ハリスとゼブ
「ふぅ、疲れたな」
Aクラス担任のハリスは、そうつぶやいてから椅子に座り込んだ。とりあえず生徒たち全員、一通りするべきことが済んでホッと一息、といったところだ。
「ハリス先生、とりあえず、皆落ち着いたか?」
「ああ。例年通りバタバタだよ。総責任者は動かなくていいな、ゼブ先生」
話しかけてきたゼブに、ハリスは若干の嫌味も交えつつ返す。お互いに気安い間柄ではあるが、このキャンプの時に限ってはゼブが恨めしく思える。
責任者はその場を離れない。何かあったときにいなくては報告が遅くなる。それは分かるが、全く動かないのもどうなのかと思ってしまう。
「彼らは……アレクシス殿下方のチームはどうなんだ? 一人少なかっただろう?」
「どうも何も、手を貸す必要は何もなかった」
ハリスは苦笑した。
通常五人チームのところ、一人少ないアレクシスたちのチームだが、どのチームより何をするのもスムーズで何も問題なかった。少ない分はフォローする、などと言ったが、全く不要であったことを思い知らされた。
「一年、旅をしてきた実績は、伊達じゃなかったか」
「ああ。彼らからしたら、このキャンプは遊び程度でしかないだろうな」
一年もの間旅をしてきた彼らだ。何をするにしても余裕の表情で、しかし周囲にペースを合わせてくれていた。
その他のチームと言えば、どこのチームも色々な意味で大騒ぎだった。一番大変だったのは、テントに料理の火が燃え移ってのボヤ騒ぎだろうか。だがそれも、生徒たちが自主的に動こうとした年は、よくある話である。
こう言うと護衛の兵士たちには嫌がられるが、生徒たちは動かずに兵士たちが動いた年の方が、教師の負担は少なくなるのだ。
ちなみに、大半のチームが料理には失敗した。おおよそそれは見えた結果なので、護衛の兵士たちが、生徒たちの分まで食事を作ってくれている。
だったら自分たちでやらなくていいじゃないか、と文句を言われるのだが、その文句はゼブに言ってくれ、というのがハリスの本音である。
今は、色々失敗した料理の後片付けを生徒たちが行っているところだ。
「後は、寝て明日の朝の食事をして、帰りだな」
「……ゆっくり眠りたいものだな」
夜間の巡回はさすがに兵士たちがしてくれるので、生徒も教師も寝るだけである。しかし、固いだの何だのと文句が多く、生徒たちがなかなか寝てくれない。生徒たちが寝てくれなければ、教師も眠れない。
眠れないまま翌朝を迎えて、翌朝のテントの片付けやら朝食の準備やらを、眠い頭と目でこなすことになる。
今年こそはそうならないで欲しいと願っているが、毎年破られる。果たして今年はどうなるか。まあ結局は眠れないんだろうな、と半分諦めつつ、ハリスはぼやいた。
※ ※ ※
異変は進行する。
森の奥の、さらに奥深くで。
「よし、成功だ」
「後は様子を見るだけだな」
「カストル様に報告を」
――魔力が、膨れ上がった。




