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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
間章~モントルビア王国~

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王城での対決

 北の地に光の柱が上ったことは、モントルビア王国国王であるボードウィンも報告を受けた。それから連日のように、自らを支持する貴族たちを集めて宴会を開き、それは二週間経った今も続いている。


「国王陛下、おめでとうございます」

「うむ」


 別に国王が何かをしたわけではないのだが、その言葉に国王は満足そうに頷く。


「魔王が倒れましたからな。勇者様がお戻りの際には、ぜひ我が国に逗留して頂きたいものですな」

「そうであるな」


 酒に酔った頭で、国王は自らに跪いて「アキト」と名乗った、聖剣を持った少年を思い出していた。


「私に娘がいないのが残念だ。いれば、勇者様とお似合いであっただろうに」

「確かに。国王陛下のご令嬢であれば、さぞかしお綺麗なご令嬢でしたでしょう」


 国王の言葉に返したのは、一番の側近であるベネット公爵である。周囲には王太子のクライド、ベネット公爵の長男であるユインラム。その他、国王に近い貴族たちが周囲を取り囲んでいる。


「公爵にも娘はおらなかったな」

「はい。陛下のお力になれず、申し訳ありません」

「なに、そればかりはどうすることもできまい。この中で娘がおるのは誰だったか」


 国王の視線が、周囲の貴族たちを見回す。すると、一人が立ち上がった。


「一人、おります。年はまだ十でございますが」

「ほお、そうか。なに、構うまい。もう二~三年も経てば、立派なご令嬢であろう」


 国王がほくほくと笑う。国王の頭に、この国で起こった騒ぎはすでにない。自分が歓迎すれば、勇者も喜ぶと何の疑問もなく信じている。

 立ち上がった側近の青年は笑い、周囲の貴族たちは羨ましそうに青年を見ている。


「勇者様がお戻り次第、会わせるとしようか。今のうちに磨いておくと良い」

「はっ、有り難きお言葉、光栄でございます」


 勇者が自らの娘と結婚する。自分は勇者の義理の父親となる。その将来を疑うことなく、青年は笑う。それをベネット公爵が不満そうに見たところで、宴会場の出入り口付近で、騒ぎが起こった。


「何事だ」


 せっかく重大な話が一つまとまったところで気分が良かったのに、それに水を差された気分で国王が不機嫌に問いただす。

 それに答えたのは、国王が一番聞きたくない声だった。


「毎晩のように宴会をなさるとは、ずいぶんと国庫の無駄遣いをされていらっしゃいますね、陛下」

「……何の用だ」


 現れたのは、国王の弟であるフェルドランド・フォン・ルイスだった。



※ ※ ※



 魔王が倒れてから、街の中は案の定大混乱になった。クリフも書類整理ではなく、現場に駆り出されて、とにかく言われるままに動いた。


 だがそれも、この二週間の間に大半の人が街から出発したことで、落ち着きを見せた。一段落し人々が一息ついた所で、ルイス公爵が行動を起こすと宣言した。


 宣言と言っても、大勢の前でそれを言ったわけではない。聞いたのはクリフと、そして長男であるジェラードのみ。

 きっと他の人も言えば一緒に来る。そう言ったクリフに、ルイス公爵は笑った。


「もしそれで私が国王に負ければ、一緒に来た者たちもただでは済まない。だから、私たちだけで良い。クリフは巻き込んで済まないが」

「構いません。僕も、この国が住みやすくなるなら、その方が嬉しいですから」


 クリフが望むのは、孤児院の子供たちが生きやすい世の中になること。きっと、今の国王よりルイス公爵が国王になった方が、そんな世の中になる。


 クリフが行くのは、将来の"ベネット公爵家当主"だから、その顔見せといったところか。父親など知ったことではないが、そのために役に立つのであれば協力する。それだけだ。


 そして王宮に向かったのだが、その行動を読んでいたかのように、王宮の近くには大勢の人がいた。治安維持に一緒に携わった人たちだ。


 ルイス公爵が近づくと、一斉に頭を下げた。それに対して何を言うこともなく、ただ口元に僅かに笑みを浮かべて通り過ぎる。

 その後ろをジェラードが進み、さらにクリフが通る。通り過ぎながら、クリフは思う。


(みんな、期待してるんだ)


 やるだけやった。魔王の誕生という有事に、何もしない国王を逆手にとって、人々の支持を集めた。国王やその側近の陰謀によって、権力の座から落とされた人たちを集めた。


 出来るだけの準備を整えた。後は直接対決のみ。そこを越えれば、もう障害はほとんどない。


 皆からの期待を背負ったルイス公爵は、全く動じることなく王宮内をすすみ、そして宴会場に突撃した。



※ ※ ※



「……何の用だ」


 兄弟であるはずの二人だが、国王は不機嫌そうな顔で視線すら向けず、ルイス公爵は見事な作り笑いを浮かべている。

 クリフがルイス公爵の元で働き始めてすでに半年以上経ったが、そんな笑い方は初めて見た気がする。


「そうですね。色々ございますが、まずはご報告を。勇者様が魔王を倒して下さったことで街道上の魔物もいなくなり、街で足止めされていた者たちのほとんどが出発致しました。街の状態は、以前に近いものに戻りつつあります」


