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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十九章 婚約者として過ごす日々

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鏡についてやり取りしよう

「さて、じゃあ父上のところへ行くぞ」


 アレクの言葉に、リィカの足が止まった。完全に忘れていたが、鏡の話だろう。


「い、忙しいんじゃ、ないの?」


 足掻いてみせる。行くにしても少し時間が欲しい。

 最初の挨拶だって、忙しいからという理由でアークバルトだったし、アレクが忙しくしているというのも珍しい。つまりは、それだけ大変なのではないかと、半分くらいは気遣いもあって言ってみたのだが。


「来いと言っているんだ。行くしかない」

「……はぁい」


 肩を落とした。相手は国王だ。ここで嫌だと言ってどうにかなることでもない。


「ね、ねぇ、わたし、どうしたらいい?」


 だが何も聞かずに国王の前に出るのは怖い。鏡を作って渡せばいいだけなのかどうか、それだけでも聞きたい。


「別にとって喰いやしないさ。少し不満そうにはしてたが。『なぜルバドールに渡して、儂には渡さぬのだ』とか何とか」

「ダメでしょそれ!」

「ただの愚痴だから平気だ、気にするな。……ある程度の情報の開示は必要だろうが」

「ある程度って……?」


 具体性のないその言葉が怖い。どこまで開示して良いのかが分からなくて、恐る恐る問う。だが……。


「……ん、まあある程度だ」

「それじゃ分かんないっ! ああもう、ユーリに……」


 ある意味、一番予想されたアレクの返答にリィカは叫んだ。風の手紙(エア・レター)に魔力を通そうとしたところで、腕を掴まれた。


「リィカ。魔法関連のことは俺には分からないから、何とも言えない。確かにユーリなら判断できるだろうが、いつもいつも聞けるとも限らない」


「……アレク?」


「私的な場にしてもらった。話を聞くのは父上と王妃様、兄上だけだ。それ以外の誰も聞かない。もしリィカの判断が間違ったとしても、口を噤んでくれる。だから、リィカの判断で話をしてくれないか?」


 その内容と厳しい目に、リィカは息を呑んだ。しばしアレクの目を見つめるが、表情が緩むことはなかった。


「――分かった、話すね」


 フーッと息を吐いてから、肯定の返事を伝える。アレクの言うとおりだ。自分だけで判断しなければならないことなど、これからいくらでもある。

 失敗してもいいと言ってくれている。練習の場を与えてくれている。だったら、それに甘えれば良いのだ。


 リィカは開き直って歩き出す。先ほどまでとは打って変わって、落ち着いた様子のリィカを見て、アレクは少しだけ寂しさの混ざった笑みを、浮かべたのだった。



※ ※ ※



「これいいわねぇ。私も欲しいわ」

「あ、これよりもっと大きい鏡も作れるので、良ければそちらをどうでしょうか。少しお時間頂くことになりますけど」

「まぁぜひお願いしたいわ」


 国王の私室へ行って、リィカは自分が作った鏡を見せる。チャールトンの持ってきた鏡と同じ、Dランクの魔石で作った鏡だから、大きさは同じ手の平サイズだ。

 ルバドール帝国に献上した鏡は、Cランクの魔石から作った鏡なので、あげるのであればそちらで作るべきだろうと思う。


 話は聞いていただろうに、驚いているだけで何も言えないらしい国王とアークバルトに対し、王妃は手渡された鏡をのぞき込んで嬉しそうに声をあげた。

 裏返したり触ったりしていたが、少し不思議そうに首を傾げる。


「でも、チャールトンが持ってきた鏡の方が、明るかった気がするわ。それに手触りも良かったわ。こちらは少しゴツゴツしている気がするけれど」

「作り方が、少し違うんだと思います」


 リィカは苦笑した。気付いてはいた。自分も暗いと思っている鏡面だが、日光の下で見れば問題はなかった。しかし、チャールトンの持ってきた鏡は、それがなくても明るい。

 それに、鏡の裏側の手触りもさらさらスベスベしていて、綺麗だった。しかし、自分の持っているものは、若干デコボコしている。


 たいした差ではない、と気にしなかったリィカだが、指摘されるとは思わなかった。鏡を買ってはいないと聞いたから、手元にあるわけでもないだろうに、わずかな違いに気付くとは。


「作り方が違う……?」


 胡乱げに言ったのはアレクだ。リィカが何度も作っているのを見ているだけに、疑問もあるのだろう。


「どうやって作るんだ?」


 驚きから立ち直ったのか、アークバルトに聞かれて、リィカはアイテムボックスからDランクの魔石を取り出す。いきなり手に現れた魔石に驚く顔を見ながら、リィカは説明をする。


