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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十六章 三年目の始まり

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身元調査の結果

 寮に帰るリィカを見送り、アレクは歩きながらリィカの話を考えていた。


(父上が知らないということが、あり得るか?)


 少なくともリィカが学園に入学するときに、リィカの身元調査くらいはしているだろう。その時に、リィカの父親が分からないという事実は判明していたはずだ。

 そして……。


「おい、王子様」

「なんだ、ジェフ」


 誰もいないところから掛けられた声に、アレクは驚くこともなく応える。すると、相手がチッと舌打ちしたのが聞こえた。


「本当におれたちの気配、分かるのかよ。ったく、前会った時は分かってなかったってのに」

「俺も帰ってきてみたら、気配が分かるから驚いたんだ」

「そうかい。だったら知らない振りするな」


 不機嫌そうなジェフにアレクは笑った。

 夜、風の手紙(エア・レター)を使用したとき、近くにジェフがいた。その時のことを言っているのだろう。


「それより、何か用か?」

「陛下が呼んでるぞ。説教だと」

「分かった。――ちょうど、俺も聞きたいことがあった」


 "説教"の単語を気にする事なく、アレクは答えた。まあ、説教されるなら甘んじて受けよう、という気もある。


 それよりも、聞きたい。リィカがあの二つの質問をベネット公爵にしたとき、このジェフも近くにいたはずなのだ。父親が分からないという情報があった上で、あの質問を聞けば、リィカが何を考えているのかを察することなど、難しくも何ともないからだ。



※ ※ ※



 執務室ではなく、私室にいると聞いて、そちらに向かう。許可をもらって入室すると、そこには父の他に、兄であるアークバルトもいた。


「兄上、戻られていたんですね」

「まあね。お前の予想通り、授業は中止になったからね。良かったな、サボりにならなくて」


 アレクは苦笑した。授業が中止になるとはっきり決まる前に、自分はリィカを連れて行ってしまった。あまり褒められた行為ではない。

 が、アレク以上に苦々しい顔をしているのは、国王だった。


「そんな事を言うのであれば、学園で止めろ。黙って見送るんじゃない」

「いや、さすがに部屋に連れ込むとは思わなかったもので。見誤ったことは申し訳ありません」


 あまり悪いと思ってなさそうな口調でアークバルトが謝罪した後、アレクに話しかけた。


「それで? リィカ嬢は結婚を受けてくれたんだな?」

「いえ、まだです。待って欲しいと言われました」

「……おや」


 アークバルトが意外そうにつぶやく。気持ちは分からなくもない。アレクも自分で意外だと思うが、さっぱりした顔をしているだろうから。


 果たして兄は知っているのだろうか。知らないのであれば、話を切り出していいものなのか。アレクはそう考えて、必要であれば父が退室を命じるだろうと思って、そのまま切り出した。


「父上、リィカのことで伺いたいことがあります」

「なんじゃ?」

「――リィカの身元調査、行っていますよね?」


 国王は一瞬目を見開き、驚きを示した。だが、すぐその目を細め、チラリと視線がアークバルトに向く。その視線に気付いたアークバルトは、立ち上がった。


「退室しましょうか?」

「……いや、やめておこう。そなたも知っていた方がいい話だ。ただし、他言無用だがな」

「それは無論です」


 アークバルトが頷き、また座る。それを確認して、国王はアレクを見た。


「もちろん、やっておる。リィカ嬢の母君が何者かに襲われ身ごもり、その結果生まれたのがリィカ嬢だ。父親は不明」


 アレクは僅かに目を細め、アークバルトが「え」と小さく声を出す。


「となると、リィカ嬢の魔力量の多さは、果たして突然変異によるものなのか、あるいは親から引き継いだものなのか、判断はつかん。正直な所、リィカ嬢が貴族の娘である可能性の方が高いと思っておった」


