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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十九章 婚約者として過ごす日々

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ナイジェルの謝罪とレンデルの本気

 一晩たって翌朝。

 昨晩は、寝ようかなと思ったらアレクから風の手紙(エア・レター)で連絡が来た。やはり国王に連絡を入れたらしく、そこからアレクに話が伝わったのだ。


 リィカは軽く「大丈夫だよ」と伝えたが、アレクの歯切れはやたらと悪かった。どうしたんだろうと思ったが、結局は「それなら良かった」とだけ言っただけだった。


 今日会ったら聞いてみようと思いつつ、ミラベルとセシリーと一緒に寮を出る。そして学園に近い場所まできて、三人ほぼ同時に足を止めた。


 ――そこにいたのは、ナイジェルだった。


 リィカは、キャンプ以降初の対面である。ギロッと射殺しそうな目でリィカを見ている……が、その目の奥に怯えのようなものが感じ取れて、リィカは内心で首を傾げる。


「キャンプの時は迷惑をかけて申し訳なかった。……確かに謝りましたからな。では」

「……はい?」


 挨拶も何もなく早口で告げて、ナイジェルは背中を見せて去っていく。まるで逃げるような早足だ。呼び止める暇もない。


「ええっと……?」


 これは一体何をどう判断したらいいのだろうか。困ってミラベルとセシリーを見たら、二人も去っていったナイジェルを見ているが、リィカとは違って呆れた様子を見せている。


「あれが謝罪?」

「違うわね」


 ミラベルは肩をすくめる。困った顔のリィカを見て、ため息をついた。


「父親のガルズ侯爵閣下から、あなたに謝りなさいと言われたのでしょうね。昨日話したことの一端よ。問題の一つ、キャンプの時の暴走の件を、まずは謝罪して解決しようとしているのよ」

「……そうなんだ」


 あんな一方的にまくし立てただけのものが、本当に謝罪なのかと、リィカも疑問に思うところだが、それ以上に気になったのがナイジェルの見せた怯えだ。明らかに、あれはリィカに向けられていた。


「確かに公爵になったけど、だからってそんなに怖がるものなのかな?」

「え?」

「あ、いや、ナイジェル様が怯えているように見えたから。逃げるように去っていっちゃったし。貴族の人たちにとって、重要なのは分からなくはないんだけど」


 ナイジェルが怯えるとするなら、そこだろうとリィカは思ったのだ。今まで貴族位三位である伯爵相当の地位だったのに、一位の公爵になってしまった。二位の侯爵であるナイジェルを越えてしまったから。


 だからといって、あんなに態度が変わるものなのだろうか。喧嘩を売って欲しいわけではないが、ここまではっきり変わってしまうと複雑でしょうがない。


 リィカの疑問に首を振ったのはセシリーだった。


「たぶん違うよ」

「違う?」

「そ。身分じゃなくて、実力に怯えてるんだよ」

「……へ?」


 それこそあり得ないと思ったリィカだが、セシリーの「レンデルに聞いた方が早い」という言葉に、またも首を傾げた。



※ ※ ※



 すでに教室にいたレンデルに、セシリーが話をすると、レンデルは苦笑した。


「まだ怯えてるんだ、ナイジェルの奴。あっさり忘れて元に戻るんじゃないかと思ってたけど、案外引きずるね」


 リィカは、あの時ナイジェルが押しかけてきたときのことを思い出すが、そんなに怯えていたのだろうかと思ったが、話を聞いて納得した。


 怯えていたのは、あの時ナイジェルの上級魔法を凝縮魔法で相殺したことではなく、その後の《天変地異カタクリズム》だった、ということだ。


「よくよく考えれば、あの魔法の威力、非常識だもんね……」


 リィカがそう言うと、呆れた目が向けられた。


「よくよく考えなくても、非常識だって」

「そうそう。僕だってあの時は本気でビビったんだから」


 そうなんだ、とは思うが、リィカの中でその感覚は薄い。ジャダーカの《天変地異カタクリズム》の方が強力だし、魔王を相手にしたときだって、まともにダメージを与えられなかった。

 基準がそっちなので、一般の基準から遠ざかってしまうのだ。


「ねぇリィカ、あれも混成魔法だよね?」

「……? うん、そうだけど」


 身を乗り出してきたレンデルに、首を傾げつつ聞くと、レンデルの表情が少し緊張したものになった。


「……あれをさ、僕も使いたいって言ったら、使えるようになる?」

「《天変地異カタクリズム》を?」

「うん」


 真剣なレンデルにリィカは口ごもったが、本気だからこそ言わないわけにはいかないだろう。


「レンデルの持ってる属性は、火と水だよね」

「そうだけど」

「《天変地異カタクリズム》を使うのにはね、火と水と風と土、四つの属性全部持ってないと使えないんだ」

「ええっ!? そうなのっ!?」


 愕然としてレンデルが叫び、セシリーが「ありゃ」と言いたそうな顔をした。ガックリと落ち込んでしまったレンデルに、リィカは慌てた。


「ご、ごめんね、レンデル」

「……あ、いや、リィカが謝ることじゃないって。そっか、誰でも使えるわけじゃないのかぁ」


 リィカの謝罪には手を振って否定したレンデルだが、やはり落ち込むものは落ち込むらしい。リィカは頭を猛スピードで働かせて、何とかフォローを試みた。


「でも、火と水があれば、記録に残ってる混成魔法、《熱湯アクア・カリエンテ》と《水蒸気爆発スチームバースト》は使えるよ。他にも、混成魔法の防御魔法は、火だけ水だけで使えるし」


 レンデルは、少し驚いた顔でリィカの顔をマジマジと見た。そして、何かに納得したように頷いた。


「――なるほど。そっか、混成魔法ってそういうことか。自分の持ってる魔法の属性をかけ合わせて使うんだ。言われてみれば当たり前だけど、深く考えたことなかったな」


 うんうんと頷いて、質問を重ねてきた。


「それって、無詠唱じゃなきゃ使えない? 俺でも無詠唱使えるようになる? 教えてって言ったら教えてくれる?」

「……あ、えっと」


 リィカは目を泳がせた。無詠唱問題は、現在取り組み真っ最中だ。使えるようになるかどうかは分からないが、現状では教えるわけにはいかない。


「《熱湯アクア・カリエンテ》も《水蒸気爆発スチームバースト》も、記録に長ったらしい詠唱が残ってるから、まずはそれで試してみてもいいのかなと思うけど」


 過去に発動に成功させた人がいるという、この二つの混成魔法だが、それを発動させるために、上級魔法の三倍か四倍はありそうな長い詠唱をして、発動させたらしい。


 リィカも最初その記録を見つけて、それを見ながらやってみた。というか、やろうとしても、何度も途中でつっかえてしまって、結局発動には至らなかった。

 つまりリィカは、無詠唱でしか混成魔法の発動に成功していないのだが、わざわざそれを言う必要もない。


 順番で考えるなら、まずはそっちだろうと思って言ったリィカの言葉に、レンデルは真剣な目で頷いていた。


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