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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第二章 旅の始まりと、初めての戦闘

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追憶―アレク⑤―

 〔アレクシス〕


「……眠れない……」

夜、ベッドの上でゴロゴロするが、どうにも眠気がやってこない。


ヤクルス相手にずっと気を張っていたせいなのか、神経が過敏になってしまっているようだ。


諦めて少し風にでも当たろうかとベランダに行きかけて、ふと、何かが引っかかった。


「……何だこれ? 気配? だいぶ薄いけど……人の気配か……?」


目をつぶってさらに集中する。

場所は……外か?


ベランダに続く窓にかけよって、外の気配を探る。

すると、部屋の前にある大きな木の辺りに、気配があった。


そっちをみて、ふと何かが光った気がした……、と思った瞬間。

俺は駆け出した。


ベランダの手すりを思い切り蹴って空中に飛び出す。そして、木の枝の上に立っていた人間めがけて、膝蹴りをかました。


そいつは木の枝から落ちて……、ついでに俺も、勢いのまま空中に投げ出された。


「ぅどわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


落下というのは、結構な恐怖だ。

だが、俺が蹴っ飛ばした奴が、ナイフを取り出したのを見て、一気に冷静になる。


――剣はない。でも。

飛んできたナイフは、近くの木の枝に捕まって躱す。そして、枝を離して、そいつの上に飛び降りた。


「ぐはっ!!」

そして、そいつは俺を上にのせたまま、地面に叩き付けられた。




「ふーっ。何とか無事降りられた……」

さすがに怖かった。


「さて、こいつは……、一応生きてるか……」


相当な高さから落下して、俺の体重も合わせて地面に叩き付けられたのに、頑丈な奴だ。

とはいっても、治療しなければそう経たずに死ぬことになるだろう。


王宮への侵入者だ。背後関係を中心に、取り調べる必要があるだろうが……。


「音がしたのは、確かこっちからだ」

「気をつけろよ!」

そんな話し声に、巡回の近衛兵たちが来ていることに気付く。


「悪い! こっちに来てくれ」

俺の方から近衛兵に声を掛けると、一瞬警戒されるが、


「アレクシス殿下!? 失礼いたしました! なぜこんな所に……」

俺は、地面で倒れている奴を示す。


「こいつを頼む。この木の上から城を伺っていて、何か武器を取り出したようだったから、とっさに蹴り落としてしまったんだが……」


「侵入者ですか……。かしこまりました。ありがとうございます、殿下。報告は私どもの方から行いますので、殿下は部屋へお戻り下さいませ」


「ああ、そうなんだが……」

こいつが、城のどこを、誰を狙っていたのかが気になる。少なくとも、俺ではなかったはずだ。


少し考えて、俺は木を登り始めた。こいつが立っていた場所から確認するのが、一番早い。


「殿下! 何されているんですか!?」

「木登り。こいつが誰を狙っていたか気になるから確かめる」

「それは私どもの仕事です!」

「俺のことは気にしなくていい」

「ああああああああ」


近衛兵が何やらうめく声が聞こえたが、他の兵士に声を掛けられて、侵入者を運んでいった。

そして、俺は枝の上に立っていた。


「あっちは、俺の部屋だよな。――こうしてみると、結構距離あるんだが……」

部屋の前に木があるといっても、そんな目の前にあるわけじゃない。


「7~8メートルくらいか? よくここまで届いたな」


