表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第二章 旅の始まりと、初めての戦闘

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/679

追憶―アレク③―

リィカが、水かお湯をもらってくる、と出て行くのを見送って、アレクは、大きく息を吐いた。


(ここまで、きついとはな)


たいしたことない距離のはずだ。

それなのに、まるで永遠のように感じられた。


体が痛い。力が入らない。辛い。とにかく疲れた。

リィカの前では弱みを見せたくなくて、何も言わなかったが、多分気付かれていただろう。


(――駄目だ。起きていられない)


本当に安全か分からない場所で寝てしまうのは抵抗がある。

しかし、急速に襲ってくる眠気に耐えきれず、アレクは目を閉じた。



※ ※ ※



 〔アレクシス〕


――夢の続きだ、とすぐに気付いた。


バルムートとギルドで出会った次の日から、一緒に始めた冒険者の仕事。

王子扱いしようものなら、すぐ別れるつもりだったが、そんな事はまったくしなかった。


冒険者は、皆Fランクからスタート。Fランクは街中での仕事しかできない。

それを10回こなすと、Eランクに上がることができる。


俺たちは、あっさりFランクの規定をクリアして、Eランクに上がった。その頃には、バルと呼ぶことに、すっかり慣れていた。


さすがに連日城からは抜け出せず、バルが用事がある日も冒険者は休みだ。

一人で行くというと、にらまれる。


剣の稽古さえサボっていた俺は、騎士団長から怒りの呼び出しを食らい、仕方なく顔を出せば、そこにバルもいた。



「やっと来やがったか、アレク」


やたらとドスの利いた声の騎士団長を、俺はサラッと無視してバルに声をかけた。


「よお、バルムート。今日は俺が勝たせてもらうからな」

「そうはいきません。勝つのはおれです」


何というか、久しぶりに聞くバルの丁寧な口調は新鮮だった。



そして、手合わせをした結果、俺が負けた。


「ああもう。このクソバカ力……!」


地面に寝転がってそう毒づく俺に、騎士団長が笑いながら近づいてきた。


どうやら、さっき俺がサラッと無視したのは気にしていないようだ。


「思ったより落ちちゃいなかったな。今まで一体何してたか知らねぇが……」


ギクッとなりそうなのを、必死で押さえる。

あなたの息子と一緒に冒険者してました、って言ったら、どんな反応するんだろうな……。


「身体はしっかり動かしてた、って所か。ただ、あんまり剣は握ってなかったんじゃないか? 今日はしっかり素振りしていけ」


さすが、当たりだ。街中での仕事では、体は使っても剣は使わない。

一応素振りはしていたが、十分ではなかったんだろう。



※ ※ ※



「――失礼してよろしいですかな」

入り口を見ると、そこにいたのは神官長とその息子のユーリッヒだ。


「回復魔法の練習をしたい」と言って、騎士団の訓練場に現れた。

一応顔は知っていたが、会話をしたのは、この時が初めてだった。



挨拶をした後、騎士団長に言われて、ユーリッヒは俺たちの回復を始めた。


「『光よ。彼の者を癒やせ』――《回復ヒール》」


疲れた身体に体力が戻ってくるのを感じる。今まで掛けてもらった事のある《回復ヒール》よりも、断然効果が高い。


かなりの実力じゃないか?


「すごいな」

「ありがとうございます。光栄です」


思わず漏らした俺のつぶやきに、少しだけ笑って返事があった。


「(あいつ、おれたちのパーティーに入ってもらうのも、いいと思わねぇか?)」


バルが小声でそんな事を言ってきたが、好きでやっている俺たちはともかく、他の奴を巻き込めるわけがないだろう。



そう思っていたのだが。


次の日、俺とバルが冒険者ギルドに行くと、なぜか建物の前にユーリッヒがいた。


「何でここにいる?」

人のいないところに移動してから、話を始めた。


「昨日、お二人でパーティーとか冒険者とか、内緒話をされていたでしょう? それで、最近アレクシス殿下のお姿を見かけない、と噂になっているのを思い出しまして。もしかしたらと思って、こちらに伺った次第です」


