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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十九章 婚約者として過ごす日々

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魔封じの作り方①

「ああ、なるほど。今日からまた勉強漬けだと思ったんですね」

「普通、そう思うと思わない?」

「そう言われて来たのであれば、そうでしょうけど」


 ユーリが笑う。ユーリも新しい魔封じの作成のため、王宮に来ていたのだ。バルも一緒にいる。


「本当にリィカが何もできないのであれば、勉強が先になったでしょうけれどね」


「一通り必要なことはできてるしな。これが王太子妃になるってんならともかく、第二王子の妃なら、ま、そんなもんだろ」


「今のところはまだ勇者一行の名前が効いてくれますからね。少々ミスをしたところで、何かを言ってくる輩もいませんよ」


 ユーリとバルの交互の説明に、そんなものなのかなぁと思う。アークバルトに言われたことと同じようなことを二人にも言われれば、そうなのかと納得するしかない。


「まあ、まずはこっちをやっちゃいましょう」


 ユーリが言って、手に持ったものを動かすと、ジャラッと音を立てる。

 微妙にリィカの顔が引き攣った。見覚えのあるそれは、魔封じの枷だ。首にはめる大きい輪が一つ、手首にはめる小さい輪が二つ。それらが鎖で繋がっている。


 魔封じの効果を確かめるためという理由で、かつてユーリと泰基の手で、リィカもはめられたことがあるという、あまり良い思い出のない代物である。


「何か分かった?」


 リィカより先にユーリが始めていたから、まずはそれを聞いてしまおうと思ったリィカだが、ユーリは難しい顔をした。


「とりあえず、リィカも見てくれませんか? 僕には、属性というより魔力そのものという感じがしたんですが」

「………?」


 どういうことだと思いつつ、リィカも魔封じの枷を手に取る。あの隷属の首輪よりは嫌な感じはしない。それでも何となく忌避感があるのは、使用される目的のせいだろうか。


 考えてみれば今自分たちは、無詠唱魔法を使える人たちが、犯罪を犯したときのために使用できる物を作っている。そんなもの、使う機会がないならその方が良いに決まってるなと思う。


 とはいっても、必要であることは分かるから、やることを拒否するつもりもない。そんなことを思いながら、魔封じの枷を探っていく。探っていって、結局首を傾げた。


「確かに、ただの魔力だね。どうしてこれで魔法を封じるのかなぁ」

「やはりそう思いますよね」


 ユーリも同意する。


 魔道具を作るときの手順として、まず魔石に魔力を付与して望む形を作る。この段階で、ただ普通の魔力付与しても良いが、作りたい魔道具に合わせた魔法属性で付与して行うと、その後の作成が楽になる。


 今も使っている風の手紙(エア・レター)は、風属性の魔力で最初の付与を行った。アイテムボックスは光属性の魔力だ。


 形ができた後に、さらに属性の魔力を付与していく。ただし、最初に普通に魔力付与をしていると、ここで付与しなければならない魔力が増えることになる。

 そして、大元で属性魔力を使った場合に比べると、魔道具としての機能が若干衰えてしまう。


 属性を使わずに魔道具を作るなど、リィカもユーリも考えたことがなく、それで何かしらの魔道具ができると、想像したこともなかった。


「……やってみる?」

「そうしましょうか」


 分からないなら、実際に作ってみればいいだけ。そう思いながら、Cランクの魔石を取り出したリィカに、ユーリも頷いた。ユーリ自身は付与の経過を見るため、やらない。


 魔石に魔力を付与していく。形は、とりあえず首輪と同じくらい輪を作る。作りながら「あれ?」と思う。ずっと属性の魔力で付与をしていたから気付かなかったが、純粋な魔力だけで付与していくと通りが良い。いつもならもっと時間がかかるのに、あっさりと出来上がる。


