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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十九章 婚約者として過ごす日々

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部屋

 その日は、これでお開きとなった。

 時間経過で回復するとはいえ、一度魔力が空になれば、それなりに体に負担がかかる。無理をしてまで行うことではない、というアークバルトの言葉があったからだ。


 それに本来の目的と逸脱してしまったとは言え、魔封じを作ったというのはかなり新鮮だったようだ。ユーリの説明に、アークバルトだけではなく、忙しいと言っていた国王も強引に聞きに来て興味深そうにしていた。


 その後は、リィカはのんびり部屋で過ごすことになった。「休め」と言われて、部屋から出させてもらえなかった、というのもある。



 王宮に来たときは、そのまま魔封じ作りの対応に入ってしまったため、お開きとなった後に部屋へ案内された。……アレクに抱えられたまま移動させられて、恥ずかしくて仕方なかった。


 しかし、すぐに違和感に気付く。今までリィカが王宮に滞在するときの部屋は、客間だった。今回もそうだろうと思っていたら、明らかに方向が違う。向かった先は、王家の人たちが住む区画だった。


「………………」


 アレクは迷うことなく一室に入って、言葉が出ないリィカをソファに下ろす。そして、少し申し訳なさそうな顔をした。


「悪いが、今少しやっていることがあって……。終わったら来るから、休んでろよ。――リィカを部屋から出すな。出たいと言っても止めろ」

「かしこまりました」


 前半はリィカに、後半は後ろに控えている侍女に言って、アレクは去っていった。その姿を見送りながら、リィカは「えー」と思う。


「忙しいんなら、別にわたし、歩くくらいできたのに。それに、出すなってなに」


 プクッと頬を膨らませて、不満を漏らす。確かに魔力は空になったけれど、歩けるくらいには回復している。それを言っても納得せず、抱えたのはアレクだ。部屋から出ることだって、何も問題ない。

 けれど、侍女のクスクス笑う声がした。


「アレクシス殿下は、本当にリィカ様のことを大切にしてらっしゃいますね。……大変申し訳ありませんが、殿下からご命令された以上、私どももリィカ様を部屋からお出しするわけには参りません。殿下に怒られてしまいますから」

「……………」


 最後はおどけたように言っていたが、だからといって冗談というわけでもないのは分かる。つまりは、リィカが強引に部屋から出てしまえば、その咎が侍女に向かうということだ。


 リィカは口を曲げた。そういう命令をしておけば、侍女が怒られないためにリィカが大人しくするだろうということまで、アレクは考えたのだろうか。


 諦めて、はぁと大きくため息をついたリィカに、侍女はクスッと笑った。


「それでは、改めてこちらの部屋のご説明をさせて頂きます。まずは、お分かりかとは思いますが、ここは王家の方々が住まう、私的な場所でございます。通常、ご婚約者であっても結婚までは入れないのですが、陛下からの指示で、こちらになりました」


「そうなんで……そうなの?」


 そうなんですか、と言おうとして、言い直す。侍女に敬語は不要だ。……というのは、ヴィート公爵家滞在中に散々注意されたことである。


 身分がある者はそれにふさわしい言動も求められる。それはリィカもエルモールンティン男爵の娘と相対したときに思ったことではあるが、敵対しているわけでもない人相手に、その態度を取るのは難しい。


 ましてや、目の前にいる侍女は年配の侍女だ。若い侍女が多い中で、年配の人は少ない。だからといって侍女長ではないようだが、詳しいことはリィカも知らない。旅に出る前から、リィカが王宮に滞在しているときは、何かと気にかけてくれていた侍女だ。


 どう考えても、リィカとしては敬語で話したくなる人ではある。けれど、これも慣れていかなければならないのだろう。


「はい。ちなみに、王太子殿下のご婚約者であるレーナニア様も、すでにこちらに私室がございます。お二方ともに王族と変わらぬ対応をするよう、言われておりますので」


 その言葉にリィカの背筋が伸びる。まだ早いと言いたくなるが、そんなことを言っていると、いつまでたっても慣れることなどできなさそうだ。


「この部屋の隣が、アレクシス殿下の部屋になっております」


 その説明に、リィカが固まった。

 気付いているのだろうが、侍女は何も言わずに部屋の一方向を指さす。そこには、出入り口とは違う扉がある。


「あちらはご夫婦の寝室となりまして、反対側がアレクシス殿下のお部屋と繋がっております。あの扉が開かれて寝室を使うのはご結婚後となりますので、ご了承下さいませ」

「…………」


 リィカの顔が真っ赤に染まる。モントルビアのベネット公爵邸での、あの夜のことを思い出してしまう。

 そんなリィカの反応を、侍女は微笑ましいものを見たように笑みを浮かべつつ、言葉を続ける。


「アレクシス殿下にそのように説明したところ、非常にご不満そうだったのですが、リィカ様はいかがでしょうか」

「……へ?」

「もし、リィカ様もご不満であれば、国王陛下に具申しようかと思うのですが」

「……………い、いえいえ、いえその、結婚後で、全然っ! いいのでっ!」


 真っ赤になった顔を、必死に左右に振る。

 客間じゃなく王家の人たちが集まる部屋を用意されただけじゃなく、アレクの隣の部屋まで用意されて、もうお腹いっぱいである。アレクが不満だろうとなんだろうと、これ以上は無理だというのが、リィカの本音だ。


「かしこまりました」


 アレクの命令に返したときと同じ返事だが、侍女の笑顔の返事が恥ずかしすぎる。


「では、アレクシス殿下から話がありましたら、リィカ様がそう仰っていたと伝えますので、その後の対応はよろしくお願い申し上げます」

「……………」


 一体何をよろしくされればいいんだろうという疑問が頭をかすめたが、それ以上考えようとしても、すでに頭はキャパオーバーだった。


現在、聖剣グラムとゾウのイビーの出会い?の話、『勇者と聖剣と、不思議なゾウが交わした約束』連載中です。明日完結します。お読み頂けると嬉しいです。

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