「それがどうした」


 つまらないことを聞いた、という表情が丸分かりの国王に、クリフはカッとなる。それがどうした、じゃない。どれだけ大変だったと思っているのだ。

 しかし、ジェラードに肩を押さえられて、静かに首を横に振るのを見て、とりあえず口には出さずに済んだ。


「もちろん、治安維持には個々の責任者はおりますが、最終的な責任者は国王陛下にあり、それは国が主導するべきこと。それを今回は私が行いました。それに伴う費用も、陛下に却下されたため、私費を投じております」


 ルイス公爵はあくまでも表情を崩さない。貼り付けた笑顔のまま、言葉を続けている。

 国王は視線を合わせず、面倒そうに手を振った。


「それはご苦労。報告は以上だな。とっとと下がれ」

「そういうわけにはいきません、陛下。先ほど"色々ある"と言ったではないですか」

「……なんだ」


 国王はなおも視線を合わせない。

 ふと、クリフは気付いた。国王の目が落ち着かなく動いている。孤児院にいたとき、苦手意識を持つ相手と話しているとあんな様子を見せる子供がいた。


(もしかして、視線を合わせないんじゃなく、合わせられない? ルイス公爵が……実の弟が苦手なのか、この国王)


 ただの思いつきに過ぎないが、それが正解である気がした。


「では一つめ。国が行うべき治安維持が行われず、民たちからの不満の声が多数上がっています」

「貴様がやったのであろうが!」

「やりましたが、私個人の力では限界がありますよ、人も金も。国王は何をしているんだと、無視できないほどの声になっています」


 決して嘘ではないが、国王が何もしてくれていない事実を隠そうともしなかったことを、クリフは知っている。


 積極的に宣伝したわけではない。一生懸命に働いている兵士たちが、そんな不満をポロッとこぼしただけだ。だが、街の人たちの「何やってんだ」という声が大きくなるのに、これ以上ないくらいの効果を上げたことは間違いない。


「二つ目。こちらは各国の大使からですが、勇者様ご一行のこの王都での滞在期間が異様に長かったが、どういうことかとの質問が届いております」

「……は?」


 これに関しては、クリフはよく知らない。そんな話をしていたのは知っているが、勇者一行がこの王都に滞在していたときは、クリフにとって雲の上の話だった。


 それよりも、国王が何のことか分からない、という表情を見せていることのほうが、クリフには気になる。


「これに付随してもう一つ。魔法使いの女性が勇者一行にいたが、なぜ王城に姿を見せなかったのかの疑問も届いております」

「……い、いや」


 ようやく何かに気付いたような国王の表情が、クリフの目にも焦っているように見えた。


「三つ目、こちらも大使からです。この王都モルタナにBランクの魔物が二体出現した件について、クライド王太子殿下とベネット公爵が関わっているという話があるがどういうことかと、説明を求めてきております」


「「「なっ……!」」」


 ルイス公爵の言葉に、国王だけではなく名前を出された王太子とベネット公爵の声も重なった。


「無視できない重要事項であるので、本国へ連絡を取る必要がありますからね。当然でしょう。大使の方々の命すら危険に晒したのですから、彼らには詳細を聞く権利があります」


「なにをっいまさらっ! もうその件については、処分は済んでおるっ!」


「国内での処分の話ではなく、なぜそうなったのかの説明をしてくれ、ということですよ。その説明如何によっては、国の責任を追及してくる可能性も十分にあり得るでしょうが」


 行われた処分は、軽すぎるくらいに軽い処分だ。おそらく、そんな内容では納得しない大使や国々も出てくる。


 見ていたクリフは、「うわ~」と言いたくなった。ルイス公爵が怒っている。作り笑いで満面の笑みって何だろう、と現実逃避したくなるくらいに怖い。


 ふと、隣にいるジェラードを見たら、こちらも似たような顔だった。さすが親子、とどうでもいい所で感心する。


 王都の貴族街でBランクの魔物が出現して、それを勇者一行が倒した話は、クリフも噂で知っていた。

 正直なところ、話が誇張されて伝わっているものだとばかり思っていたら、実はその逆で、二体も出現していたと知った時には、驚いたなんてものではなかった。


 国王の顔は、真っ青になっていた。


「そして今回の件とは別ですが、幾人かの民より『知人や友人が死亡した原因を調べて欲しい』との話を兵士たちが受けて、調べております」


 ルイス公爵から笑顔が消えて真顔になった。


「その結果、王太子殿下やベネット公爵の長男であるユインラム、他数名が関与している事実が判明致しました。そちらも報告致しますので、合わせて処分をご検討下さい」


「ひっ…………」


 国王は怯えたような表情と声を出して、後ろに下がってそのまま尻もちをついた。そんな兄である国王を、ルイス公爵はただ静かに見つめていた。



※ ※ ※



 それから二週間後。

 モントルビア王国国王ボードウィンは、その座を退位した。


 街に人が溢れかえったとき、何もしなかった国王に対して元々不信感が高まっていたのだ。そこに、勇者一行がこの街を訪れたときに起こった諸々の事、Bランクの魔物出現にまつわる話が一気に広まり、不満が爆発したのだ。


 国王が退位し、王太子クライドが即位を宣言すると、不満は暴動の域に高まった。結局、宣言のみで即位することなく姿を消す。

 クライドが姿を消すのとほぼ同時に、ベネット公爵やその長男も姿を消している。


 そして王太子も姿を消したことで、ルイス公爵が即位を宣言。それにより、暴動も収まり、街は平穏を取り戻したのだった。


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