「早いですねぇ」

「こんなメリットあったんだね」


 リィカは最初から属性の魔力で魔道具を作っていたし、ユーリもやり始めた頃はともかく、慣れてからは属性付きでの付与をしていた。そのせいで今まで気付かなかったのだ。機能が若干落ちても、物によってはこのメリットを取るのもありかもしれないと思う。


「じゃあ、また付与してくね」

「ええ」


 そこからさらに、魔法を封じる物をイメージしながら魔力を付与していく。最初は何も変わらないと思った。このまま魔力を注げば魔石が壊れるだけだ。けれど、次第に違和感に気付く。


「壊れない……? 魔力が凝縮している……?」


 ユーリがつぶやく。リィカもそれを感じつつ、口にする余裕がない。

 歯を食いしばる。まさか、Cランクの魔石でここまで魔力を消費するなんて、思うはずもない。けれど、まだだ。あと少しで"できる"。


 それを感じた瞬間、リィカは最後の力を振り絞る。強い光を放って、目をあけていられないほどの光が、部屋に満ちる。しかしそれも一瞬で消えて、リィカが目をあけると、そこにあったのは、一見何の変哲もない首輪だった。


 一体どうなったのか見ようとして、リィカは限界を感じた。テーブルに突っ伏す。


「……まりょく、からっぽだー」


 魔力を消費するどころか、空になるとは。相当に魔力も増えていると思っていたのだが、実はそうでもないのだろうか。


「リィカの魔力が空になるって……おいユーリ」

「アレクが来たら、運んでもらいましょうね。頼まなくても勝手にやるでしょうから」

「そういう問題じゃねぇって」


 リィカの言いたかったツッコミは、バルが代わりに言ってくれた。が、ユーリは構わず、首輪を手に取る。


「へぇ、すごいですね。ちゃんと魔封じの枷と同じ感じになってますよ。……さて、バル」

「いやだぞ、おれは」


 ユーリが何かを言う前に、バルは拒否する。が、ユーリは真顔のままだ。


「リィカがあんなんじゃなければ、リィカでいいんですけど。魔力が空になっている人に、魔封じをつけても意味ないでしょう? 別に難しいことはありません。この首輪をつけて、生活魔法を唱えるだけです。それだけなら、バルにもできるでしょう?」


「だったら、リィカの魔力が回復するまで、待てばいいじゃねぇか。それか、お前がつけろって」


「待つ時間がもったいないですし、僕がつけたら効果のほどを検証できません。さっさとして下さい」


 ユーリとバルの会話を聞きながら、なぜ魔力があれば自分でいいのかと文句を言いたくなったリィカだが、ここは口を噤むのが正解だろう。余計なことを言ったら、ユーリが「じゃあ待ちましょうか」とか言いかねない。


「そもそもだな、その首輪、どうやって首にはめんだよ」

「……おや、確かに」


 何だろう、と思って、リィカも体を起こす。まだ辛いが、この程度なら何とかなる。そしてすぐ気付いた。


「確かに、これじゃあね……」


 文字通り、ただの輪っかだ。首にはめようと思えば、頭から通すしかないが、頭を通せるほどの大きさはない。首にはめられるように、輪の一部を外せるようにして、さらには鍵がないと、首輪の役目を果たさない。


 そこまで考えなかったなと思いつつ、首輪に手を伸ばす。が、手に触れると、使い方が分かってしまった。


「ねぇユーリ」

「何ですか?」


 不思議そうなユーリの首に、首輪を当てる。そこで魔力を流すのだが、まだ致命的に魔力が足りなかった。


「……だめだー」

「なるほど」


 ユーリはジトッとリィカを睨むと、首輪をもぎ取る。そして、二人のやり取りを見て疑問を浮かべていたバルの首に、首輪を当てると魔力を流した。


「……あん?」

「やっぱり」

「こう使うんですね」


 バルの首に、首輪がはまっていた。

 ユーリが魔力を流した途端に、首輪の一部が首をすり抜けたのだ。バル本人は何が起こったのかさえ、分からなかっただろう。


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