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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十九章 婚約者として過ごす日々

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再びの魔封陣

「なんで……!」


 突如出現した魔封陣に、リィカは叫ぶしかできない。しかし、すぐそれどころではないことに気付いた。剣を持った男……先ほどリィカに攻撃を仕掛けてきた男が、一緒に魔封陣の中にいるからだ。


 かつてカトリーズの街でカストルが作った魔封陣は、街一つを飲み込んだ。しかし、この魔封陣はせいぜい五メートルか六メートルか。魔族が作る決闘の結界よりも、さらに小さい。


 それはつまり、この狭い空間で剣の使い手とリィカは戦わなければならないということだ。


(凝縮魔法を使えば、どうにかできる。でも……)


 罪を犯した人に付けられる"魔封じの枷"というのがある。それを付けられることで、魔法を使えなくなるのだ。

 逃亡防止という意味でも治安維持の意味でも、それは当然あってしかるべきもの。


 けれど凝縮魔法は……正確には魔法名すら唱えずに魔法を使うことができれば、"魔封じの枷"の効果は発動しない。そして、この"魔封陣"と"魔封じの枷"は、大元の原理は変わらない。


 つまり、魔封陣の中で魔法を使ってしまえば、リィカやユーリが仮に何か罪を犯したとしても、"魔封じの枷"を使用しての拘束が意味ないことを、証明することになってしまう。


 その事実を周囲に知られることは、あまり良いことではない。そうユーリから話を聞いたのは、いつのことだったか。そんな状況になることもないから、心配はないでしょうけど、とその時は笑っていたが。



 リィカはアイテムボックスに手を触れた。そして剣を取り出す。これでどうにかできるのなら、どうにかしたい。


「へぇ、魔法使いが剣を使うのか」


 相手が驚いたようなバカにしたような感じで言ってくる。リィカは顔をしかめた。それはつまり、きちんと自分のことを知った上で攻撃してきたということか。


 相手は人間だ。魔族じゃない。この魔封陣といい、一体どういうことなのか。分からないけれど、考えている余裕はなかった。相手が剣を振ってきた。


 ――ギィンっ!

「…………っ……!」


 唇を噛む。何とか受けることができたが強い。少なくとも、セシリーとは比べものにならない。アレクたちとはどうなのかは、レベルが違いすぎて全く分からない。


(ムリ、だ)


 魔法を使わず、勝てる相手じゃない。あっという間に、魔封陣ギリギリのところに追い込まれる。


「魔法を使えない魔法使いはこんなものか。トドメだ」


 剣が振り上げられる。その瞬間、リィカは凝縮魔法を一発放つ。それは狙い違わず、相手の顎に命中した。


「ガッ!?」


 何が起こったか分からない。そんな顔で相手は倒れた。リィカはフーッと息を吐く。昏倒しただけで死んではいないことを確認する。そして、魔封陣の中央に手を置いて、魔力を流した。


(この状況、どうしようかな)


 魔力を流しつつ、考える。他に敵がいるかもしれないことも合わせて、とりあえずアレクに連絡しようと思ったとき。


「リィカっ! 大丈夫かっ!?」

「あれ……?」


 そのアレクが姿を見せた。なんでと思ったが、そういえばジェフがいたことを思い出す。ということは、彼が知らせてくれたのか。

 魔封陣の紫色の光が強く光る。そして、バリィンという音を立てて壊れた。



※ ※ ※



「おいっ王子様! 大変だ!」


 ジェフが息せき切ってそう言ってきたのは、アレクが城の中に入ろうとしていたときだった。寮に帰るまでの道のりで心配などいらないと分かっても、なかなか不安が消えてくれなかったが、それを振り切って戻ろうとしていたとき。


 リィカの護衛を頼んだはずのジェフが、いつになく慌てている。


「あの女の子が、変な紫色の結界の中に閉じ込められた!」

「……!」


 考えるより早く、アレクは駆け出していた。ジェフの気配が城の中に入っていくのは、国王に報告するためだろうか。


 走りながら考える。"紫色の結界"と聞いて思い浮かべるのは、あのカトリーズの街での魔封陣だ。まさかと思いながら、アレクは走る。


「リィカっ! 大丈夫かっ!?」


 リィカの気配が近づくなり、アレクは叫ぶ。叫びながら、リィカの姿を視認する。やはり魔封陣だ。忘れるはずもない。中には、リィカの他に倒れている男が一人。


「あれ……?」


 膝をついて地面に手を置いているリィカは、アレクの姿を見てキョトンとした。どうやら何事もなく終わったらしいと判断して、ホッとする。そして、魔封陣が壊れた。


「無事か、リィカ」

「うん。でも、この人どうしよう」


 リィカの視線が、倒れている男に向く。アレクも同じように見て、男の手に剣が握られているのを見て、それを奪い取る。使い込まれた剣だ。それを握る手も、相当に剣を握ってきた痕跡がある。


「こいつ、強かったんじゃないのか?」

「うん、わたしじゃ手も足も出なかった。だからその、魔法を使っちゃって……」

「別にそれは気にしなくていい」


 アレクは本心から言って笑う。"魔封じの枷"の意味がないことを知られるのは、確かに国から見ると脅威にはなり得る。だが、何もしないで害されるようなことがあったら、そちらの方が問題だ。


「もう間もなく、兵士が駆け付けてくるだろうから……」


 アレクの言葉の途中で、バタバタと複数の足音がする。アレクが声をかけて、倒れていた男を兵士たちが回収していく。


 アレクは周囲の気配を探る。特に怪しい気配はない。リィカも似たように探って、少し腑に落ちない顔をしている。


「どうかしたか?」

「……うん、さっきもね、何も感じないところから突然あの男が現れたの。何も感じないんだけど、何か変な感じがして……ごめん、上手く言えないけど」


 リィカの言葉に、アレクは改めて周囲を探る。特に何か変な感じはしない。


「それ、今もあるか?」

「ううん、今は何も……」

「そうか」


 であれば、探るのは無理だろう。気配と魔力という差はあっても、周囲に誰か、もしくは何かいないかを探るという意味では同じだ。自分もリィカも何も感じないのであれば、おそらく何もないのだろう。


「リィカ、寮まで送っていく」

「お城に行かなくて平気? 事情説明とか……」

「今日はいいさ。明日おそらく呼び出されることになると思うから、そのつもりでいてくれ」

「……うん、分かった」


 とりあえずの話はアレクからしておけばいい。後は、捕らえた男の尋問もあるだろうから、リィカから話を聞くのは明日で十分だ。そう思いつつ、アレクが言えば、リィカも少し躊躇って頷く。


 そして、リィカを促して、寮への道を歩き始める。


「カストル、だよね」

「ああ、だろうな」


 歩きながらつぶやいたリィカの言葉に、アレクもポツッと同意したのだった。


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