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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十九章 婚約者として過ごす日々

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ミラベルの道の先

 それから色々大騒ぎになった。


 まあ一番の問題とされたのが、階段に突き落とされたというのに、一切の怪我もなくピンピンしているリィカだったりするのだが。


 ミラベルとセシリーがたまたま目撃していて、絡んできた三人も力をなくしたようにうつむいて、自分たちが見たことを素直に話しているそうで、一応それで信じてもらうことができた。


「怪我がなくて良かったです」


 学園長はそう言ってくれたが、その目にあったのは安堵ではなくて呆れだった。


 そんなこんなで事情聴取が終わり、遠くの方で「国王陛下に連絡を」などという言葉が聞こえて、「大げさにしなくていいっ!」と叫びたかったのは我慢して、ようやく遅めの夕食にありつけた。


「ベル様もセシリーも、ごめんね、付き合わせちゃって」

「何を言ってるの。目撃者なのだから、当たり前でしょう」

「そういうこと。ちゃんと見たこと話して、ああいうヤバいのは退場してもらわないと」


 食事をしつつのリィカの発言に、ミラベルは何てことなく答えるが、セシリーの発言はやや過激だ。苦笑したリィカだが、実際に"退場"するかどうかはまだ分からない。これでリィカが怪我でも負えば、検討の余地なく退学となるらしいが、果たしてどうなるか。


「リィカさん、気にしては駄目よ。悪いのは彼女なのだから」


 ミラベルに言われて、リィカはほんのり口元を緩ませて頷いた。


「うん、大丈夫。ちゃんと分かってる」


 カッとなったとはいえ、人を階段に突き落としていいはずがない。

 そして過去がどうであろうと、今は今だ。公爵家の人間になったリィカに、男爵家の人間が貶すような言動をしていいはずがない。


 そんなリィカの様子に、ミラベルは安心したように笑うが、すぐ複雑そうな表情に変わる。


「ベル様……?」

「リィカさん、あのベネット公爵の娘なのよね。なんか信じられないと思って」

「ベル様、会ったことあるの?」

「一度だけ、モントルビアに連れて行かれたときにね」


 ミラベルの父親であるレイズクルス公爵とベネット公爵は、仲が良い。

 ベネット公爵が招かれてアルカトル王国に来たように、レイズクルス公爵もモントルビア王国に招待されたことがあり、その時にミラベルも一緒に行ったのだ。


「……一言で言えば、父と仲良いだけある人だ、というところかしらね。いい思い出はないわ」


 ハァとため息をつく。


「もちろん、親子が絶対に似るなんてないけれど。でも息子のユインラム様は、本当に父親とそっくりだったから」

「……そうなんだ。わたしは結局、その人に会ってないから」


 名前をチラッと聞いただけだ。別に会いたくもないので構わない。血の繋がりだけで見れば、その人も"兄"になるのだろうが、リィカにとっての兄はクリフだけだ。


「……実はね、父に呼び出されて、一度実家に戻ったの」

「えっ!?」


 唐突な言葉に驚いた。ミラベルをマジマジと見てしまった。思い出しただけで疲れた、という様子だ。セシリーは顔をしかめている。


「それで言われたわ。リィカさんと仲良くなりなさいと。魔法の使えないお前でも、元平民の小娘と仲の良いフリくらいできるだろうと。そして、弱みを見つけて報告しろって」

「……ええっと?」


 フリも何も、すでに仲は良いと思う。……弱みはなんというか、わざわざ見つけなくても、まだまだ弱みばかりだろうと思う。話の意味が全く不明だ。


「説明するのも面倒だし、する必要も感じなかったから、黙って頷いてきたけれど。――父が私に興味がないだけか、ザビニー先生やナイジェル様から報告がいっていないのか。その両方なのか」


 ナイジェルの父親はレイズクルス公爵の腹心だし、魔法教師であるザビニーはその派閥の関係者だ。リィカとミラベルの仲が良いことも、ミラベルが魔法を使えるようになったことも、二人は知っているはずだが、レイズクルス公爵は知らないらしい。


「一番の可能性は、報告がされてもいても、父が本気にせずに聞き流していること、かしらね」


 呆れた様子のミラベルは、家族への未練を断ち切っているように見える。表情にも言葉にも、悲しさや寂しさのようなものは感じられない。


「まあ、安心して頂戴。貴族の常識ややり取りに慣れてないから簡単に騙せます、なんて言わないから」

「……オネガイシマス」


 やっぱりそうか。そう思われているのか。自分でも分かっているとはいえ、やはりそう言われると落ち込む。

 そんなリィカに、ミラベルはクスッと笑う。


「でもね、相当父の焦りが見える。今まであったモントルビアとの繋がりが完全に断たれて、逆に"敵"に回ってしまった。キャンプ時のナイジェル様の暴走も悪かったし、追加で派遣された軍の中に、父の派閥の人間が誰も参加していなかったことも、非難の対象になってる」


