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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第二章 旅の始まりと、初めての戦闘

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村からの脱出

残酷描写、強めです。

苦手な方は注意して下さい。

「ようこそ、お待ちしておりました」


もみ手をしてお辞儀したのは、村長のカルムだ。

そして、その前にいるのは、大柄の男。

その左腰には、大振りのナイフがある。


「ふん。で、今度は男と女だって?」


「は、はい。男の方は大怪我をしておりますので、使えないかもしれませんが、女の方はなかなかに可憐なので、お頭にもお気に召して頂けるかと……」


「ほう、そいつは楽しみだ。――で、今は寝てるんだな?」


「はい。食事に薬を盛りましたし、確かに寝ておりました」


「よぉし、じゃあ案内しろ」



このアルテロ村は、山賊に支配された村だった。


数年前、山賊が攻めてきた。

若い男達は殺され、女や子供は山賊が連れ去るか、裏ルートで奴隷として売り払うかされて、残ったのは年寄りだけだった。


――残された年寄りが取った道は、我が身を守る道だった。


自分の息子を殺し、娘を、妻を連れ去り、孫を売り払った山賊達に、へつらい、ご機嫌をとって、山賊達のおこぼれを頂戴して生きてきた。


村に旅人が来れば、薬で眠らせて山賊達に提供する。あまりに大人数だと足が付いてしまうので手を出さないが、少人数の旅人はいいターゲットだった。


そして、今晩も二人、旅人が泊まっている。



村長は警戒するべきだった。

リィカに、なぜ年寄りしかいないのか、と聞かれたときに、何かを勘付かれている可能性に気付くべきだった。


しかし、これまで失敗したことがない、と言うことが、村長を慢心させた。




外のわずかだった喧噪が、この部屋に近づいているのを、リィカは感じた。


(もう少し静かにしようとかないのかな)


