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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十九章 婚約者として過ごす日々

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ハプニングと無事終了

 さて、ようやく始まった魔法師団員への指南だったが、初っ端から問題が勃発した。


「ふざけないで頂こうか、リィカ嬢。我々にも、そのイメージとやらを行えというのか?」


 何番煎じになるか分からないが、まずは魔力を強くするために、イメージをしてもらおうとしたら、レイズクルス公爵が怒ったのだ。


 リィカは、その通りですとしか答えが浮かばなかった。


 ただ魔法を詠唱するのではなく、イメージをして詠唱することで、今まで使われていない魔力が使われて、その威力が増大する。

 それは、最初の頃に実際にユーリが体験したことでもあるから、指南の最初に有効だと思い、それを体験者のユーリも支持した。


 それをやって下さいと言ったら怒られた。おそらく、レイズクルス公爵の"期待"とやらとズレているのだろうが、だからといってリィカはどうしていいか分からない。


 言ってくれたのは、アークバルトだった。


「ふざけるなはないだろう、レイズクルス公爵。君はここにリィカ嬢の指南を受けに来たのではないのか?」


「我々の魔法はすでに強いのです。指南をするなら、師団員全員に通じる指南をするべきでしょう。下級貴族どもの程度に合わされても困ります」


「さらに強くなると、実際に経験したユーリッヒがそう証言した。神官と魔法使いの差はあっても、魔王誕生当時のユーリッヒの実力は、そなたとそう変わらなかっただろう。そのユーリッヒの話もあり、私もリィカ嬢の方針を是とした」


 実際にはユーリッヒの方が強かっただろうけど、とアークバルトは内心で思いつつも、レイズクルスを見る。正直に言えば、リィカから指南の仕方について話を聞いたときに、多分レイズクルスは文句を言うだろうと思っていた。なので、この状況は想定通りだ。


「伯爵の子息程度の発言を、真に受けてもらっても困りますぞ、王太子殿下」


 ユーリの方をチラリと見つつ、レイズクルスは口の端を上げて言い放った。ユーリだけではなく、アークバルトすら嘲るような発言だ。


 リィカはムッときたが、ユーリもアークバルトも表情を変えていない。アレクはリィカと似たようなムカッとした顔つきだが、レーナニアも飄々としていた。


「身分ではなく、あくまでも実力から見ての私の判断だ。……とはいっても、それが君に通じるとは思ってないけどね」

「それは重畳。王太子殿下も、身分が下の者を必要以上に庇うのは、お止めになった方がよろしいかと存じます」


 リィカは顔が引き攣りそうになるのを、必死に堪えた。このやり取りが怖い。だが、あからさまに表情に出していいはずがない。

 旅の間に色々やり取りを見てきたつもりだが、ここまで怖いやり取りはなかった気がする。やはりそれだけ"勇者"の存在が大きかったのだろうか。


「覚えておこう。だが、レイズクルス公爵、ここはあくまでもリィカ嬢が魔法師団員に指南する場だ。あくまで希望者のみ。受けたくなければ受けなくて良い、と国王陛下からの言葉もある。不満なら出て行け」


「ふむ、ではそう致しましょうか。そして陛下には申し上げておくこととしましょう。もう少しレベルを上げた指南をしていただかなければ、ただの時間の無駄だと」


 国王すらも嘲るようなセリフを残して、レイズクルスは去っていく。その後ろをついていくのは、その派閥の人間だろう。「やはり無駄でしたな」みたいな会話をしているのが聞こえる。


 そして、彼らが去っていくと、人数が一気に激減した。同時に、あちこちからホッとしたようなため息が聞こえる。


「やれやれだな」


 アークバルトが肩をすくめて言うのを、リィカは困った顔で見た。これでいいのだろうかと思ってしまうのは、派閥というものに染まっていないからだろうか。

 そして、戸惑ったのはこの場に残った副師団長の派閥のトップ、ライアン伯爵もだった。


「あの、本当に師団長方には意味のないものなのですか?」


 元々、指南を言い出したのはライアン伯爵だ。だから自分たちに合わせたのかと心配になったようだ。それに対して、リィカは答えを持たない。何せ、レイズクルス公爵が魔法を使うところを見たことがないのだ。


 ただ、有効だと言ったのはユーリだから、そちらに視線を持っていく。すると、なぜか残念そうな顔をしていた。


「意味がないはずないでしょう。あんなポンコツな魔法を使っていて。誰かが腹を立ててリィカに勝負を申し込むとかしてくれれば、面白かったんですけどね」


「それはナイジェルがやったことだろう。いくら何でも非難を受けたそれを、繰り返しはしないだろう」


 ユーリの言葉に呆れて返したのはアレクだ。

 キャンプのとき、ナイジェルがリィカに勝負をしかけて、非難されたことはつい数ヶ月前のことだ。同じことをしはしないだろう。


「あれは、大量の魔物が襲ってきているところを背中から攻撃したから、非難されたんでしょう? 真正面から勝負を挑む分には問題ないと思いますけどね」


 そしてボロボロに負ければ良かったのに、と付け足すユーリに、リィカは今度こそ顔が引き攣った。


「……わたしが、勝てたかどうかも分からないんだけど」

「リィカが負けるはずないでしょう」

「……でも、結構みんな魔力量多かったし」


 その中でもレイズクルス公爵は飛び抜けていた。父親である元ベネット公爵よりも、ずっと多い。魔力量だけで判断するなら、絶対に勝てるとまで言える自信はなかった。


「だからポンコツなんですよ。リィカは見たことがないから、実感がないかもしれませんが、魔力量の割に魔法の威力がない。むしろ、彼らの方こそイメージで練習をしたら、飛躍的に実力が伸びると思いますけどね」


「そうなんだ……」


 そうとしか答えられない。だが、ライアン伯爵の質問の答えにはなったのだろう。非常に複雑そうな表情をしているのは、レイズクルス公爵たちにも効果があるものだと分かって安心したものの、あちらの方が"伸びる"と言われたことだろう。


「はいはい、話はそこまで。人数は減ったけどやることは変わらないよ。リィカ嬢、続けて」

「は、はいっ」


 アークバルトに促されて、リィカは指南を開始したのだった。



※ ※ ※



「すごい……」

「たったこれだけで、威力が違うぞ?」

「……感動した」


 口々に師団員たちが言うのを聞いて、リィカはホッと息をなで下ろした。


 教えながら気付いてしまったのだが、リィカがイメージで教えたのは、ユーリと暁斗、デトナ王国の王子テオドア。そしてミラベル。


 ユーリ以外は、皆それぞれに訳あり状態だった三人だ。そしてそのユーリも、才能に溢れまくっている。

 こう言っては何だが、ごく普通に詠唱してごく普通に魔法を使う人に、これを教えるのは初めてだったのだ。


 だからこそ、きちんと効果があったことに安心した。だがきっとユーリが聞けば、自分も普通に詠唱して普通に魔法を使っていただけだと言っただろう。


「やり過ぎると疲れてしまうので、今日はもうイメージでの練習はしないで下さい。また明日にします。そして、これだけだと面白くないと思うので、明日からは実際に魔法も使っていきます」


「「「はっ!!」」」


 リィカの言葉に、師団員たちが敬礼して答える声が、ピッタリとハモった。それにリィカがビクッとするのを見てアレクが苦笑して、宥めるように肩に手を置く。


 こうして、ハプニングがありつつも、初日の指南は無事終了したのだった。

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