 そこで国王は、横に控えているジェフをチラリと見た。


「そんな折、ジェフからの情報が入った。アレク、お主もそれを聞きたいんだろう。リィカ嬢がベネット公爵に聞いていたことだ」


「はい。リィカはベネット公爵に、十七年前……もう十八年前になりますが、アルカトル王国にいたかどうかを聞いていました。それをジェフが聞いていた以上、そして父親が不明という情報を父上がご存じであった以上、調べていると思ったんです」


 わざわざ質問内容を口にしたのは、リィカの件については全く知らなかったらしい兄のためである。

 そのアークバルトは、驚いてはいるようだが口出しをするつもりはないようで、動きは見せない。


「アレク、調べた結果を教えるのは構わん。だが儂も聞きたいのだが、なぜリィカ嬢は自らの父親がベネット公爵だと思った?」

「リィカの許可なしに、教えられません」


 父の問いに迷うことなく答えれば、何やら諦めたようにため息をつかれた。


「…………全く。まあ良いわ。例え魔王が倒れても勇者様が帰られても、それでも勇者一行の名は大きい。この程度強気に出たところで、何も問題にはならぬだろう」


 勇者一行というだけではなく、アレクは王子でもあるのだ。それを分かった上で、必要な場面で強気に出られるというのは、悪い事ではない。

 そうつぶやいたあと、国王がアレクに向けた視線は鋭かった。


「リィカ嬢の父親は、ベネット公爵で間違いないだろう、という結論に達しておる」

「…………っ……」


 アレクの顔が苦々しく歪む。

 おそらくそうだろうとは思っても、できれば違って欲しかったと思う。


「当時、ベネット公爵はレイズクルス公爵に招かれ、この国に来た。そして、国内を視察して移動し、当時リィカ嬢の母君が住んでいた街にも滞在している。……母君の妊娠が発覚し、追い出されるように街を出たのはその数ヶ月後だ」


「そう、ですか」


 追い出された話は初耳だが、意外でもない。実際に、リィカはクレールム村出身なわけだから、母親が何らかの理由で街を出たのは間違いない。


「何も証拠はない。ただ、リィカ嬢がベネット公爵を気にしており、時期的なタイミングは合っている。絶対とは言えぬが、否定する要素もない。豊富な魔力量を持つ者、という点だけで見れば、レイズクルス公爵もいたから、実はそちらが、という可能性もゼロではない」


 アレクは眉をひそめた。リィカが仲良くなったミラベルの顔を浮かべる。


「それでも、ベネット公爵で間違いないと思っているのですか?」


「ああ。……まず、レイズクルス公爵が平民に手を出すとは思えぬ、というのが一つ。相手を人間とも思っておらぬだろう。手つきになった侍女とて貴族出身だ」


 アレクも父ほどではなくてもレイズクルスを見てきたから、それは納得できる。


「一つ、ということは、他にもあるのですか?」

「こちらがむしろ本命だ」


 父王が深々とため息をついた。


「かの街には、公爵のような高位貴族が泊まれる宿はない。自然と宿のランクを落とすことになる。それでもベネット公爵は街の宿に泊まったそうだが、レイズクルスは嫌がって街の外の、自らの馬車の中で泊まったとか」


「「は?」」


 アレクだけではなく、アークバルトの声も重なった。

 目を丸くしている息子たちを見ながら、父王は重々しく語る。


「自らが招いた他国のホストの相手を行わずに放り投げた。当時を知る者もいて、ベネット公爵はやりたい放題で大変だったと。……まあレイズクルスがいたところで、被害が拡大するだけであっただろうが」

