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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十七章 キャンプ

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キャンプ本番開始

 三日目。

 その日は穏やかだった。昨日の魔物の襲来が嘘のように、"例年通りの数"らしい。


 リィカは馬車の中にいた。最初は外にいたのだが、魔物が少ないから中に入っていろと言われてしまった。


 本当は、周囲を探るのに外の方がいいのだが、あまり我が儘を言うのも気が引ける。

 目を瞑って周囲の魔力の様子を探る。これといった異変は感じないし、魔物の数も多くない。魔族らしい魔力も感じない。


(何ともないなら、いいんだけど)


 馬車の小窓から、進行方向を見る。これと言った異変はない。けれど、何となく嫌な予感が、した。



※ ※ ※



 四日目。

 いよいよキャンプの本番の日である。


「生徒諸君! 無理をしろとは言わん! だが、限界まで頑張れ! その先に違う未来が見える! では、行くぞ!」


 キャンプ総責任者のゼブの号令で歩き出した。が、熱いゼブの言葉に感動した様子の生徒はいない。教師や護衛の兵士たちもだ。


「限界まで頑張ることと、無理をすることは、同じだと思うんだけどね」

「ま、まあまあ、アーク様……」


 小声ではあるが、文句を言うアークバルトをレーナニアがなだめているのを聞いて、リィカは苦笑した。ゼブの言うことはムチャクチャだとリィカも思う。というか、限界まで頑張った先に見える未来とは、一体何なのか。


 そんなことを思いながら、肩に掛けた荷物を背負い直す。邪魔なその存在に、つい思った事が口に出た。


「……荷物、アイテムボックスに入れたい」


 その言葉に反応したのはユーリだ。


「どうせだから、入れちゃいませんか。何か聞かれたら、適当にごまかしましょう」

「それいいね」


 リィカとユーリの会話を聞いたアレクは、ため息をついた。気持ちはこの上なく分かる。わざわざ手荷物を持つ必要のなかった旅後半は、快適だった。


 そんなに荷物があるわけではない。食料とかテントとか、かさばって重いものは、教師が馬車で運んでくれる。だから普通に考えれば軽いのだが、何もない快適さとは比較にならない。


「駄目に決まってるだろう」

「諦めろって。変な疑惑をかけられても、面倒だろうが」

「……はぁい」


 アレクとバルの窘めに、リィカは不承不承うなずいたが、ユーリは諦めきれない顔をしている。


「中身だけ入れて、袋だけ持つとかどうでしょう」

「空だったら、外から見てすぐに分かるぞ」


 ユーリの悪あがきに、アレクが冷静に返す。するとユーリが何かを考え込んだ。


「……もういいから、公表しちゃうべきですかね。そうしたら、気にする必要もなくなります」

「公表したら色々面倒になりそうだから、止めとこうと言ったのは、ユーリだろうが」

「そうなんですけどね」


 バルのツッコミに、ユーリはしょうないという風につぶやく。アイテムボックスも風の手紙(エア・レター)も、魔法を無詠唱で使える事が基本となって作ることができる魔道具だ。一般人に作れるものではない。


 作れるとしたら、自分たちに作り方を教えてくれたサルマとオリー、フェイくらいだ。アイテムボックスの作り方は教えているから、早くあの三人が作れるようになってくれることを祈るしかないか。


 作られて販売されるようになれば、気にする事はない。


「サルマさんたち、今どこにいるのかなぁ」


 ユーリの思考を読み取ったように、リィカが言った。ユーリは少し笑いつつ返す。


風の手紙(エア・レター)で連絡取ればいいじゃないですか」

「……なんか、もしルバドールに着いてたら、怒られそうな気がして」

「ああ、そうですね。もう到着していてもおかしくないですね」


 普段、仲間たちと使っている風の手紙(エア・レター)ではなく、サルマたちといるときに作った風の手紙(エア・レター)であれば、あの三人と話ができる。だが、それを躊躇ってしまうのは、怒られるのが嫌だからだ。


 サルマたちには自分たちが勇者一行であることを明かさなかった。それ故に、北へ北へと向かう自分たちに「何をやっているんだ」と散々怒られてきたのだ。


 ルバドールの帝都にいるサムの所に、鏡の作り方のメッセージを残してきた。だから、サルマたちがそこに到着していれば、自分たちがルバドールまで行ったことがバレていることになる。


