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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第二章 旅の始まりと、初めての戦闘

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年寄りだけの村

ザッ、ザッ、ザッ

歩く音が聞こえて、リィカもアレクも、警戒する。


「(リィカ、魔物じゃない。人だ)」

アレクがそう言って間もなく、そこに現れたのは、おじいさんだった。



「……ん? おや、こんな所に人がいるとは、珍しい」

そのおじいさんが声を掛けてきた。


「こんにちは。……あの、もしかして、水くみですか?」


そうリィカが聞いたのは、そのおじいさんが大きな瓶をもっていたからだ。

リィカがいたクレールム村でも、そうやって男性が水くみをしていた。


おじいさんがうなずくと、リィカは身を乗り出した。


「近くに、街か村があるんですか? 教会はありますか?」


誤って川に落ちたことや、怪我をしていることなどを話すと、そのおじいさんは少し顔を曇らせた。


「村はすぐ近くですよ。歩いて10分程度です。教会は、ここから半日ほど行った所にありますよ。ポツンと教会が一軒あるだけの所ですけど、日中であれば通いの神官様がいるはずです」


その言葉を聞いて、リィカはアレクと顔を見合わせる。

どうしようか、と視線を交わして、今度はアレクが質問した。


「ここから、モントルビアの王都まではどのくらいかかりますか?」


それは、現在地のおおよその確認だ。

あの村から王都まで街道に沿って行けば、二十日近く掛かるはずだ。


「王都までだと、大体二十日前後という所ですよ」


おじいさんの返答に、思わずため息がでる。

街道から大きく外れた場所なら、やはり日数はかかる。

結局、どの程度流されたのか、判断は付かなかった。



※ ※ ※



結局、その教会に行くことにした。

いつになるか分からない仲間との合流を目指すよりも、教会に行った方がいい。


その通いの神官とやらの腕は分からないが、神官である以上、回復魔法が使えないと言うことはないだろう。まずは、アレクの怪我をどうにかする方が優先だった。



だったら、まず村に来ませんか、と誘ってきたのはおじいさん(エイデンさんと言うらしい)の方だった。


二人の、川に落ちた、という泥だらけの格好を気にしてくれたらしい。


今は昼過ぎだから、今から教会に行っても、たどり着く頃には神官様はいませんよ、と言われて、せっかくだから村で一泊したら、と勧められた。



リィカは、ためらった。

半日とはいっても、普通に歩いて半日だろう。アレクが普通に動けるとは思えないから、間違いなくそれ以上かかる。


たどり着くのが真夜中になってもいいから、リィカとしては行きたかった。夜が明けて神官様が来れば、すぐに見てもらえる。



そう考えるリィカを止めたのが、アレクだ。


「リィカだって疲れているだろう? ちゃんと休んだ方がいい」


教会にたどり着くまでは、リィカの《回復ヒール》が頼みの綱だから、無理をされると困ると言われて、リィカは折れた。



村の名前は、アルテロ村と言うらしい。

その名前を聞いて、アレクが複雑そうな顔をした。

アルカトル王国では、村の名前の最初に、アが付くのはあり得ない、と。


リィカも、思わずそれには笑ってしまった。



※ ※ ※



「ふう」

宿はないから、と通されたのは、村長宅だ。


リィカも手を貸したが、ここまでアレクは頑張って歩いた。


部屋に通されると、泥が床に付かないようにシーツを一枚もらって引いて、その上にアレクは横になった。


その疲れた顔に、リィカは不安になる。

キツいとも辛いとも言わないが、たったこれだけの距離を移動するだけで、アレクは限界が来ている。


果たして、これで教会まで行けるのか。もしかしたら、あの場を移動せずに、みんなが来るのを待った方がいいかもしれない。


そんな考えも頭に浮かんだが、今考えることではない、と頭を切り替える。


「アレク。水かお湯か、あと体を拭く布とか、もらってくる」

うなずいたのを確認して、リィカはその場を離れた。



(考えてみれば、水もお湯も魔法で出せるよね)


村長宅を出てから、その事に気付いた。

たらいと拭く布だけ借りられれば問題ない。


それだけなら、村長宅でも大丈夫だろう、と思って、引き返そうとして、何かが引っかかった。

何だろう、と思って、もう一度村を見回して、気付いた。


(何で、お年寄りしかいないの?)


川に来ていたエイデンさんも、村長さんも、出歩いている人も、みんなお年寄りだ。

日本の超過疎地域でもあるまいし、何か、嫌な感じがした。



村長のカルムさんに、たらいなどを借りるついでに、なんでお年寄りしかいないのかを聞いてみた。


「貧しい村ですからね。若い者は出稼ぎに出ているんですよ」

という返事。


だったら、子供がいてもおかしくない。

貧しいという割に、着ているものが古びている感じもしない。


疑問はあったけれど、貼り付けたような笑顔がそれ以上の質問を躊躇わせた。



部屋に戻ると、アレクは寝ていた。

自分が帰ってきても、まるで目を覚ます様子がない。


(体、キツいんだろうな)


体調が万全な時のアレクなら、見知らぬ場所で、一人でいる所で、こんなに熟睡してしまうなど、あり得ない。


「《熱湯アクア・カリエンテ》」


魔法を唱えて、たらいにお湯を入れる。

相変わらず、熱湯というよりお湯と言った方がいい温度だが、今の場合、その方が有り難い。


布を浸して、アレクの体を拭き始めた。


体を拭き終わったら、今度は傷口を開けて、もう一度《回復ヒール》をかける。

また薬草を当てて、包帯代わりの布をまき直す。


そこまでやっても、アレクは目を開けない。



ちょっと悩んだが、寝ているからいいかと思って、リィカもその場で自分の体を拭き始めた。


本当は、お風呂に入りたいが、さすがに無理だろう。

アルカトル王国は、建国王アベルの影響で、結構お風呂が浸透している。


だが、ここは他国の村。それを期待するのは無理だった。



※ ※ ※



(どうしようかな)


アレクが目覚めない。

この村の不安が大きい。多分、何かがある。


可能なら、さっさと出て行ってしまいたいくらいだが、アレクが起きないと、それも難しい。


先ほど、夕食だと言われたが、アレクが心配だから側にいる、と言ったら、食事を持ってきてくれた。


親切そのものの行動。それを疑うのは間違ってる。

それでも、この食事を食べる気には、どうしてもなれなかった。



夜。

リィカは、アレクの隣で、その腕を抱えて横になっていた。


起きる気配のないアレクが不安で、手首の脈が触れる部分をずっと手で触れていた。


最初は、心臓の音を聞いていたが、恥ずかしくなってやめた。

トクントクンと触れる脈が、リィカを落ち着かせていた。


その時、人の気配がして、そっと扉が開けられた。

リィカは、息を殺して、寝たふりをする。


その様子を見て、どう思ったのか。扉が閉められて、リィカは起き上がった。



外の様子を伺う。

夜の静けさの中に、ほんのわずか、喧噪を感じた。


次、アレクの追憶が入ります。

明日の更新は、夕方になると思います。

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