二週間
それから二週間、時々寮に帰ることもあったが、基本的にはヴィート公爵家で過ごした。
レーナニアと一緒に料理もした。
リィカが「食べてみたい」と言ったら、レーナニアにも同じことを言われたのだ。そして、二人で料理をした。
ヴィート公爵とクラウスがすごく微妙そうな顔をしていたので、どうしたのかなと思ったのだが、レーナニアの料理を食べて納得した。食べられないわけではない。けれど、逆に言うと「食べられる」だけなのだ。申し訳ないけど、あまり美味しくない。
「アークバルト殿下は、すごく食べたそうにしてたけど……」
キャンプの時のことを思い出す。あの時、レーナニアが料理をしてくれないことを、すごく残念がっていた。
「あいつの舌がおかしいんだよ」
クラウスがリィカのつぶやきを拾った。無礼にならないのかなぁ、と心配になる言い様だ。
「でも、リィカ嬢の料理は美味いな」
「そうだね。貴族の料理はゴテゴテしたものが多いから、時々はこういうシンプルなものが食べたくなる」
「……あ、ありがとうございます」
一応、褒めてくれているんだろうと思って、リィカは口にする。クラウスやヴィート公爵まで食べると聞いたから、頑張って豪華にしてみたつもりなのだが、評価はシンプル。
……まあ、ここでこれまで食べたものを思い出せば、その評価にも納得はいくが。
「お父様もお兄様も、わたくしの食事を美味しいと言って下さったこと一度もないのに、リィカさんには言うのですか?」
「しょうがないだろ。お前の料理、実際美味しくないんだから」
「ずいぶん長く料理しているのに、一定のラインから上手にならないからね」
「ひどいです!」
不満そうなレーナニアは、最後はフンと怒ってそっぽを向いて、リィカは笑って良いのか悪いのか分からなくて、微妙に顔が引き攣っていた。
こんなやり取りをしながらも、メインはひたすら勉強である。半泣きしながら勉強し、そしてテストの日を迎えた。
アークバルトとレーナニアが、なにやらバチバチしていたが、リィカはそれどころではない。
すっかり忘れきっていた実技試験は、何の問題もなくクリアした。筆記試験は、思ったよりはできた……ように感じたが、果たしてどうなるか。
「あーつかれたー」
「リィカ、本気で真面目に勉強したんだな」
グッタリしていると話しかけられて、目をパチパチさせる。
そこにいたのはアレクだ。この二週間の間も普通に会っていたはずなのに、そういえばまともに話した記憶がない。すごく久しぶりな気がする。
「アレクは本気でやらなかったの?」
「やった、つもりだが。リィカほどじゃない」
休み時間も構わず勉強して、レーナニアに質問して。鬼気迫る様子に、話しかけるのも躊躇したと言われて、リィカは首を傾げつつ思い出してみる。
「そう言われれば、そうだったかも……」
話した記憶がないのは、自分が勉強に集中していたからか。でも、そういうアレクも、やや疲れた顔をしている気がする。
「アレクも、王太子殿下にいっぱい教わったんでしょ?」
「教わったというか、教え込まれたというか……。まあ適当に……」
微妙に目を逸らせているアレクを見て、リィカは思う。
「アレクって、真面目にやれば頭いいと思うんだけどなぁ」
旅の間のことを思い出す。アレクはこれまでの勇者の旅や魔族との戦いのことを、一通り調べてきていたし、魔物の情報を教えてくれたのもアレクだった。それらを調べて、全部覚えていたのだ。それってすごいことだと、リィカは思う。
「どうして俺が頭いいんだよ」
アレクはそう言うものの、単に本人のやる気の問題じゃないのかなと、思うのだった。
※ ※ ※
その二日後、学園は一ヶ月の長期休暇に入る。
リィカは、王宮で寝泊まりすることが決まったのだった。