「鏡の件なんか、面倒ごとを押しつけて、と文句を言っているかもしれないな」


 アレクの笑いながらの言葉に、リィカはプクッと頬を膨らませた。


「アレクだって、賛成してくれたのに」

「リィカがやるよりはいいと思ったしな。まあでも、作るか作らないかを決めるのはあっちだから、そこは気にしなくていいとは思うが」

「……うん」


 日本では想像もできないくらいに高価らしい、鏡。それを、単に自分が使いたいからという理由で作ってしまったリィカ。売ってくれというのを拒否して、それをサルマたちにお願いしてしまった形になっている。


 どうするのか聞いてみたい気もするが、そんなことを聞けば「だったらお前がやれ」と言われそうな気がする。


「おしゃべりとか余裕だな、四人とも」


 その声に、リィカは首を傾げた。相手は誰だか分かっている。セシリーと剣の成績三位の座を争っている相手、ブレッドだ。そして、アークバルトやレーナニア、セシリーと同じチームでもある。

 前を歩いているその人がふり返っているのだが、その目が妙に据わっている。


「普通だろう?」

「普通じゃね?」

「普通なわけあるかーっ!」


 アレクとバルの返しに、ブレッドが叫んだ。


「今日一日歩かなきゃならないし、魔物と戦わなきゃなんないし、解体はしなきゃなんないし、食事は作んなきゃなんないし、もう先が思いやられるわけ。サボって馬車に乗っちゃえとか思っても、同じチームの王太子殿下は真面目に歩く気満々なわけ」


「ああ、まあ、そうだな」


「王太子殿下が馬車に乗ってくんないと、こっちも乗りにくいわけよ。でもって、王太子殿下が乗ってくれたとしても、非常に残念ながらもう一人王子がいる」


「お、おう」


「そのもう一人の王子が、難題なわけだ。旅慣れてるし、でも戻ってきてから間が空いてるからすぐ疲れてくれるかなー、なんて期待してるわけだが、平気そうな顔でおしゃべりしてるわけだ。これに、腹を立てるなと?」


「そんなことを言われてもな。大体、ブレッドだって十分元気そうじゃないか」


 もう一人の王子ことアレクは、困った顔だ。後ろ向きで歩いて叫んでいるブレッドのほうが体力有り余っているんじゃないか、と思う。


 ちなみに、王太子ことアークバルトは、振り向くこともなく、ただ前を見て足を動かしている。あまり余裕はないらしい。


「楽できるならしたいじゃないか。視線、感じるだろ?」

「……まあな」


 このキャンプで生徒たちがどれだけ頑張るかは、残念ながらゼブ先生の激励ではなく、高位貴族の生徒がどれだけ頑張るかで決まる。今年の場合、貴族どころか王族までいるのだ。そこがダウンしてくれない限り、他の生徒たちも頑張るしかない。


 そのせいか、生徒たちの視線が主にアークバルトや婚約者であるレーナニアに集中している。「早く休んでくれないかなー」という気持ちがこもりまくった視線に、気付かないはずもない。


 ブレッドはアレクにまで文句を言ったが、実際のところアレクへの視線はほぼない。アレクが休む事はないだろう、というのが、ほとんどの生徒の一致した考えである。


「気にせず、無理だと思ったら素直に休めばいいだけですけどね」

「無理だと思うまで頑張るのが、面倒くさいって言ってるんだよ、ユーリッヒ」


 ユーリの言葉に返したのはブレッドではなかった。

 アークバルトたちのチームの、もう一人。魔法の成績、第三位につけているレンデルだ。苦笑しつつ言われた言葉に、ユーリがやれやれと肩をすくめた。


「この程度で、軟弱な」

「君らと一緒にしないでよ」

「でも、このゆっくりペースだよ? そんなに疲れないと思うけど。それに魔物を獲ったりする時間も必要だから、午後の早いうちに野営場所に到着するよね?」


 リィカが口を挟む。レンデルは魔法の授業でも一緒で、リィカにとって"慣れた"相手だから、遠慮することもない。レンデルは、ゲンナリした顔をした。


「……さっすが勇者ご一行。女の子のリィカも平然としてるなぁ」


 その言葉に、セシリーも後ろを向いて、笑って言った。


「あたしらとレベルが違うからね。比べるのが間違ってる」

「第二王子殿下の体力切れは、期待できないか」


 そんなことを言いつつも、上位に位置するだけあって、他の生徒たちよりは余裕そうな様子を見せている。

 それを確認しつつ、アレクは周囲の生徒たちの様子を探る。


「……もう息切れしている奴、いるな」


 歩き始めて十五分ほどが経過。早すぎる体力切れに、ため息も出てこない。一方、別の気配を探っていたバルが、口を開く。


「魔物の気配は、ねぇな」

「そうか。……良いのか悪いのか」


 前を歩くセシリーたちに聞こえないように、小声でつぶやかれたアレクの言葉に、リィカは不安を隠せなかった。


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