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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十九章 婚約者として過ごす日々

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休憩時間

「……こういうわけで、今後クレールムはベネットの名を名乗ることになったからな」

「よろしくお願いします」


 翌日、学園で授業が始まる前に、担当のハリスが説明して、リィカは皆に挨拶する。


 ある程度、事前情報として流れていたからかもしれないが、生徒たちの顔には驚きも疑問もないようだった。本当に、貴族社会では珍しいことでもなんでもないのだと分かる。


 挨拶を終えてリィカが席に戻る。席が二つ空いている。アレクとアークバルトだ。二人の王子は、今日は登校していなかった。その理由が、昨晩リィカが襲撃されたことによるものだというのは、朝にアレクからの風の手紙(エア・レター)で言われた。


 曲がりなりにも現ベネット公爵の妹であり、第二王子の婚約者となったリィカが襲われて殺されそうになったというのは、かなりの重大事件らしい。リィカにその意識はなくても、国として放置はできない。


 リィカを守るための護衛まで配置されている。けれど、あからさまに兵士を増やすと、他の生徒たちの不安を煽る。襲撃のことは知られていないから、なおさらだ。そのため、気配を消せる国王の諜報部隊『影』の面々がついている。


 というのも、アレクに教えられたことだ。教えられていなかったら、朝からいる複数の知らない魔力に、不安になっていただろう。


「リィカ」

「おはようございます」


 後ろの席にいるバルとユーリに声をかけられて、リィカは笑みを浮かべる。二人に会うのはキャンプから戻った日以来だ。ちなみに昨晩の襲撃のことは、この二人にも話をしてある。そのせいか少し表情が険しい。


 授業が始まってしまったので、そのままリィカは前を向く。しかし、次の休憩時間になった時点で、話をしたがっている様子のレーナニアやフランティア、エレーナを振り切って、三人は教室を出たのだった。



※ ※ ※



「何から話をしたものか……。とりあえず、お久しぶりです、リィカ」

「……あ、うん、久しぶり」


 周囲に誰もいないことを確認してから、ユーリが口を開く。リィカは、そこからなんだと思いつつ、挨拶を返した。バルは少し困った顔をしつつ、口を開いた。


「それにしても、ベネット公爵の娘だったなんてな。……あの時したあの質問、そういう意味だったか」


 バルが言っているのは、旅の途中のベネット公爵邸での話だろう。リィカは頷いた。


「うん。……その、ごめんね。どうしても言えなくて」

「気にすんなって。まぁ驚きはしたけどな」


 優しい笑顔のバルに、リィカは安心する。本当の兄ができてなんだけど、やはりお兄ちゃんみたいだなと思う。


「リィカの魔力は、突然変異じゃなくてあの男から継いだんですね」

「うん。前に会ったときは分からなかったけど、今回会ってね、分かっちゃった」


 リィカは苦笑する。旅の途中、ユーリに「リィカも突然変異で魔力量が多い」と言われたことを思い出す。


 以前に元ベネット公爵と会ったときは、魔力を感じることにまだ不慣れだった。それが分かるようになったのは、成長した証でもあるのだろう。複雑だけれど、それがもうリィカの足を止めることにはならない。


「大丈夫だよ。家名が変わっても、これからもよろしく」

「もちろんですよ。それよりもリィカ、婚約おめでとうございます」

「…………ぅ……」


 リィカが小さく唸って、顔が赤くなる。


「ああ、そうだったな。アレクの声が明らかに浮かれてたな。おめでとう、リィカ」

「……うん、ありがとう」


 まだまだ恥ずかしいが、それでも嬉しい。はにかんで笑うリィカに、バルもユーリも嬉しそうに笑う。しかし、不意にバルの顔から笑みが消える。


「……昨日の襲撃とやらだが、魔封陣ってのは本当か」

「うん」


 リィカとユーリの表情からも、笑みが消えた。改めてリィカは詳細について語った。


「王宮から帰るとき、魔力を探りながら帰ってたんだけどね。何も感じないんだけど、違和感があって。そして、もうちょっと探ってみようかなって思ったら、そこにいきなり剣を持った人が現れたの」