その説明に、眉をひそめる。


「神官長にでも言いつけて、俺を連れ戻すつもりか?」


神官長にバレれば、そのまま父上まで情報が届くだろう。

そうなれば、もう続けていくのは無理だ。


「とんでもありません。実践で魔法の練習をしたいのです。昨日のような形でも良いのですが、そうすると回復魔法しか練習ができないので、他の魔法も練習したいのです。

 一人でやろうとは思えませんが……。せっかくですから、お二人に便乗させて頂ければ、と思った次第です」


「まあ、理解はしたが、それを受け入れる義理はない。一人が嫌なら来るな」


俺もバルも、今は二人で行動しているが、最初は一人で動いたんだ。そんな甘い考えなら、最初から来ないでほしい。


「俺たちは今日からランクが上がるから、街の外に出るぞ。お前は街中の仕事からスタートだ。どっちにしても一人だな」


それで話は終わりのつもりだったのに、想定外の所から反論が来た。


「別に良いじゃねぇか、シス。そんな切り捨てるもんじゃねぇだろう。回復役がいてくれれば、ありがたいのは確かだろ」


お前は、あっちの味方か、バル。俺のお守り役が一人増えるんなら、ありがたいってことか?


「だったら、お前が組めばいいだろう。俺は一人でいい」


そう言い捨てて二人から去ろうとすれば、バルに遮られた。


「……あのな、シス。良く聞けよ。おれは別にお前の護衛をやってるつもりはねぇからな。それで一緒にやろうと言ったわけじゃねぇし、ユーリッヒを誘ったわけでもない」


「……違うのか?」


割と本気で驚いた。それが伝わったんだろう、バルが怒っているのが分かった。


「違う。――お前が何で城から抜け出してんのか、ってのは、まあ想像はつくさ。確かに居にくいんだろうよ」


言われて、唇をかみしめる。


「お前がどこまで自覚してるかは分かんねぇけどな……。さみしそうな目を、泣きそうな目をしてんだよ。おれと一緒に馬鹿話しながら仕事をしているときは、少しその目がマシになる。だから、お前は一人でいたら駄目だし、事情知ってる仲間が増えんなら、それに越したことはねぇ」


「……何のことだよ?」

本気で分からなかった。自分のせいで兄上をひどい目に合わせてしまった事が、悔しいだけだ。


「無自覚かよ。まあ別にいいさ。そこを議論するつもりはねぇ。――ユーリッヒ、こいつはああ言ってるが、おれはお前を歓迎する。

 こいつの名前は『シス』で、おれは『バル』で登録してるから、そう呼んでくれ。……お前はどうすんだ?」


「『ユーリ』で登録しようと思っています。ランクについてはご安心下さい。調べてみたら、回復できる冒険者ってなかなかいないから、神官が冒険者登録した場合、FランクをパスしてEランクから始める事もできるそうなんですよ」


「何だよ、思い切り特別待遇じゃねぇか」


「確かに。じゃあ、僕は登録してきます。――これからお願いしますね、シス」


宣言するだけして、ユーリッヒはギルドに入っていった。何だか、勝手に加わることが決まってしまっている。


頭をガツンと叩かれた。

「おれらも行くぞ、シス」


「……行けば」


「ああもう、本当に馬鹿かお前は。難しく考えんな。馬鹿やって楽しんでりゃ、一人でいたいなんて思わなくなるさ」


「……いい。外にいる。……ちゃんと、いるから」


そんな俺をどう思ったのか、「分かった」と一言だけ残して、バルはユーリの後を追った。



建物の横に回って、壁にもたれかかる。

深呼吸すると、少しは気持ちが落ち着いた。


(静かだな)


望んでいた静けさだ。それなのに、言いようのない不安を感じて、戸惑う。

少し考えれば、気付いた。いつも隣にいるバルが、いないからだ。


壁にもたれたまま、地面に座り込む。


「俺、もっと、しっかりしなきゃいけないのに……」


兄上の役に立てないどころか、害にしかなっていない。


そんな自分と一緒にいた所で、何もならない事くらい分かっているだろうに、それでもバルもユーリも自分と一緒にいるという。


どうしていいか分からなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