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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十九章 婚約者として過ごす日々

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検証終了

「むー……」

「リィカ、怒ってないで魔法を使ってみて下さい」

「むー……」

「アレクを睨んだって、何の意味もありませんよ。……僕も、好きな女の子が首輪を付けられて顔が緩んでいるアレクを見ると、さすがにちょっと引きますけど」


 ユーリに言われて、アレクが慌てて表情をキリッとさせるが、わざとらしすぎて呆れを誘うだけだ。リィカの表情がますます怖くなっている。


「ほらリィカ、さっさとやって外してしまった方がいいでしょう?」

「…………」


 アレクの緩んだ顔とリィカの怖い顔をこれ以上見たくないと、ユーリは促す。リィカはムスッとしたままだが、アレクから視線を外した。


「凝縮魔法でいい?」

「……できれば、生活魔法にして下さい」


 ドスの利いたリィカの言葉に、ユーリはお願いを口にする。こんな風になってしまうなら、自分が首輪を付けた方が良かったかもしれない、なんて思いすら浮かぶほどだ。


 本当に、狙い通りに魔封じの効果がなっているなら、凝縮魔法であっても発動しないはずだ。だが、もし発動してしまったらその魔法は誰に向かうのか。想像すると、怖い。


 怖い顔をしたまま、リィカが無言で指を一本立てる。だが、それだけだ。何も起こらない。それを確認して、ユーリがリィカの顔を見ると、怖い顔と悔しげな顔とが一体化していた。


「……リィカ、その顔はやめましょう。皆が逃げます」

「逃げればいいでしょ!」


 さらに泣き顔が加わった。元が可愛いだけに、そのギャップでさらに怖い。ユーリは顔が引き攣るのを感じながら、首輪に手を伸ばした。魔力を流して引いて、首輪を外してやる。


 視界の端で、アレクが微妙に残念そうな顔をしているのが見えた。本気で友人関係を考え直した方が良いかもしれない、と少し思う。


 首輪を外しても怖い顔のままのリィカに、ユーリはさっさと必要事項の確認だけして退散しよう、と決める。リィカに八つ当たりをされるのは、アレクだけで十分だろう。


「魔法、使えなかったですね」

「そうだね」

「…………」


 いつも通りのようで、リィカの声が素っ気なくて冷たい。


「作っていて、どうでしたか?」

「面倒」

「……ええと、もう少し具体的に」


 とりあえず、完全な無詠唱であっても、魔封じを作れることは分かった。だが、今後は量産していく必要があることを考えると、その危険性などの確認をしておかなければならない。だが、「面倒」の一言ではそれが分からない。


 リィカはやはりムスッとしたままだが、それでも口を開いた。


「面倒っていうか難しいっていうか、とにかく細かく魔力を読みながら、自分の流す魔力を調整して混ぜていかなきゃなんない。人の手じゃないと無理だと思う」


 魔方陣を使って作ったとして、その細かい調整まで果たしてやってくれるのかどうか。おそらくは無理だろうなと、リィカは思う。


「魔封じを作ったときに、完全な無詠唱を使えるのが勇者たちだけなら、わざわざそんな面倒なことをしなくていいって考えたとしても、おかしくないと思う」


「なるほど。今の世に魔法の無詠唱が伝わっていないのは、もしかしたら"わざと"そうした、という可能性もありそうですね」


 魔封じが効果を発しない可能性を、最初の段階で摘み取った。面倒なことをしたくなかっただけかもしれない。現存の魔封じを作ったのがアベルであり香澄であるなら、建国という大変な時期に、省けることは省きたいという気持ちも分からなくもない。


「詠唱して使えちゃうんだから、それでいいっていうのもあったかもしれない」

「それもあり得そうですね」


 リィカが言って、ユーリが頷く。無詠唱は練習が必要だ。人によって、できるまでの時間の差もあるし、そもそもできるようにならない人もいるかもしれない。詠唱であれば、その辺りの差は、限りなく少なくなる。


「それはつまり、アベルはあえて完全な無詠唱まで封じる魔封じを、作らなかったということか」


 アレクが口を出した。緩んだ顔はなくなり、その顔は真剣だ。王子としての顔だ、とリィカは思う。


「推測ですが、おそらく。理由は、今のところは"面倒だった"か"大変だった"かの、どちらかだとしか言えませんが」

「……………」


 アレクは無言で、ユーリの手にある作られたばかりの魔封じを見る。


「……それ、量産しようと思えばできるのか? いや、その前にリィカかユーリしか使えないのでは意味がない。皆が使えるようにはできるのか?」


「わたしも思った。鍵がついて、付け外しにするようにとか、どうしたらいいのかなって」


「そもそも量産が無理じゃねぇのか? 一個作んのに、リィカの魔力が空になったじゃねぇか」


 アレクとリィカとバルの視線が、ユーリに向かう。向けられたユーリは、顔をしかめた。


「なぜ僕に聞くんですか。僕だって分かりませんよ」


 そう突き放した返事をするが、そこで終わらずユーリは言葉を続ける。


「一から作るのは無理でしょうね。鍵付きの枷をイメージで作れるのか、と聞かれれば、僕も無理と答えます。そしてリィカの魔力が空になるようなもの、おそらく僕も作れません。量産も無理です」


 すべてに無理と答えて、「ですが」と続ける。


「リィカ、現存する魔封じに、水の魔力を付与していくことは、できませんか? まだそれなら、現実性がありそうですが」

「え?」


 リィカは脇に置いてある、現存の魔封じの枷を手に取る。確かに、理屈としては通る。ただの魔力で作った魔封じに水の魔力を付与する。することは同じだ。最初から作るよりは、断然いい。


 ただ、いい加減古くなって魔力が感じにくいことと、自分が作ったもののほうが魔力を感じやすいというのがある。


「……慣れるまで、いくつか失敗して壊しちゃうかもしれないけど、それでも良ければできるかも」


 何せ、細かい調整をしていかなければならない。感じにくいので、その調整を失敗する可能性は十分にあり得た。本音を言えば、慣れるかどうかも分からないが、そこは大丈夫だろうと信じるしかない。


「あー……、分かった。父上に確認するから、待ってくれ」


 アレクは、そう言うしかできなかった。

 目星はついた。だが、魔封じの枷は貴重だ。壊れると聞いて「はいどうぞ」と言えるものではない。おそらく国王も返事に悩むだろうが、それでも答えられるのは国王だけである。


「そうですね。では後は、陛下の返事待ちですね。リィカ、やるときにはまた来ますから、声をかけて下さいね」

「うん、ありがとう」

「んじゃあ、とりあえず今日はこれでお開きか」


 ユーリとリィカ、バルが言って、動き出す。だが、それをアレクが止めた。


「悪い、みんな。別件で話があるんだ。少し待ってくれ」


 真剣な声音だった。


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