 軍の編成に、通常であれば私事都合が入り込む余地などない。しかし、魔物大量発生の報告に、生徒たちの親兄弟や親類が参加を表明し、それを騎士団長が受け入れた。


 そうなると、自分の子どもがいるにも関わらず、自ら挙手をすることなく、参加しなかった魔法師団長たちが逆に目立つ。


 さらには、キャンプの時にナイジェルがリィカの邪魔をして、背後から攻撃した話が知れ渡ったことで、「何をやっているんだ」との声が大きくなった。


 話を聞きつつ、リィカは「へぇ」とか「そうなんだ」としか思わず、そうとしか思っていないことを見事に察しているミラベルが、半分呆れつつも説明を続けた。


「そういう話が出て父たちの耳に入ること自体、今までなかったことなのよ。ナイジェル様の暴走なんて、今までだったら父の権力で揉み潰せてた。皆が父を恐れて何も言えなかったのに、それを口にするようになってる」


 やはり「そうなんだ」としか思っていないリィカに、ミラベルが指を突きつけた。


「あなたの存在のせいで、父たちの権力が揺らいできているのよ」

「…………なんでっ!?」


 一瞬、二瞬ほど考えて、リィカは叫んだ。リィカは何もしていない。どちらかといえば、お近づきになりたくない人たちだ。だというのに、なぜそんな話になるのか。


「ただの"平民の小娘"だと侮っていたあなたが、マンティコアや大量の魔物と対等以上に戦っていたこと。父たちのように、剣士たちを巻き添えにしていないこと」

「そりゃあまぁ……」


 巻き添えにしないのは当たり前のことだ。むしろ、なぜそうなるのかが分からない。


「そうやって実力を目の前で見せつけた上で、あなたがベネット公爵の娘だということが判明した。所詮は平民の血だと思っていたのに、真っ向から覆った。貴族にとって、これは決定的すぎる変化よ」

「……………うーん」


 そんな感じの話は、モントルビアでマルティン伯爵から聞いた。なので一応理解しているが、だからといって自分が変わるわけじゃない、という気持ちの方が強い。


「平民の血筋のままだったら、例えあなたが魔法師団に入ったとしても、師団長になることはできなかったわ。でも、ベネット公爵の血があることで、あなたははっきりと師団長の座を脅かす存在になったのよ」


「……なりたいなんて、全く思ってないけど」


「あなたの気持ちは別問題よ。そして、先ほども言ったけれど、繋がりのあったベネット公爵が、逆に敵になった。現当主の妹がアレクシス殿下と婚約した以上、当然ベネット公爵家は、アルカトル王家との繋がりが強くなったと思われるわ」


「……ん、まあ」


 アレクとクリフは喧嘩ばかりしていたから、あまり気は合わなそう、とリィカは思い出しつつ思うが、それもおそらくは別問題なのだろう。

 実際には、リィカを間に挟んで言い合っていただけなので、コーニリアス辺りはそれがなければ仲は良い方だろうと思っていたりする。


「あなたを派閥に取り込んだ方が得だということに、やっと父たちも気付いたんでしょうね。だからこそ、私にあんなことを言ってきたのでしょうけど。今さら遅すぎることにも一緒に気付けばいいのに」


 面倒くさいわ、とつぶやくミラベルにリィカは苦笑した。出会った頃の暗さがないのは、いいことだと思う。けれど、ふと気になった。


「ベル様、卒業したらどうなるの? ナイジェル様と婚約しているのは、そのままなんでしょ?」


 ミラベルが魔法を使えるようになっても、気持ちが完全に家族から離れても、それはミラベルだけのことであって、取り巻くものは何も変わっていない。婚約している以上、結婚しなければならないのではないだろうか。


「……ええ。まあその辺りは賭けなのだけど」


 ミラベルが少し笑った。


「この間のキャンプで、魔法師団の副師団長の派閥の人と、繋ぎを取れたの。話したら驚かれたけど、入団試験を受けるのであればどうぞって言ってくれてね」

「え?」

「魔法師団で、副師団長の派閥で入団すれば、きっと父は私を家から追放して、除籍すると思うのよ。れっきとした裏切りだからね」


 過激な内容を、ミラベルは楽しそうに話す。だが、リィカは首を傾げた。


「入団に、派閥が関係あるの?」


 入団してから、どこかの派閥に入るのなら分かる気はする。それとも入団前からどこそこの派閥に入ると決めて、繋ぎを取っておくのはありなのだろうか。


「魔法師団は、父に……師団長に任せると、上位貴族か自分の派閥関係の家の出身者しか合格にしないのよ。それで国王陛下の命で、副師団長にも入団試験の権限が与えられたのよ」

「あ、なるほど」


 つまり、師団長に任せると縁故関係かコネのみで、入団試験の合否が決まるということか。おそらくそこに実力が加味されることはない……ことはないのかもしれないが、どちらにしても、試験を受ける前から合否は決まっているということだ。


 けれどそれでは、縁故もコネもない実力者を逃すことにもなる。だからこその、副師団長の権限ということか。

 そう納得したリィカに、ミラベルは笑った。


「除籍されれば、私はただの一人の平民になるけれど、それでいいわ。それでもやっていけるもの。今はそれだけの自信がついた。――リィカさん、あなたのおかげだわ」

「ベル様……」


 少し驚いて、でもサッパリして嬉しそうな様子に、リィカも笑みを浮かべた。


「ベル様ががんばったからだよ。――あ、この後久しぶりにベル様の魔法、見せてもらおうかな」

「ええ、ぜひ……」

「ちょっと、二人とも本気? もういい加減遅いのに、これから始めてどうすんの。さっさと風呂入って寝るよ」


 ずっと黙っていたセシリーにピシャリと言われて、リィカとミラベルは顔を見合わせて、気まずそうに笑ったのだった。


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