飛び出したときは無我夢中だったが、改めて考えると怖い。二度やれと言われても、絶対無理だ。


「で、あいつが見ていたのは、確か、あっち……」

その方向を見て、顔がこわばるのが、自分でも分かった。



「アレクシス殿下!」

呼ぶ声がして下を見ると、そこにいたのは近衛隊の隊長、パターソンだった。


「お前が来たのか」

「殿下がいると聞かされて、私が来ないわけには行かないでしょう?」


まあ、確かにこんな時は一番上の人間が来ざるを得ないか。

悪いとは思うが、もう少し付き合ってもらう。


「パターソン隊長、ここまで上がってこられるか」

「は?」


一瞬、不思議そうな顔をしたが、すぐに何かを察したらしい。

靴を脱いで上がってくるスピードは結構早かった。


「ずいぶん上手いじゃないか」

「小さい頃は木登りばかりして、親に怒られていたものですよ。――それで、殿下。こちらで何を?」


「侵入者が、ちょうどここに立っていたんだ」

当然侵入者の話は聞いているんだろう。表情が険しくなる。


「あっちの方を見ていた」

俺が指さした方向は、――兄上の部屋だった。


「俺の目には、兄上の部屋の窓が少し開いているように見える」

「ええ。私の目にもそう見えますね」


「さすがに中は見えないが、確か位置的に、ここから開いている窓の直線上にベッドがあったはずだ」

兄上が寝ているはずのベッド。


ここから、例えば弓矢などで開いている隙間を狙って打てば、兄上に当たっていたかもしれない。というか、間違いなくそれを狙ったんだろう。


「……位置については、私の方でも確認いたします。なぜ窓が開いているのかも気になりますので、合わせて確認を行って参ります」


「ああ、頼んだ」


「かしこまりました。――それと、遅くなってしまいましたが、この度は侵入者の捕獲にご協力頂きまして、誠にありがとうございました」


不安定な木の枝の上で、器用に一礼する。


「別にかまわない。たまたま気付いただけだ」

「なるほど。それで、一つ確認したいのですが」

「……何だ?」

笑顔だが、目が笑ってない気がする。


「兵士たちが見つけた際には、すでに侵入者は地面に倒れており、殿下が側にいらっしゃったとの事ですが……。この木の上にいる侵入者に気付いてから、その状況になるまでの経緯について伺いたいのですが?」


何か怒ってるな? と思いながらも、別に隠すことでもないので、最初から話をすると、だんだん目がつり上がっていった。


「――もしかして、とは思いましたが。なぜそんな危険な事をしたんですか! 一つ間違えれば、殿下が危なかったかもしれないんですよ!?」


一応夜中と言うことで周囲に配慮したのか、小声で怒るという器用な真似をしてきた。


「結果的に大丈夫だったから、いいだろう」

「良くありません!」

「そう言われてもな。本当に夢中だったんだ。危険なんか考えてなかった」


パターソンは、何かを言いたそうにして、しかしそれを飲み込んだようだった。


「……左様ですか。そもそも、侵入者に気付かなかったのは我らの手落ちでございますから、殿下に対して怒るのは、筋違いですね」


諦めたように言うパターソンだが、なかなかあれに気付くのは難しい。


俺も、昼間のヤクルス討伐の影響で、神経が過敏になっていなかったら、おそらく気付けなかった。


「――ただ、殿下。これだけは記憶にお留め頂きたいのですが……」

「まだ何かあるのか」


「国王陛下も王妃陛下も、王太子殿下も、アレクシス殿下が危険な目にあったと聞けば、とても心配なさるでしょう。そして、我々も自らの不手際のせいで殿下を危険にさらしたとあっては、悔やんでも悔やみきれません。……殿下、どうぞご自愛下さいませ」


