表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
間章~モントルビア王国~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

601/677

盗みを働いた青年

 時は遡り、まだ魔王が倒される前のこと。


 勇者たちが出発したアルカトル王国の隣国、モントルビア王国の王都モルタナは、人で溢れかえっていた。

 それに伴い治安も悪化。だが、それもギリギリの所で抑えられ、時間が経過すると共に、少しずつ改善傾向が見られていた。


 そのことに王都に住む人々は安堵し、それらを担ってくれている兵士たちの労をねぎらった。同時に、それらの対応をしてくれているのが国王()()()()ということも、徐々に浸透しつつあったのだった。



※ ※ ※



「閣下、街の巡回から戻りました。異常ございません」

「そうか、ご苦労。少し休んでくれ」

「はっ、ありがとうございます」


 モントルビア王国王弟であるルイス公爵は、兵士からの言葉に頷きとねぎらいの言葉を掛ける。


 ここ最近、落ち着いてきたことと人員も増えてきたことで、ようやく休む余裕もできた。それまで休みらしい休みがなかったのだ。その分、休ませてやりたいとルイス公爵は考えており、そう考えていることを部下たちも知っている。


 当のルイス公爵自身はあまり休んでいないことも知っているが、何かあったときに存分に動けるように、休めと言われれば休むようにしている。


 報告に来た兵士が去り、その後すぐに別の報告者が現れた。


「閣下、ご相談があるのですが、よろしいでしょうか」

「なんだ?」


 疲れは一切見せず、問い返すルイス公爵に、報告に来た兵士は頭を下げた。


「実は、盗みを働いた者を捕らえたのですが、それが……」

「どうした?」


 ようやく落ち着いてきたとは言っても、まだまだ窃盗・盗難といった行為は多く見られている。悲しいが珍しいことではなく、その報告がわざわざルイス公爵の元まで上がるのが珍しい。


「……その、申し訳ありませんが、ご足労願えませんか。見て頂くのが一番早いかと……」

「ん?」


 何のことだと思いながら、ルイス公爵は立ち上がる。わざわざ言ってくるのだから、それなりの理由があるのだろうと判断する。


 兵士の後に付いていきながら、向かう先は一時的に犯罪を犯した者を捕らえている牢屋。その一つを示されて視線を持っていったルイス公爵は、危うく声を上げるところだった。


 髪の色は、栗色というか茶色というか、平民の持つよくある髪色。だが、その顔に見覚えがある。というか、よく似た人を知っている。


「……とりあえず、報告に感謝する。そして悪いが、もう少し付き合ってくれないか」

「はっ、かしこまりました」


 報告を上げた兵士に告げて、牢の中の青年を見る。ため息をつきたい気分だったが、これは放置できない。


(ユインラムと同じくらいか?)


 いや、顔がそっくりだというだけで判断してしまうのは、いけないのだろうが。


 その青年は、モントルビア王国の公爵、ベネット公爵とそっくりの顔をしていた。

 ベネット公爵よりは、ずっと若い。だが、その長男であるユインラムと同年齢か、あるいは年上に見えたのだった。



※ ※ ※



 青年を牢から出して、別室に移動する。もし何か不審な動きがあってもすぐ対応できるように、報告を上げた兵士がそのまますぐ後ろに立っていてもらっている。


 さらに、ルイス公爵は自らの息子であるジェラードも呼んで同席させている。そのジェラードも、青年を見た時に絶句していた。


「クリフ、と申します」


 名前を聞くと、その青年は思いの外丁寧な言葉遣いと所作で、逆らうことなく素直に答えた。

 それに驚いてしまったのは、みすぼらしい身なりからは想像つかなかったからか。あるいは、ベネット公爵に似ているから、素直な返答があるなど思わなかったからか。


「なぜ、盗みを働いた?」


 クリフと名乗った青年が盗んだのは、食料品ばかりだ。となれば想像はつくが、それでもルイス公爵が聞いたのは、この青年の背後を知りたかったからだ。

 クリフが、拳を強く握ったのが見えた。


「僕は七歳の時に母を亡くして、孤児院で育ちました。その孤児院にいる子たちがお腹を空かせてるんです。入ってくるお金も減って、十分な食べ物がありません。だから、あるところから盗もうとした。それだけです」


 怯むことなく、ルイス公爵の目を見て言い返す。それを見て内心で「ほお」とつぶやく。

 度胸があることに感心し、さらに孤児院育ちであれば、知るよしもなさそうな敬語で話をしていることに、感心したのだ。


「その言葉遣いは、誰かから学んだのか?」

「…………っ……! 言いたく、ありません」


 言えば、その相手に迷惑をかけると思ったのか。だが、それはつまり、学んだ相手がいるということを肯定したことに他ならない。


「ふむ。ところで、母親を亡くして孤児院に入ったということだが、父親は?」


「さあ、知りません。お偉い人だと母が言っていたことはありますけど、それ以上は何も。僕は顔も名前も知りませんが、母が僕と似てると言ってたことはあります」


 興味なさそうに吐き捨てた。おそらく苦労してきたのだろう。それなのに、お偉いはずの父親が顔すら出さなかったことに、腹を立てているのかもしれない。


「なるほど」


 ルイス公爵は頷いた。詳細を調べる必要はあるが、この話だけ聞くのであれば、間違いないと言っていい。

 となると、一つの案がルイス公爵の頭に浮かぶ。


「クリフ、と言ったな。きちんと給料を支払うから、私の元で働かないか?」

「は?」


 クリフは目を丸くして、黙って話を聞いていたジェラードは苦笑したのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