「魔石に作りたい形をイメージしながら魔力を流すと、形が変わるんです。……こんな感じで」


 魔石が平たい長方形に変わる。それをその場の全員が……アレクも含めて、驚く。


「ここからさらに水と土の魔力を付与すると、鏡が出来上がります。ただ、ちょっと時間がかかるので、ここではやりませんが」

「へぇ、すごいのね」


 そう言ったのは王妃で、長方形の板を手に取る。そして「あら」と言った。


「スベスベしているわね」

「はい」


 リィカはまた苦笑した。おそらくサルマたちが作ったのは、こっちの作り方だろう。やっぱりあちらの方が技術は上だ。出来上がるまでの早さも、今まで自分が作ったやり方より早いはずだ。


「………………はぁ、やれやれ。なぜ王妃はそう平然としているのだ」


 ここで、これまで黙っていた国王が初めて口を開いた。大きなため息などついて、疲れた様子だ。


「いいじゃないですか。この子たちのやることにいちいち驚いても仕方がないと、あなただって言っているではありませんか」

「そうは言っても、これを驚くなという方が無理であろうに……」


 もう一度ため息をついて、作られたばかりの長方形の板を見てから、正面からリィカに視線を向ける。


「これは、旅に出る前からできていたのか?」

「……いえ。旅の途中で出会った人から、教えて頂きました」


 国王の顔に笑顔はない。詰問している、というほどでもないが、それでもリィカは緊張して答える。サルマたちのことをどこまで話すべきか否か判断がつかないので、とりあえずボンヤリした答えを返す。


「ふむ。ちなみにこれは儂らにもできるのか?」

「いえ、無詠唱で魔法が使えないと、できません。わたしたちにそれができたから、その人も教えてくれたんです」

「無詠唱を使えたから、ただの好意で教えてくれたということか?」

「え? えっと、いえ、自分たちでは限界があるから、何かいいアイディアがあったら欲しいと」

「ふむ、つまり相手は複数か」


 その国王のつぶやきに、リィカは今自分が何と答えたっけ、と思い返そうとするが、何も思い出せない。変なことを言っていないだろうか。すると、国王がアレクを見た。


「アレク、お前も会っているのか?」

「もちろんです」

「で?」

「……最初は疑いましたが、怪しい点はありませんでした。偶然出会って、無詠唱が使えるという点から教えてくれただけです。……という答えで、間違っていませんか?」


 アレクはやや自信なさげだ。「で?」だけで父王の思惑を察するなど、高度な技すぎる。そういうことは兄にだけやってほしいと思う。


「ふむ」


 父王が満足そうに頷いて、アレクも肩の力を抜いた。自分にまで話が来るのは、完全な想定外だ。


「それで作れるのは、鏡だけなのか?」


 また質問がリィカに戻った。少し気を抜いてしまっていて、肩が跳ね上がった。


「い、いえ、えっと、わたしたちが使っているこれ……アイテムボックスというんですが、これも魔力付与で作っています。それから、離れていても仲間内で話せる道具もあって、それも作りました」

「ほう、なるほど。そうであったか」


 アイテムボックスという名前を聞いたのは初めてだろうが、国王は感心した様子だ。これまで見ていれば、そこから物を出し入れしているのは何となく分かっていただろう。


「なぜ鏡を作ったのだ?」

「え?」

「離れていても、仲間同士で話ができるのは便利だろう。アイテムボックスとやらも、多くの物を収納できると判断すれば、確かに旅の役に立っただろう。鏡は何のために作ったのだ?」

「えーと……」


 リィカの目がわずかに泳ぐ。理由を伝えたときに、アレクに呆れられたことを思い出してしまった。


「その、単に、わたしが首回りを見たくて……」

「首回り?」


 反問されて、リィカはハッとして口を押さえた。その様子を見て、国王がわずかに顔をしかめ、アレクが苦笑した。


「何も、自分が使いたかったからだと、言っておけばいいものを」

「……わたしもそう思った」


 がっくり肩を落とした。アレクに言われるまでもなく、そう思った。思ったときには遅かったが。

 さて、これは話さないと駄目か。聞いていて気分の良い話ではないが、話さずに済ませるのは無理だろう。……と思ったが、それより国王の方が早かった。


「以前、隷属の首輪について話をしていたとき、何とも意味深な会話をしておったな」

「…………」

「そうでしたね。あの会話からすると、もしかしてリィカ嬢があの首輪を嵌められたのかな?」

「…………」


 国王もアークバルトも察しが良すぎないだろうか。どうしていいか分からずアレクを見ると、そのアレクは何やら頭を押さえていたが、リィカの視線に気付くと、肩をすくめた。


「まあ、こういう人たちだ。勘が鋭すぎて、どうして分かるのか俺にも不明だ」


 そういえば、モントルビアのルイス公爵……ではなく今は国王だが、あの人も息子のジェラードも、ちょっとした言い回しからすぐ事実にたどり着いていた。

 人の上に立つ人は、それができないと駄目なんだろうか。自分には絶対無理だし、ほんの少しの失言も駄目とか、荷が重すぎる。


 そんなことを思いつつも、リィカは頭の中で答えを考える。あの出来事を一から話していったら、話が長くなるだけだ。今は鏡を作った理由を聞かれているのだから、それについて答えればいいだけ、のはず。


