらうなら、今すぐ魔国を攻め滅ぼせ、だ。それが一番早い」

「はい。俺もそう思います」


 父王の意見に、アレクも逆らうことなく頷く。リィカが不安そうにアレクの裾を握るのを目ざとく見た国王は、もう一度ため息をついた。


「おそらくはどこの国も同じことを言うだろうが……、お前たちはそれを拒否するのだろう」

「はい。魔王とそう約束しましたし、何よりもアキトとタイキさんがそれを望んでいない」

「……全く」


 国王はバルとユーリの顔も見るが、二人も全く臆することなく国王を見返す。アレクと同意見であることなど、確認せずとも分かる。


「魔王との戦いがずっと続いてきた理由が、そこだな。肝心の勇者たちが、終わらそうとしなかった。魔王と魔族に同情した結果か」


 同情の一言に、アレクもバルもユーリも表情が固くなった。言い返せないのは、その通りだと思っているからだ。

 だが、ここで言ったのはリィカだった。


「そうですね、同情だと思います。だって、勇者は平和な世界で暮らしているんです。苦しんで追い詰められている人を、殺せるはずなんてありません」


 少し驚いた顔をしている国王を、リィカはまっすぐに見た。


「勇者が終わらせられるはずがないじゃないですか。魔族は敵だと、憎む相手だと、仲間すら言うんです。他の世界から来た人間が綺麗事を言ったところで、この世界の人がはいそうですかと従ったりしないでしょう?」


「おい、リィカ」


 アレクも驚いて名前を呼ぶが、リィカは止まらなかった。


「だから、見て見ぬ振りをするか、一人でどうにかしようとするのが、限界だったんです。勇者では……他の世界から来た人間では、それしかできなかった。そして多分、仲間たちも何もしない勇者に安堵して、ただ口を噤んでいたんじゃないでしょうか」


 リィカは拳を握る。暁斗と泰基の顔が思い浮かぶ。

 今、二人はいない。リィカが日本に帰したのだから、当然だ。そして、いないからこそ出来ることだってある。


「勇者がいれば、どうしたってわたしたちの言葉は勇者の言葉になってしまうけど、今はいません。だからこそ、チャンスだと思うんです。いないながらも、勇者一行の影響が大きい今なら、わたしたちの言葉はこの世界の人間の言葉として届きます。この世界のことは、この世界の人間が変えなければいけないと思うんです」


 必死なリィカの言葉に、しかし国王にそれが伝わった様子は見られない。


「この世界を変えたいなら、魔国を滅ぼせばいい。誰からも反対は出ないであろう。勇者がいないからこそ、出来ることではないか?」

「わたしが、反対します」


 リィカが真っ向から言い返す。


「もし本当に陛下がその手段を取られるのであれば、わたしは真っ向から立ち向かいます。滅ぼすのではなく、共存できる道を探したいんです」

「綺麗事だな」


 国王は一言で切って捨てる。だが、リィカは怯まなかった。


「それでも、わたしは諦めたくないんです。魔国が変われば、この世界も変わります。平和な世界から来た勇者たちが、痛くて苦しい思いをして、それでも魔王を倒してくれたんです。――この世界が、魔族たちも含めて平和になることを願ったんです」

「ふん」


 国王は鼻で笑った、かのように思えた。だが、次に話しかけたのはリィカではなかった。


「アレク」

「……は、はい」


 リィカの勢いに押されていたアレクは、国王の呼びかけに一瞬遅れて返事をする。


「リィカと儂らが戦ったら、どっちが勝つ?」

「リィカです」

「……少しは悩め。なぜ即答するのだ」


 少し困ったように言って、国王は意味ありげにアレクを見る。


「ちなみにそうなった場合、おぬしはどちらの味方をする?」

「考えたこともありませんでした。そんな状況にはならないと思っています。そう思えなければ、こんな話もできません」


 アレクがフッと笑った。どこか興奮しているリィカの手を握る。


「父上だって、綺麗事が好きじゃないですか」

「え?」


 リィカが驚いてアレクを見る。国王はもう一度「ふん」と笑った。


「それは否定せんよ。綺麗事だけでやっていけないのは確かだが、それを忘れてしまえば国は腐る一方だからな。――だがアレク、リィカの方がよほど覚悟を決めているぞ。儂が絶対に味方になる保証など、ないであろうに」


「俺はこの四人の中で、誰よりも父上を知っています。だから父上と対立する覚悟など、必要ないことを知っているだけです」


「……ふん」


 三度目のそれは、どこか照れくさそうだった。


「まあ、良かろう。話は分かった。問題は山積みだが」


 国王が考えるようにしながら、話を続ける。


「魔国を魔族の国ではなく、普通に一つの国として見れば、食糧支援という形を取ることはできるだろう。しかも、ただの支援ではなく取引という形にできるのであれば、その方が我が国としてもやりやすい」


 話を受け入れたかのような国王の言葉に、リィカは驚きを見せる。それに国王は気付きつつ、言葉を続ける。


「だが、それは本当に魔国が一つの国として、我々と取引できるという保証があっての話だ。その魔王の兄とやらに、その気はないのではないか?」


「……それは、はい。否定しません。カストルはそんな可能性を考慮すらしていないでしょう」


「まずそこがどうにかならなければ、話は進まんぞ」


「そこがいつどう出てくるかが全く読めませんので。だったら、先に話を通せるところに通したかったんです」


「――ふむ」


 国王は再び考える。が、それもわずかな時間だった。


「とりあえず、この話は他の者にも話す。騎士団長やヴィート公爵、神官長もだな。そして、アークバルトとレーナニア、クラウスといった、次世代を担うものにも話す。誰かが納得しなければ、それで終わりだ」

「――えっ!?」


 受け入れられたのかと思ったら、またその逆を言われる。リィカの顔色が悪くなる。


「その面子なら、問題なさそうな気もしますが」

「内容が内容だ。本当に問題ないかは分からんぞ」


 アレクは何てことないように言って、それに国王が釘を刺す。さらに続ける。


「そして後は魔族たちだが。――儂が魔族たちの立場なら、勇者一行の名を一気に落とせる場面を狙い、孤立させる。その舞台も整っておるからな、狙うならそこだろう」


 一拍おいて、国王は全く表情を変えずに、仰天することを言ってのけた。


「アークバルトとレーナニアの結婚式。その晴れの舞台でどちらかの殺害に成功すれば、それを防げなかった勇者一行の非難は、避けられぬだろうな」


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