「……一応、覚えておくよ」

別に、分かっていない訳じゃない。


「それと、たぶんあの侵入者、兵士達では気付けない。俺も本当に偶然が重なって気付けただけだ。あれに気付けるとしたら、ミラー騎士団長くらいだ」


「そうですか……。そうなると打てる手がないですね。いっそ、団長に飲まず食わずで、寝るのも一切禁止して、見張っていてもらいますか……」


真剣な顔して、物騒なことをつぶやきだした。




「ふわあ……」

大あくびがでた。

予定通りに、騎士団に剣の稽古に来たんだが、眠くてしょうがない。


今朝早くに父上に呼び出された。

内容は、「怪我はなかったか」と「今回の件は誰にも言わないように」の二点。兄上にも当分知らせるつもりはないらしい。

気付いている様子もないらしいから、大丈夫だろう。


「おはようございます。アレクシス殿下」

声を掛けられて見ると、いたのはバルだ。


丁寧な言葉遣いと、俺に対して一礼する態度に、違和感があってしょうがない。


「ああ、おはよう。バルムート……」

語尾にあくびが重なってしまった。


「ずいぶん眠そうなご様子ですね?」

怪訝そうにこちらを見ながら、顔を寄せてきた。


「(親父が夜中に王宮から呼び出されて出かけたけど、なんか関係あんのか?)」

「(……大ありだけど。口止めされているし、話すのは無理だ)」


最近内緒話が増えた。

公の場じゃなければ、城でも敬語なしで普通に話して欲しい。


そんな事を考えてしまうくらいには、バルとユーリに親しみを感じていた。




「全員、注目!」

そう言ってきたのは、副団長のヒューズだった。ミラー団長の姿はない。


「本日、ミラー団長は所用でここには来られない。しかし、各自しっかり訓練を行うように!」


やはり来られないか。どうするんだろうな、と思っていたら、そのヒューズ副団長から声を掛けられて、団長の執務室に向かった。


やはり話は、昨夜の件だった。



侵入者は、おそらく一流の暗殺者だろうとのこと。舌を噛んで自死されそうになり、尋問などはできていないらしい。


兄上の部屋の窓が開いていた件は、最後に兄上の部屋を辞した侍女の親戚が、戦争急進派の貴族とつながりがある事が判明。


そこで、その侍女に確認したところ、指示があり、窓を開けておいた。しかし、暗殺については何も知らない、と話しているそうだ。


その急進派の貴族を捕まえるのには、証拠不足で難しい、と言われて、悔しさで手を握りしめていると、騎士団長が言ったという提案に、目を見張った。



「暗殺者を確認した団長が、アレクシス殿下を褒めておりました。たまたまだろうが偶然だろうが、この気配に気付けたことはすごい、と。

 暗殺者を送り込んでくることが、今回一度だけとは限りません。今後も続く可能性があります。それらの対処を、アレクシス殿下にやらせてはどうか、と団長が言い出しまして……」


「……はあ!? 何でだ? いや、やれと言われれば望むところではあるが」


「……望んじゃうんですね。それを聞いた陛下は、息子にそんな危険な事をさせられるか、って怒り出して大変だったんですよ……。けれど、団長曰く、アレクシス殿下は、その辺の騎士や兵士よりよほど役に立ちそうだし、殿下ご自身の手で戦争急進派の企みを防げば、先方を動揺させられる。そうすればボロを出す事もあるだろう、と言って」


一応理屈に叶っているから、父上としても無碍にはできなかった、というわけか。

父上の、苦虫をかみつぶしたような顔が目に浮かんだ。


「俺はかまわない。むしろ、喜んで引き受けさせてもらうさ。――急進派にはこりごりだ」


俺自身の手で暗殺者を捕まえて、戦争急進派にトドメを刺すことができたなら、俺は兄上に少しは報いることができるような気がする。


「かしこまりました。また行かねばならないので、その時に殿下の意見を伝えさせてもらいます。――陛下は荒れるでしょうが、その辺はヴィート公爵あたりが何とかしてくれるでしょう」


完全に丸投げである。

国王の側近というのは、もしかしたらものすごく損な地位なのかもしれない。




それからというもの、日中は冒険者稼業をやって、夜は暗殺者に備えて待機をするようになった。


そのせいで、熟睡できることはほとんどないんだが、疲れは感じない。


事情を知ったバルとユーリは、冒険者を休もうかと言ってきたが、俺としては冒険者稼業で高めた集中力をそのまま暗殺者捜しに移行できるので、むしろやった方がいい。


――そして、二人目の暗殺者を倒した。


次、本編に戻ります。

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