話し声は普通に聞こえるし、歩く音も普通に聞こえる。

ガラッと遠慮もなしに開けられた扉の向こうにいた村長と、しっかり目が合った。


「……………………なっ!?」

村長はやたらと驚いているが、だったらもっと静かに来い、とリィカは言いたい。


「んだとぉ? おい、カルム! 起きてんじゃねぇか!!」


「さっきは間違いなく寝ていたと……。も、申し訳ありません……!」


ガタイの大きな男に、平謝りしている村長を眺めながら、リィカは口を開いた。


「それで、村長さん。こんな夜中に何の用事ですか? そちらは、どなたですか?」


一応、まだ敬語で話しておく。

だが、リィカの言葉に反応したのは、村長ではなかった。


「ふーん、なるほど。確かにこいつはイイ女だ。おい、感謝しろよ? 俺様達でたっぷりかわいがってやるからな?」


リィカはため息をついた。

この間のポールと言い、この男といい、碌でもない男に気に入られている気がする。


「……あんた、誰? 村長さんとどういう関係?」

問いかけるリィカの声は、冷ややかだ。


「こ……この方はお頭だ! よ、喜びなさい! 奴隷として売られる者も多いのに、直接お頭にかわいがって頂けるなど、光栄なことだぞ!」


裏返った声でそう叫んだのは、村長だ。


その顔は、どこか必死さもある。

寝ているはずの女が起きていて、焦っているのかもしれない。


だが、それに付き合う必要はなかった。


「お頭ね。つまり、村長さん、というかこの村は、そうやって盗賊の人たちに、旅人を売って生きてきたわけね。どうりで、ちっとも貧しい感じなんかないわけよね。


 まあ、別にどうでもいいか。そういうことだって分かったら、わたしもいつまでもこんな所にいたくないし。お頭さん、出てくからどいてくれる?」


リィカがそう言い放つと、お頭は一瞬間抜け面を晒した後に、大笑いした。


「――ずいぶん気の強いお嬢ちゃんじゃねぇか。キライじゃねぇが、もう少し今の状況を考えた方が……」


言いかけたお頭の言葉が途中で止まる。

リィカの手に、炎の球が出現していた。


「《火球ファイヤーボール》」

別に唱える必要はないが、分かりやすいように唱える。


「……ま、ま、魔法だと!」

お頭は何とか躱すが、完全にパニックになっていた。


「てめぇ、カルム、聞いてねぇぞ!」

「……い、いや、そんな、使えるなんて、自分も……!」


仲間割れを起こしている二人を見て、リィカは今度は《火斬ファイヤーカッター》を発動させる。


今度は、お頭の首に命中し、血をまき散らしながら、後ろに倒れる。


「ひっ……!」

村長が悲鳴を上げて、尻餅をついていた。



基本的に、攻撃魔法が使えるほどの高い魔力を持つのは、王族や貴族だけ。


平民では、生活魔法を発動できればすごい、と言われる程度の魔力しか持っていない者が多い。だからこそ、普段は魔法を目にする機会などほとんどない。


例え初級魔法に過ぎなくても、攻撃魔法を使える、というだけで、相当な恐怖なのだ。



リィカは、尻餅をついている村長に構わず、寝たまま起きないアレクに向き直る。


「《重力操作グラビティ・コントロール》」


土の上級魔法を唱える。


普通は、空を飛んでいる魔物に重力をかけて落とすために使う魔法だが、《操作コントロール》と言っている以上、逆に軽くすることもできるはずだ。


その目論見は上手くいった。シーツごと抱え上げたアレクは、軽かった。


「じゃあね」


一声掛けて、尻餅をついている村長の、倒れているお頭の脇を通り過ぎる。


家から出ると、エイデンさんの姿も見えて、リィカは冷たく一睨みして、村から立ち去った。



事前に聞いておいた、教会のある方角に歩き始めた。

嘘を教えられていないことを祈るだけだ。



先ほどの、お頭の姿を思い浮かべる。

初めてではないが、人を殺すのは、やはり気分が良くない。


それでも、凪沙の価値観に支配されなかっただけ、マシだろうか。


優しさを見せれば、つけ込まれる。

力を見せるときには見せて、殺せるときに殺しておかなければ、後悔する。


辺境の村の生活なんて、そんなものだとリィカは知っていた。


彼らを責めるつもりはない。彼らも生きるために精一杯なのだろうから。


だからといって、それに付き合ってあげる必要がないのも、また確かだけれど。



※ ※ ※



リィカは、ひたすらに歩き続けた。


時々、魔物が姿を現すこともあったが、アレクを抱えるために発動し続けている上級魔法の魔力に恐れをなしたように、そのまま逃げていく。


「……どこだろ」


すでに日は高く昇っている。半日程度は経ったはずだ。だが、教会の場所が分からない。


一軒、教会がポツンとあるだけ、と言っていた。

だが、周りは荒野が広がるのみだ。


もし、少しでも方角がズレていたら、たどり着かないかもしれない。


(……ダメだ、ちょっと、休憩)


リィカも限界だった。

ほとんど休めていない上に、上級魔法を発動させたままの強行軍。


アレクを地面に下ろして、魔法を解除する。

ここに至るまでも、アレクは目を覚まさない。呼吸をしていることだけが、リィカにとって救いだった。



一息ついた時、ふと、リィカは魔力を感じて、辺りを見回した。


しかし、何もない。

でも、魔力は感じる。集中すれば、それが光魔法であることが分かった。

それが、教会から感じるものだと、何の根拠もなく、リィカは確信する。


(距離は、まだ遠い……)


どちらかというと、来た道を戻った先なので、おそらく歩いてきた方角がずれたのだろう。


何でそんな事が分かるのか、という疑問はあったが、リィカはまた《重力操作グラビティ・コントロール》を唱えて、アレクを抱えて、歩き出した。



そして、夜の帳が降りる頃。リィカは教会にたどり着いていた。


魔物対策だろうか、教会の周りが《結界バリア》で囲まれている。


扉に鍵は掛かっていなかった。

中には誰もいない。

けれど……何かに、守られている感じがした。


(ここだったら、休んでいいかな)


アレクを下に下ろして、そのままリィカは意識を手放した。


次から二話続けて、捜索四人組の話になります。

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