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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十九章 婚約者として過ごす日々

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貴族の役目

「相変わらず、嫌な感じの魔力ですね」

「そうだね……」


 隷属の首輪と王宮の一室を借りて、ユーリがつぶやくと、それにリィカは気のない返事を返す。それよりも、魔法師団の人たちに何をどうやって教えればいいのかのほうが、気になって仕方なかった。


「あのなリィカ、どうしても嫌ならそう言っていいから……」

「何を言ってるんですか、アレクは。良いわけないでしょう」


 悩むリィカに言ったアレクの言葉は、ユーリがピシャリと遮った。


「リィカには勇者であるアキトを教えて、魔法を使えるようにした実績があります。平民だった頃なら『嫌だ』と言ってもきいてもらえるでしょうが、今それをしたらただの我が儘だと言われるだけです」


「平民だったらいいの?」


 アレクは無言だが、代わりにリィカが疑問をもらす。逆ではないのだろうか。平民だったら、言われたことに否を言えるはずもないのだから。

 リィカの疑問に、ユーリは若干ためらった様子を見せたが、すぐに説明を始めた。


「平民は、国に対しての責任を持ちません。もちろん、それ相応の職に就けば別ですが、そうでない場合は、国に対して定められた税を納めている限り、国に守られていればいい存在です」

「……うん」


 一応、分かるような気はしてリィカは頷く。それを確認して、ユーリは話を続けた。


「一方、王族や貴族はそうした平民たちの税によって生かされています。それが許される理由が、国と国に住む平民たちを守る役目を負うからです。まあ、それを意識していない貴族が多いことは否定しませんが」


 やれやれと言わんばかりに肩をすくめる。


「本来、貴族と平民は持ちつ持たれつですよ。どちらが偉いとかはないんです。だから、貴族だからといって平民を好きにしていいことはありませんし、平民だからといって貴族に従わなければならない理由もありません」


 リィカは息を呑んだ。ユーリはそれに気付いているのだろう、その眼差しが申し訳なさそうにリィカを見る。


「……そうはいっても、実際に身分は貴族が上です。守るために、ある程度指示できる権限が必要だからです。しかし利益のみを享受して、役目を放棄している貴族も多数いることも確かです。平民たちが怯えるのは、そういった貴族に対してでしょう」


 けれど、と続ける。


「覚えていて下さいね。貴族は平民のおかげで生きることができているんです。その貴族になった以上、リィカもどうか役目を放棄しないで下さい。国と民を守るための最大の戦力が、軍隊です。その軍を強くするための指南だって、重要な役目ですから」


「……そっか」


 リィカはつぶやいた。貴族にだって色々いる。横柄な貴族ばかりじゃない。それはつまり、自らの"役目"を忘れないでいる貴族たちなのだろう。


 リィカはずっと思っていた。貴族が平民に何をしても罪にはならないと。平民はただ耐えるしかないんだと。それは違うと言われても、実際にそうだったから。

 でも本当に違うのだ。そうであってはいけないのだ。平民あっての貴族なのだから。


「分かった、やる。わたしにやれることはやる」


 リィカは言った。アレクの隣にいたいなら、逃げることなどできない。怖くても、できることを精一杯頑張るだけだ。

 そんな決意を込めたリィカの宣言に、ユーリが笑った。


「ええ、それでいいですよ。リィカならできますよ。僕も手伝いますから、あまり気負わないで下さいね」

「……え、でも」


 リィカは一瞬言葉に詰まる。魔法師団への指南を言われたのは、自分なのだ。


「手伝ってもらって、いいの……?」


 ユーリは神官だ。魔法使いとは違う。神官は軍に所属するものではないのだ。


「当たり前でしょう。別に一人で頑張れと言うつもりはありませんよ。そこは勘違いしないで下さいね? 陛下方だって、そう仰ると思いますよ」

「そう、なんだ……」


 リィカは何となく緊張から解放された気がして、肩の力が抜ける。それにユーリが笑う。そしてアレクがリィカの頭に手を置いて、口を開いた。


「俺も手伝う。教える方は役に立たないだろうが、横柄な奴を黙らせることくらいはできるだろうからな」

「……うん、ありがとう」


 リィカが笑うと、バルは困った声を出した。


「……あー、おれはどうすっかなぁ」

「バルは遠慮した方がいいかもしれないですね。騎士団長の息子が偉そうにしていたら、あまり魔法師団員たちにいい顔されないでしょうから」

「……だよな。悪ぃな、リィカ」

「あ、ううん」


 バルに答えながら、リィカは"偉そう"の言葉で、あることを思い出した。魔法師団員への指南の話は、副師団長からあったと言っていた。けれど、当然ながら魔法師団のトップは、副師団長ではないのだ。


「……あの師団長が、わたしに素直に教えてもらおうと、するのかな?」


 ミラベルの父親でもある、レイズクルス公爵。自分を逆恨みしている、いわばその総本山ともいうべき人物。旅に出る前に会ったことはある。戻ってきてからはどうだっただろうか。パーティーとかにいたのかもしれないが、リィカの記憶にはない。


 ただ言えるのは、教えて下さいと頭を下げるような人物ではない、ということだ。


「「「あー……」」」


 アレクとバルとユーリが、全く同じタイミングでつぶやいて、その視線が遠くに向かう。無理だな、というつぶやきはバルだ。


「……その辺りは父上に確認するが。副師団長の派閥にだけ教えるというのはできないから、おそらく希望者を募って教える形をとるんじゃないかと思うが」


 あくまでも派閥ではなく、希望者。そういう形にすれば、まず師団長派閥の人間が教わろうとすることはないだろう。


 貴族ではあってもまだ学生に過ぎないし、融通が利くだろうというアレクの言葉に、リィカはとりあえずホッとした。駄目なのかもしれないが、正直まだ怖い。


「ただですね、その前にこっちをどうにかできる目処が立たないと、教える話になりませんからね」

「……え? あ……」


 ユーリの呆れ半分の言葉に、リィカはキョトンとした。そして、その手に持っているものに、得心がいく。


 隷属の首輪を、隷属ではなく、あくまでも魔封じのみに使えるようにできなければ、下手に教えることもできない。そうだったと思って、リィカは首をすくめたのだった。


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