捜索③
「……な……何で、あんた達、来るんだよ!?」
村に着いた四人に掛けられたその声は、川で出会った男性のものだった。
「ねえ、アレクとかリィカのこと、知ってるの? 知ってるなら教えてよ」
その男性に暁斗が詰め寄るが、悲鳴を上げて逃げてしまった。
「……あ! ちょっと! ……何なんだよ、一体」
「き、君たち……! 一体何のようだね!」
ぼやく暁斗の声に重なるように声が聞こえて、向けばそこにいたのもお年寄りの男性だ。
「ワシは、村長のカルムだ。今この村は大変なんだ。部外者を泊める余裕などない! 出て行け!」
「……村長さん!?」
暁斗の顔が、少し明るくなる。
「村長さんは知ってる? アレクとかリィカとか、ここに来たの?」
「……ひぃっ!? し、知らぬ!」
言って逃げようとする村長を、バルが捕まえた。
「何かは知ってるようだな。話せ」
容赦なく言い渡したバルに、村長は諦めたようにその場に座り込んだ。
自分たちの村が山賊に支配されていた事。
自分たちも山賊のおこぼれをもらって、生活していたこと。
村に来た旅人を山賊に売っていたが、リィカという女が気付いて、山賊の頭が殺されてしまったこと。
そして、自分たちはこれからどうやって生きていけばいいんだ、という泣き言で話は終わった。
「それで、リィカはどこに行ったんですか?」
もろもろ言いたいことはあるが、まず必要な事の確認を行う。
「お、男の方が怪我人だから、教会に行きたいと、場所を聞いていた。ここから半日くらいの所に、一軒ポツンと建っている教会があるんだ……!」
「なるほど。――でしたら、僕たちもその教会を目指しましょうか」
「そうだな」
ユーリが提案して、バルがそれに同意する。
暁斗がポツッと疑問を口にした。
「なんでリィカは、オレたちと合流しようとしなかったのかな……」
ユーリもバルも、黙って首を傾げる中、泰基がそれに答えた。
「多分川に流されて、居場所がまったく分からなかったからだろ。俺たちとどのくらいで合流できるか分からない。アレクの怪我を考えたら、半日程度で行けるなら、そっちに行こうと考えてもおかしくない」
「あ、そっか。そうだね」
暁斗だけではなく、バルとユーリもうなずいて、じゃあ行こうかと立ち上がったら、村長が悲鳴のような声を上げた。
「ま……待て! 見捨てるのか! ここには年寄りしかおらんのだぞ! どうやって生きていけと言うんだ! あの女の仲間だと言うんなら、責任取れ!」
まくし立てる村長に、暁斗と泰基の顔色は、何となく悪い。
だが、バルとユーリの顔は冷ややかだった。
「そんなもん知るか。てめぇらでどうにかしろ」
「リィカは、自分たちの身を守っただけでしょう? 山賊なんかいつ討伐されたっておかしくないんです。早いか遅いかだけの違いですよ」
それだけ言い放つと、暁斗と泰基を促して、村を後にした。
※ ※ ※
「アキト、タイキさん、二人とも大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ。何か気になりますか?」
教会があるという方向に歩きながら、ユーリは問いかけていた。
聞きながらも、二人が一番気にしていることには、何となく想像は付いていた。
暁斗は黙ってうつむいてしまう。
それを見た泰基が、口を開いた。
「……リィカ、いくら山賊だっていっても、人を殺したんだな」
暁斗が肩をビクッとさせた。
ユーリは嘆息した。やっぱりそれか、と思う。自分だって愕然としたのだ。
「そうですね。僕も、正直驚きましたよ。話を聞いた限りじゃ、そんなに躊躇った感じもなさそうですし」
「そうだな。――この面子で一番肝が据わってんの、案外リィカかも知んねぇな」
バルがそう言えば、泰基は目を瞬かせた。
「あー、こう聞くのも何だが……、お前らにとっても、意外というか、驚くことなのか?」
「そりゃそうだ。盗賊の討伐みたいな仕事はあるが、そんなのは冒険者の上位ランクか、軍か、どっちかの仕事だ。おれたちみてぇな学生がやる仕事じゃねぇよ」
「人同士の戦争も起きてませんしね。僕たちが今まで人を相手に、命のやり取りをしたことはありません」
だからこそ、それを躊躇わなかったリィカに驚くのだ。
「……そう、か」
リィカは、かなりの確率で元日本人だと、泰基はそう思っている。
おそらく凪沙だろうな、とも思っていて、実際にこれまで色々気遣いもしてくれている。
しかし、そうした気遣いとは裏腹に、日本人として忌避してしまう人を殺すという行為をやってのけたリィカに、戸惑いも感じてしまう。
「今はとにかく合流を目指そうぜ。せっかく手がかりを見つけたんだ」
「そうですよ。これでアレクがあっさり治ったら、また二人でどこか移動してしまうかもしれませんから」
バルとユーリにそう言われて、泰基も笑う。
「そうだな。……治る、んだよな」
治る、という言葉が嬉しい。
「でも、アレクは、今の二人きりの状況、楽しんでるかもしれないぞ。あまり早く見つけたら、文句言うかもな」
「ああ、確かに」
二人が確実に生きているという事実は、そんな冗談を言えるくらいには、泰基の気持ちを軽くした。




