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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十七章 キャンプ

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昼休憩

「よーし、ではここで昼休憩とする。昼食を教師が配るから、チーム単位で固まって待て!」


 ゼブの声がかかったのは、森と森の半ば、草原が広がっている場所だった。その声に、生徒たちがガックリと地面に座り込む。

 本来であれば、地面に座るなどしないだろうに、それを気にする余裕もないようだ。


「休憩したら、本日の野営地まで一時間ほどだ! あと少しだからなっ!」


 ゼブは話を続けるが、はっきりいってこれは逆効果だ。「どこがあと少しだ」という文句を言う声があちこちから聞こえる。


 リィカは周囲を見回しつつ、つぶやいた。


「結局、ほとんどの人がちゃんと歩いたね」

「何人か、教師が馬車に押しやってましたが、その程度でしたね」

「王太子殿下方が歩ききったからな」

「そろそろ兄上も義姉上も、限界そうなんだよな」


 疲れ切って座り込んでいる生徒たちの中、リィカたち四人は平気そうな顔で立ったままだ。すぐ近くにはアークバルトたちがいるが、平然としている四人に驚くだけの余裕もないようだ。


 教師たちが昼食を配っているのを、何とはなしに眺める。教師たちは、馬に乗っていたり馬車を動かしたりしていた。それに対しての生徒たちの不平不満は当然あるのだが、必要物品を運ばなければならない。生徒の休憩中に動かなければならないし、教師が疲労でダウンしてしまっては生徒の面倒も見られない。


「先生たちも、大変だね」

「まだ今年は楽な方だ。いいからお前たちも休め。全く疲れがないわけではないだろう?」

「ハリス先生」


 リィカのつぶやきに答えたのは、担任であるハリスだった。苦笑しつつ、四人分の昼食が渡される。見れば、干し肉なんかの保存食と水だった。


「これだけかと文句を言うなよ。一応、軍隊の疑似体験なんだ。食事も相応のものになる」

「それは分かりますが、自分たちで取ってきて料理したら駄目ですか?」

「料理のできないアレクが言う台詞ではありませんね」


 渡された食事を見て言ったアレクに、ツッコんだのはユーリだ。その様子に、ハリスはやや呆れた様子を見せる。


「まだまだ元気だな、お前たちは。悪いが、昼食はそれだけで止めてくれ。夕食は現地調達する分には、好きにしてもらって構わんから」


 ただ他の人の分まで取り過ぎるなよ、と注意だけしてハリスは去っていく。それを見ながら、リィカも地面に座り込む。


「食べよっか」


 声を掛けると、バルとユーリも座り、アレクがやや難しい顔をしつつも座る。


「どうしたの、アレク?」

「他の人の分を気に掛けるのが、面倒だと思った」


 リィカは首を傾げて、ユーリは笑い、バルがアレクの頭にチョップを落とす。


「いてっ」

「しょうがねぇだろ。やろうと思えば、おれらはやりたい放題だ。周囲にペース合わせるのも、大切だぞ」

「――分かってはいるんだが」

「まあ、面倒と言えば、面倒ですけどね。何でしたら、ちょっと森に変な気配がするとかでっち上げて、今のうちに何か調達しちゃいます?」


 周囲の目がなければ、アイテムボックスが使える。こっそり調達していても、バレることはない。……というユーリのあくどい意見に、アレクだけではなくバルまで目を輝かせる。


「賛成だ……」

「羨ましいくらいに余裕だね。だけど、そういうことはしないこと」


 言いかけたアレクの言葉は、近づいてきていたアークバルトによって遮られた。元々近くにいたから、気配もあまり気にしていなかった。


「大丈夫です、兄上。出発時間までには戻ってきますから」

「そういう問題じゃないよ。でっち上げの理由で集団を乱す行為をしては駄目だ」


 そう言いつつアークバルトが視線を向けた先には、Bクラスのナイジェルの姿があった。一体どこから持ってきたのか、椅子に座ってふんぞり返り、その脇には魔法を教えているザビニーがいて、何やらヘコヘコしている。

 おそらく同じチームなのだろう生徒たちは、立ったままで緊張した顔を見せている。


「何をしているんだ、あいつは」

「さあね。ただ、現時点でああいう問題児がいるからね。アレクも程々にね」


 それだけ言うと、アークバルトはまたチームの元に戻っていく。その姿を見て、つぶやいたのはバルだった。


「なんつーか、旅の前ほど、アレク第一主義じゃなくなったな、王太子殿下は」

「ああ、それ僕も思いました。以前は、アレクが自分を優先しないと不満そう……というか、優先するのが当然、という様子でしたからね」

「なんだそれは」


 バルとユーリの言葉に、アレクが心底不思議そうな様子を見せる。リィカは訳が分かってないので、無言のまま話を聞いている。


「アレクも、王太子殿下を最優先に考える様子がなくなりましたよね」

「旅に出て、物理的に距離ができたおかげか? まあ、いい傾向だな」


 バルとユーリの言葉に、アレクはやはりよく分からなそうな顔をしているが、リィカは二人の話を聞きながら「そういえば」と思う。レーナニアが、アレクとアークバルトの仲の良さに嫉妬気味だったことを思い出したのだ。


 リィカ自身は、二人の仲睦まじい様子を見たわけでもないので、実感が湧かない、というのが正直な所だ。


 そこまで考えたところで、リィカはハッとして顔を向ける。ユーリも同じように顔を向けた。二人の視線の先は、同じ。この先、向かっていく方向だ。


「どうかしたか?」

「何があった?」


 アレクとバルは何も感じなかったのか。怪訝そうながらも、リィカとユーリの様子に周囲を警戒している。


「分かんない。けど、今一瞬、強い魔力を感じたの」

「ええ。一瞬だけ膨れ上がって弾けた、ように感じました」


 リィカ、ユーリと言葉を続ける。だが、その先は自信なさげだった。


「今は何も感じないよね?」

「ええ、あれだけでしたね。一瞬過ぎて、何の魔力だったのかも、よく分かりませんでした」


 不安そうな様子に、アレクもバルも気を引き締める。


「何も起こらなければいいが……」


 そうつぶやいたアレクだが、何となくそれは叶いそうにない気も、したのだった。


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