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6.リィカ⑥―遭遇

学園生活の、穏やかじゃなかった例外、その二。

それが、王族や貴族に出会ってしまうことだった。


わたしと同学年には、有名な人というか、有能な人というか、将来有望な人が五人いる。


一人目が、わたしがうっかり遭遇してしまった王太子アークバルト殿下。

学園入学前から、頭が良いことで知られていたらしい。


二人目は、その王太子殿下の婚約者、レーナニア様。

公爵家のご令嬢でもあるらしい。


入学前の筆記試験で、王太子殿下が主席なら、次席はこの方だったらしい。

つまりは、将来の国王夫妻は、とても頭が良いということだ。

この国は安泰だなぁ、と他人事みたいに思った。


三人目を飛ばして、四人目。

この国の騎士団長のご子息である、バルムート様。


騎士団長様は、わたしも知ってるくらいに有名人だ。

とても剣が強くて、でもだからといって威張っていることもない方らしい。

週に一回、村に巡回に来ていた兵士さんが、誇らしげに語っていた人だ。


そんな騎士団長様の息子様のバルムート様も、剣はかなり強いらしく、入学前の剣の実技で同率一位だったとか。


五人目は、ユーリッヒ様と言って、教会のトップ、神官長様のご子息だ。

すでに神官長様と同じくらい魔法が扱えるらしく、将来の神官長だと、もっぱらの評判だ。

もちろん、入学前の魔法の実技で、一位を取ったらしい。


ーーで、飛ばした三人目だけれど。

その人が、今、わたしの目の前で、剣を振っていた。


この国の第二王子、アレクシス殿下。

髪が黒い。のに、陽が当たると、光ってみえる。


そう。

入学式の日、わたしが学園の広さにボケッとしているときに、声をかけてきた男性。

その人が、第二王子殿下だったのだ。


知った時は、驚いた、なんてものじゃなかった。

つまりは、あの日に、二人の王子に出会っていたわけだから。


ちなみに、王太子殿下と第二王子殿下は、別に双子というわけじゃない。

それぞれに母親が違うらしく、一週間ほど誕生日が違うらしい。


たった一週間なら、双子でもいいんじゃないの、と思った。


この方も剣の腕が立つらしい。

バルムート様と同率一位を取ったのが、この第二王子殿下だ。


髪の色は、黒ではなく、金髪らしい。

ただ、色が濃すぎるくらいに濃いダークゴールドなので、一見黒く見えるらしい。

お日様に透かしてやっと、金色っぽく見えるのだとか。


その第二王子殿下が、目の前で剣の素振りをしていた。


もちろん、示し合わせたわけじゃない。


この学園には、生徒が剣や魔法の練習で自由に使えるように、と広場がたくさん点在している。

今いる場所は、そのうちの一つだ。


貴族の生徒と遭遇するとしたら、こういった広場だ、とは言われていた。

けれど、貴族の生徒用に、立派な設備のある広場というのもたくさんあるらしく、大方はそちらを使うらしい。


今いる広場は、ただ地面の草を刈っただけの、シンプルな広場だ。

別に貴族が使っちゃダメなわけじゃないけど、どちらかと言えば、平民が使う広場。


そんな場所に、なぜか王族がいて、剣を振るっていた、というわけだ。


本来なら、すぐ離れるべきだろう。

あの時、少し話をした感じ、怖い感じはしなかったけど、それでも相手は王族だ。関わりたくないのなら、すぐ離れるべき。


それなのに、わたしは、その場から動けなかった。


(すごく、きれい……)


第二王子殿下の、剣を振っている姿から、目を離せなかったのだ。


剣のことなど何も分からない。

けれど、クラスメイトの誰のを見ても感じなかった感動のようなものを感じて、見入ってしまったのだ。


「どうした、何か用か?」


声を掛けられるまで、わたしはそのままだった。


「ーーお前確か、入学式の日の……」


言いかけた第二王子殿下の言葉に、やっと我に返った。

どうしよう、と思って、考えるより早く、足がその場から逃げ出していた。


これが、第二王子殿下との二度目の出会いだった。



※ ※ ※



そして、さらなる遭遇が続いた。


中間期テストの後。

広場で魔法の練習をしているときに、近づいてきた一人の男性。


その人の姿を見て、サァッと血の気が引いた。


絵姿で見ただけだけど、間違いない。

神官長のご子息の、ユーリッヒ様。


わたしが中間期テストで、魔法の実技において一位を取ってしまったせいで、入学前の一位から二位に陥落してしまったユーリッヒ様。

絶対に会いたくなかった人だ。


何もかも貴族と平民は分けられるくせに、なぜかテストの結果だけは一緒にされる。

ダスティン先生に文句を言ったら、「平民クラスの中だけで順位を出しても意味がない」と言われた。


全くもってその通りだろうけど、そのせいで一位を取ったのに全く喜べなかった。ダスティン先生に「恨まれる」と泣きついたのは、記憶に新しい。


ダスティン先生は、「何も問題ないから、気にするな」と言っていたけど、どこが問題ないのか分からない。


一瞬、わたしに用があるわけじゃないかも、と思ったけど、視線はこちらを向いているし、明らかにわたしの方に向かってきている。


どうしようと悩んで、悩んで、悩んで。


気付けば、またも逃げ出していた。



※ ※ ※



そして、バルムート様とも遭遇している。

ついでに、第二王子殿下とは、何と三度目の遭遇だ。


このお二人が、とある広場で手合わせをしていた。

奥まった場所にある、少し暗い広場。

あまり整備もされていなくて、多分使ってるの、わたし一人かな、くらいに、人気のない広場。

その場所で、お二人が剣を合わせていた。


(こんな場所で、何やってるの!?)


内心で叫んだけど、口に出さなかっただけ、褒めて欲しい。


何せ、中間期テストでも剣の実技で同率一位を獲得したお二人だ。というか、実は国レベルで見ても、トップレベルらしいけど。

この二人の手合わせを見たい、と思っている人など、たくさんいる。


けれど、そんな希望とは裏腹に、お二人が手合わせすることはほとんどないらしい、というのが、聞いた噂話だ。


まあ、そうだよね、と半ば現実逃避をしながら思う。

こんな奥まった広場でやっているなど、誰が思うだろうか。


ちなみに、二人の打ち合いはすごい。

クラスメイトたちの手合わせと比較するしかできないけど、とにかくすごい。

何がどうすごいのか分からないけれど、見ていて浮かぶ言葉は「別次元の強さ」だ。


ボーッと眺めていたら、ふいに剣の音が止まった。

あれ、と思ったら、お二方の視線がわたしに向いている。


「…………………………っ……」


何も言葉が出てこない。

結局、またもわたしは、逃げ出してしまっていた。



※ ※ ※



こうして、同学年の有名人五人のうち、レーナニア様以外の四名と遭遇してしまった。


それからはもう、広場に行くときは、細心の注意を払った。

幸いにも、呼び出されて無礼を指摘される、なんて事にはなっていないけど、目の前で逃げ出されて、良い気分ではなかったと思う。


いたら、近づく前に、気付かれる前に、立ち去る!


そう心に決めたけど、その決心は必要なかった。それからはもう、遭遇することはなかったのだ。




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― 新着の感想 ―
仕方ないとは思うけど、逃げ過ぎw いや、身分社会、仕方ないけどね(´・ω・`) 捕まらないのは足が早いのか見逃してもらえているのか……今後を読み進めて答えを見るとしよう(`・∀・´)
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