 そして剣技を放たれて、足元に魔封陣が発動した。剣で対抗しようと思ったけれどできず、魔法で倒した。そして、魔封陣を壊そうと魔力を込めているときに、アレクが駆け付けてきてくれた。


「……まあ、カストルが裏で手を引いているんでしょうけど、いきなり現れたっていうのが気になりますね」


 リィカの説明に、ユーリが考える。自分もそうだが、魔力で周囲を探ることは、もう自然に近い範囲でできるくらいには習熟している。それなのに、何も感じなかったというのが気になる。


 バルも腕を組んで難しい顔をしていた。


「一つ、気になるっつうか。結局そのまま疑問を流しちまったことがあったんだが。ルバドールから長い地下通路を出て、魔族たちの住む村に行ったときのことだ」


「……え、あ、あのダランと暁斗が戦った……?」


「他にも、四天王たちがゾロゾロ出てきたときですよね。それがどうかしたんですか?」


 ルバドール帝国から北に向かって伸びる地下通路。その出口からさらに一ヶ月ほど北に進んだ先にあった集落、リョト村。そこは、魔族が人を従えて住む村だった。

 そして、その村を出て間もなく、魔族一行に襲撃されたのだ。


「あの時、村の村長の視線に気付かなかった。そして、背後に魔族たちがいたことに気付けず、その結果アキトが魔族の結界に囚われた。……正直、あいつらがそこまで気配を隠すことに長けていたとは思えねぇ」


 それができたのであれば、戦いの最中でもそうしていただろう。しかし、そんな様子はなかった。


 その後、バナスパティが登場したりリィカが倒れて調子が悪くなったり、アレクの剣や森の魔女との出会いなど色々あって、その疑問をここまでバルも思い出すことがなかった。


 バルがいくつか周囲に視線を向けるのに合わせて、リィカもそっちを見る。姿は何も見えないけれど、そこには魔力を感じる。きっとこれが、アレクの言っていた『影』の人たちだろう。


「確かに戦いの中でここまで隠れてしまえば、見つけるのも困難ですよね。できるのであれば、していたはずです」


 同じようにユーリも視線を向けながら、バルに同意する。姿を隠して気配を隠し、その上で攻撃してこられたら、ただただ対処が困難だ。

 あの時、村長も魔族たちも気配を隠していた。それができるのに、戦いの場でしてこなかった理由は。


「魔道具、かな」


 リィカが言って、バルもユーリも頷く。


「サルマさんたちの乗っている馬車も、風魔法の魔道具で気配を消してるって話、あったよね。あれはEランクの魔物にしか効果ないって言ってたけど、それをもっと進化させたものがあれば……」


「可能でしょうね。とはいっても、おそらく万能ではないのでしょう。例えば、止まっているときしか気配を消せないとか」


「それなら辻褄あうな。サルマたちの馬車も、動いてる最中も発動させてっから効果が弱いと考えりゃ、分かりやすい」


 そして三人同時に顔を合わせて、同時にため息をついた。


「やりにくいですねぇ……」


 ユーリの言うことに全面的に賛成だと思いながら、バルがリィカに聞いた。


「違和感はあったんだな?」

「うん。今から思えば、逆に何も感じなさすぎて、おかしいと思ったのかなと思うけど。それでもやっぱり分かりにくいと思う」

「そうだな。それでもやるしかねぇが」


 多少でも心構えがあるのとないのとでは違うはずだとバルが言うのはもっともなので、リィカもユーリも頷くしかない。本当にやりにくいが、命を狙ってくる以上、そんなことは言っていられない。


「でもさ、本当にわたしのことを殺そうとしたのかな」

「どういうことですか?」


 リィカがふと疑問をもらすと、ユーリが不思議そうに反問した。


「だって、わたしが魔封陣の中でも魔法を使えること、カストルだって知ってるよね。ちょっと剣の腕が立つ人が相手だからっていって、それで殺せるって思うのかなって」

「「……………」」


 リィカの言葉に、バルとユーリが顔を見合わせる。その様子に何かあるのかと思って首を傾げると、バルが渋々といった感じで口を開いた。


「親父が言うのにはな……おれらを異端としてはじき出すように、その流れを作ろうとしてんじゃねぇかってことだ」

「……え?」


 バルもユーリも、苦々しい顔をした。


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