「…………」

「いや~それは……」


 アレクは何も言えず、アークバルトは呆れた口調で言った。


「他国の街でやりたい放題のベネット公爵もすごいですけど、招いた相手の世話を放棄するレイズクルス公爵もすごいですね。一体何やってんですか」

「全くだ」


 父王が重々しく頷く。次にアークバルトに向けた言葉には、実感がこもっていた。


「頼むから、お前はああなってはくれるなよ?」

「肝に銘じます」


 アークバルトは真面目に応じて頭を下げる。

 一方、まだ呆然としているアレクに、父王が声を掛けた。


「そういうことだ、アレク。レイズクルスは街中にいなかった。であれば、残る選択肢は一つだ」

「……ああ、はい」


 まだ呆然としてしまうが、それでも何とか返事はした。

 アレクは、自分が王子らしいと思った事はない。だがそれでも、自分はマシな方だったんだな、としみじみ思ってしまった。


「これはマルティン伯爵に聞いた事だが、ベネット公爵は結構平民街に行くことが多いらしい。単に、身分が下の者が自分の乗っている馬車を見て、慌てて道を空けたり平伏したりするのを見るのが好きだ、というだけの理由らしいが」


 アレクは顔をしかめる。

 マルティン伯爵とは、モントルビア王国に滞在中のアルカトル大使だ。そして、幼い頃に兄と共に自分に勉強を教えてくれた人物で、信頼しているが苦手な相手でもある。


 だが問題はマルティン伯爵ではなく、ベネット公爵の話である。

 自分たちが王都モルタナに足を踏み入れたとき、平民街までベネット公爵が来た。なぜ来るんだと思っていたが、そんなしょうもない理由があったとは思わなかった。


「そんなベネット公爵であれば、平民に手を出すこともあり得るだろうと判断した」

「……なるほど、分かりました。ありがとうございます」


 調べた父もそう判断しているのであれば、リィカの父親がベネット公爵であることは、間違いないのだろう。


 そうなると、やはりリィカ自身の気持ちが落ち着くのを待つしかないか。アレクが手を貸せることは何もないか。


「それで、アレク。その話とリィカ嬢との婚約の話が、どう繋がる?」

「………………」


 その質問にどう答えるべきか、アレクは悩んだ。言えないと突っぱねれば、きっと父はそれ以上聞いてこない。


 リィカがなぜ父親のことを知ったのか、というのはリィカ個人の事情だ。だが、婚約の話はそうではない。自分が王子である以上、父である国王も関わってくるし、国としての問題でもある、と思わざるを得ない。


 そう考えれば、話さないという選択肢はとれなかった。


「……リィカが、ベネット公爵に会いたくない、と。俺と結婚すれば、会う機会があるから。気持ちの整理をつけるから待って欲しい、と言われました」

「なるほどのぉ……」


 父王が何やら考えるように顎を撫で、口元が笑みの形を作った。


「つまり、リィカ嬢はお前と結婚するとはどういうことなのか、真剣に考えていたということか。父親の問題さえなければ、王子の妃になるだけの覚悟はあると」

「い、いや、そんな話までしていませんが」


 アレクは慌てて否定する。リィカに覚悟があるかないかの話など、何もしていない。


「アレクと結婚すれば、ベネット公爵と会う機会がある。そう考えるということは、王子と結婚するとはどういうことなのかを、考えているということだろう?」

「それはそう……なのでしょうか」


 頷きかけて、止まる。どうなのだろうか。父親に関しての話しかしなかったから、はっきり頷ける自信がない。


 戸惑うアレクを余所に、国王は脇に控えて一言も言葉を発していないジェフに声をかけた。


「ジェフ、モントルビアに行ってくれ」

「経過を見てくればいいんですね? 了解です」


 それだけ言うと、ジェフの姿が消える。正確には気配を消しただけだが、それだけで姿が目に映らなくなるのが不思議だ。

 アークバルトは、ジェフのいたところをマジマジと見つめているが、すでにもうそこにジェフはいない。


「父上、経過とは?」


 一体どういうことなのか。何を知っているのか。

 そう思ってアレクが聞くが、父王はニヤッと笑っただけだった。


「なに、あと数ヶ月ほどで結果が出るだろう。アレク、それまで辛抱だ。決してリィカ嬢を逃すなよ」


 逃がすつもりなど欠片もないが、父の言葉にアレクは首を傾げたのだった。


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