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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十六章 三年目の始まり

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VSマンティコア①

 異質な魔力を感じる場。それは、走ればすぐそこだった。


「『風よ。嵐となって吹きすさべ』」


 聞こえたのは、魔法の詠唱。

 そして見えたその魔物に、リィカは目を見開いた。


「マンティコア……? なんで、こんなところに……」


 リィカは直接戦った事はないが、倒された後の姿だけは見た。

 獅子に似ているが、毒々しい赤い体に尾はサソリに似た形状をしている。あそこに毒があって、場合によっては飛ばしてくることもあるはずだ。


 街中に魔物がいるだけでもおかしいのに、マンティコアはBランクだ。しかもそれが三体いる。


 そして、そのマンティコアに立ち塞がるように、剣を抜いている生徒たちがいた。どう見たところで、マンティコアに敵いそうにないが、それでも逃げようとはしていない。

 マンティコアもどう思っているのか、動きを見せていない。


「『嵐となって吹き下ろし、全ての敵を薙ぎ払え』」


 状況確認をしているリィカの耳にまたも聞こえた、魔法の詠唱。唱えているのが誰かはすぐ分かった。見知った相手。――ナイジェルだ。


 その近くにもう一人……いや二人、姿が見えた。一人は、つい先ほどまで一緒だったアークバルト。そして、もう一人は、横たわっている。その腹部からは、おびただしい出血が見えた。