「その隷属の首輪の影響で、首回りが赤くなっていたみたいで。それを自分の目で見たくて鏡を作ったんです」

「ふむ、なるほど。……上手く答えたな。あった出来事を最初から話すかと思ったが」

「は、話した方が、いいでしょうか……?」


 失敗だっただろうか、と不安になったリィカだが、国王は笑った。


「そうは言っておらぬ。上手く答えた、と褒めておるのだ」

「あ、ありがとうございます……」


 そうか、言葉通りに褒められたと思って良かったのか。皮肉だったわけではないのか。やはり難しいと思う。


「リィカ嬢が作ったのであれば、商人が鏡を持ってきたのはなぜだ?」


「魔力付与を教えてくれた人に、鏡の作り方を教えました。直接じゃなくて、言づてという形ですけど。その人たちが作って売っています。……その、高額すぎて、わたしが自分で売るのは、怖くて」


 途中で「なぜ」と目で問われた気がして、リィカは続ける。ルバドールで散々売ってくれと言われたが、無理だと思って押しつけた。というのが真相だ。


「あら、リィカさんが売っていれば、今頃大もうけだったのに」


 王妃がもったいないと言うが、リィカにしてみたら大もうけというレベルの話ではないのだ。


「ふむ、大体聞きたいことは聞けたか。ヴィート公爵も大きなミスはしないだろうと言っておったが、おおよそそんな感じであるな」


 国王の言葉に、リィカの肩はまたも跳ね上がる。途中から、試されていると思わなかったわけではないが。


「後は、もう少し緊張が解けてくれると嬉しいんだけどね。レーナとはずいぶん打ち解けたようだけど、私たちとも家族になるんだから」

「は、はい……っ!」


 以前にも、アークバルトには似たようなことを言われた、と思いながら、リィカは返事をする。その返事がもう緊張していて、アークバルトは少し困ったように笑うが、国王の表情は柔らかくなった。


「ではリィカ、すまぬが王妃に……妻に、鏡を作ってやってくれんか?」


 国王の呼び方から「嬢」が抜けて、リィカは目をパチパチさせる。話し方もなんだか優しい。


「私からも。リィカ、レーナに鏡を作ってくれないかな?」


 アークバルトもだ。その変化に戸惑うが、王妃が優しく笑っている。アレクをチラッと見たら、嬉しそうに頷いた。それを確認して、リィカも笑顔になる。


「はいっ、力一杯、最高の物を作ります!」

「……待てリィカ」


 その宣言にアレクが物言いたげに呼びかけるが、リィカの耳には入っていないようだ。


「あ、そうだ、ねぇアレク。Cランクのじゃなくて、BとかAとかで作ったら、全身映せるくらいの大きな鏡ができるかも。そっちの方がいいよね?」


 興奮した様子で続けられた提案に、国王たち三人が驚きの顔を見せて、アレクが大きなため息をついた。


「却下」

「なんでっ!?」

「なんでじゃない。絶対にお前、やり過ぎる。ルバドールに献上したのと、同じでいいから」

「ええー、でもドレスとか着たとき、全身見れたらいいと思うんだけど」

「そんな大きい鏡、絶対大騒ぎになるから、やめろ」

「他の人に見られなきゃ大丈夫じゃない?」

「侍女たちが見るし、兵士だって見ることもあるだろう。絶対に話が広まる。だからやめとけ」

「……ダメ?」

「駄目だ」

「……はぁい」


 ショボンと肩を落とすが、すぐ気持ちを切り替えたように拳を握る。


「でも、がんばっていいの作る」

「だから、頑張らなくていいと言っているんだ! 普通でいい、普通で!」

「でも、せっかく……」

「やり過ぎて人前に出せないものを作っても意味がないから、普通に作れ」

「鏡だよ? そんな人前に出せないものになんて、ならないよ」

「なりそうで怖いんだよ」


 二人のやり取りを見ながら、国王が引き攣った笑いを浮かべている。アークバルトは少し困った顔だ。王妃は「あらあら」と笑った。


「どっちにしても侍女たちに見られたら大騒ぎになるのだから、なんでもいいと思うのだけど」


 おそらく、小さなこの鏡でさえも騒ぎになる。どれだけ大きさが変わろうと、そういう意味では変わりない。のほほんと王妃は言うが、男性陣は笑えなかった。


「本気だったら、どんなものが出来上がるんでしょうね……」

「アレクの言いようじゃ、それは持たぬ方が良い興味だな」


 小声で会話する。どうやら思った以上に規格外らしいと思いながら、アレクとリィカのやり取りを、眺めていたのだった。


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