 そこまで確認して、再びナイジェルに意識を戻す。

 疑問がよぎった。詠唱は覚えていないが、その内容から何を使おうとしているのか、何となく分かるからだ。

 その瞬間、アークバルトが叫んだ。


「やめろっ、ナイジェル!」

「《嵐の下降風(ダウンバースト)》!」


 唱えられた魔法は、風の上級魔法だ。

 思った通りの魔法が放たれたことに、リィカは「え」と喉の奥で呻く。魔法の対象は、当然マンティコアだ。だが、その前には……。


「「「うわああああぁぁぁぁぁぁっ!?」」」


 上級魔法は、範囲魔法だ。マンティコアに立ち塞がっていた生徒たちも、当たり前に巻き込んでいる。


「なんでっ!?」


 リィカからしたら絶対にあり得ないそれに、思わず声を上げるが、すぐそれどころではないことに気付いた。


「はははっ! 見たか、魔物どもよ! この俺が……」

「《疾風ゲイル》!」


 他の生徒たちを巻き込んだというのに、大いばりしているナイジェルの言葉を遮り、リィカは魔法を放った。


「――あ? なんだ小娘……ヒィッ!?」


 不機嫌そうにリィカを見たナイジェルが、その光景に悲鳴を上げた。そう、マンティコアは三体とも健在だ。ダメージらしいものを負ったようには見えない。


 一体がナイジェルに飛びかかろうとしていたのを察して魔法を放った。当たったはずだが、傷らしいものは見当たらない。


 リィカはナイジェルが放った魔法に巻き込まれた生徒たちの様子を伺う。小さくうめいていたり、わずかに指先が動いているように見える。


「な、なんですか、これっ!?」


 そこに響いた声は、レーナニアだ。どうしたのかと様子を見に来るのは仕方ないけれど、リィカとしてはあの場から動かないで欲しかった。


「《水波紋アクアリング》!」


 リィカはマンティコアに魔法を放つ。


 本音を言えば、中級魔法ではなく、もっと威力のある魔法を使いたいところだが、周囲に人が多すぎる。

 そして、その人たちにマンティコアの注意を向けさせるわけにはいかなかった。自分に注意を向けて、周囲から引き離す必要がある。


「ガアァッ!」


 リィカの魔法が命中した個体が、リィカを睥睨した。たいしたダメージにはなっていないようだが、注意を向けることには成功したようだ。


「《水鉄砲アクアガン》!」


 もう一発、と再び水の中級魔法を放つ。

 命中する、かと思われたその魔法は、マンティコアの一体が大きく口を開け、それをかみ砕くように消滅させる。


「…………!」


 目を見開いたリィカだが、目的は達した。マンティコアが三体とも、リィカを"敵"と認識したようだ。


「《強化・速(ブースト・アーリー)》!」


 その瞬間リィカが唱えたのは、模擬戦でアレクにかけた、速さを上げる強化魔法。それを自分にかけて、マンティコアに背を向けて走り出した。

 目的は一つ。少しでも、人のいない場所へ移動するためだ。


「はやいっ……!」


 これがアレクや暁斗であれば、もっと移動できたかもしれない。けれど、リィカはほんの数秒程度で諦めた。

 マンティコアの動きが速い。追いつかれるだけならまだしも、囲まれでもしてしまったら、対処が困難だ。


 強化されて抑えの効かない速さを強引に止める。足にかなりの痛みが走ったが、気にしていられない。

 自分に向かってくる三体のマンティコアに向けて、右手を突き出した。


「《火防御フレイム・シールド》!」


 ただ防御するためのものではなく、三体のマンティコアを閉じ込めるようにして発動させる。

 そして、それは無事成功した。


「ガアアァァッ!?」


 そのまま火の中に突っ込んた一体が、悲鳴を上げる。あるいはそれで倒せれば、と思ったが、やはりそう簡単にはいかないようだ。


 マンティコアたちが大きく口を開けて、その炎に噛み付いた。炎を噛みきろうとしているかのようだ。


「…………っ……!」


 防御を破られないよう維持するのに、かなりの負担だ。リィカは思わず顔をしかめる。あまり他に意識を割く余裕がない。しかし、このタイミングしかない。


 風の手紙(エア・レター)に魔力を流す。皆に来てもらわないと、一人では無理だ。そう思って、口を開こうとする。が、声が聞こえる方が早かった。


『今向かっている。待っててくれ』


 アレクの声だ。当たり前だ。皆が気付かないはずがない。その頼もしい声に、泣きそうになる。


「うん、急いで。怪我人が、多いの」

『分かりました。そちらは僕が何とかします。今は死なさないことだけを考えて』


 ユーリだ。その声に見えないと思いつつも頷く。そして風の手紙(エア・レター)を切って、声を張り上げた。


「わたしが抑えますから、今のうちに怪我をした人たちを移動させて、できるだけ距離を取って!」

「何だと貴様! 誰に向かって口をきいていると思って……」

「ナイジェル、言うとおりにしろ! 元はお前のせいだろう!」


 リィカの言葉に真っ先に反応したナイジェルだが、すぐアークバルトの一喝が入る。だが、アークバルトが動かないのは、腹部からの出血が止まらない生徒の傷口を押さえているからだ。


 リィカは一瞬で判断し、視線はマンティコアに向けたまま、声をかけた。


「レーナニア様、お願いです。彼の治療をして下さい!」

「ま……待って下さい! わたくしの魔法で、あの傷を治すのは……」

「治さなくていいです! 今ユーリがこっちに向かっていますから、来るまで死なさないで下さい!」


 リィカの要請に怯んだレーナニアだが、それでもすぐにコクンと頷く。汚れるのも構わず、倒れている人の側に地面に膝をついて、《回復ヒール》を発動させた。


 それを確認してから、アークバルトが怪我人の移動を始める。そうなると、ナイジェルも動かざるを得ないのか、舌打ちでもしそうな顔で怪我人の元に寄って、他の生徒たちも動き始めた。


 それを確認して、息をつく。あとはもう、アレクたちが到着するまで誰も死なないことを願って、マンティコアたちを抑え込み続けるだけだ。


(いや、一発くらい魔法を放ってみる?)


 リィカは目を瞑る。右手が《火防御フレイム・シールド》に触れて、そこからさらに手を潜り込ませる。そして、右手が《火防御フレイム・シールド》の内側に到達した。


「《灼熱の業火(フレイムヘル)》!」


 その瞬間に放ったのは、火の上級魔法。その場に長く残り続ける上級魔法だ。とはいっても、全力とは言えない。

 下手に全力で攻撃魔法を放って、《火防御フレイム・シールド》がもし壊れでもしたらと思うと怖い。あくまでも様子見のための攻撃だ。


「「「ガアアアアアァァァァァッ!」」」

「……………」


 叫ぶマンティコアを、リィカは難しい顔で、目を細める。

 Bランクの魔物が、全部が全部同じ能力なわけではない。当然、その中でも強い弱いはあるだろう。


(でも、こんなに攻撃が通らないものなの……?)


 マンティコアの叫びは、炎に焼かれる痛みによるものではない。叫んで体を震わせ、その足が炎を踏みつける。そして、長くその場に残り続けるはずの炎が、あっさりと消えて無くなった。


 マンティコアは、若干火傷があるように見えるが、ダメージらしいものはそれだけだ。確かにリィカは全力ではなかった。だからといっても、ダメージが少なすぎる気がする。


「「「ガアアアアアァァァァァッ!」」」


 考えるリィカの余裕を奪うように、再びマンティコアたちが叫ぶ。その口を大きく開けて、喉の奥に魔力が集まっていく。


「――うそでしょっ!?」


 マンティコアにそんな能力があるなど、聞いた事がない。

 が、それを言っても現状がなくなるわけではない。リィカは《火防御フレイム・シールド》にさらに魔力を込めていく。


「「「ガアァッ!」」」


 三体が同時に放ったその魔力は、まるで太いレーザーのようだった。一直線に射出されたそれらは、リィカの《火防御フレイム・シールド》の所で一点に集中した。


「…………っ……!」


 威力が、ありすぎる。

 魔力を込める。が、分かってしまった。もうあと、そんなに保たない。


(どうすればいい……?)


 自分一人なら、どうにかなるかもしれない。けれど、ここには他の生徒たちもいる。せっかく自分だけに注意を向けさせたのだ。下手に動けばどうなるか分からない。


 ジュウッと炎が消えていくような音がする。無理だ、とリィカが思った瞬間だった。


「リィカっ!」

「《結界バリア》!」


 誰かの手が、リィカの腰に回されて引き寄せられる。同時に《火防御フレイム・シールド》が消滅するが、代わりに光の結界が攻撃を受け止めた。


「アレク、みんな……」


 誰か、なんて考えるまでもない。リィカを引き寄せたのはアレクだ。側にはバルがいて、ユーリが《結界バリア》を発動させている。


「とんでもない威力ですね、これ。――リィカ、呼吸を整えたら合図して下さい」

「分かった」


 全部言われなくても、言いたいことは分かる。アレクの手が腰から離れるが、すぐ脇で想定外の事態に備えて剣を構えている。同様に、バルも剣を構えている。


 一度深呼吸をする。それだけで十分だ。

 そして、右手を真っ直ぐ前に突き出して、ユーリに目配せして……《結界バリア》が解除された。


 ――その瞬間。


「《水蒸気爆発スチームバースト》!」


 リィカが魔法を発動させた。水と炎の混成魔法だ。

 それは、一直線にマンティコアたちの放った攻撃に突き刺さる。


 ――ドガアアアァァアァァァァァァン!!


 凄まじい爆発と共に、相殺したのだった。


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