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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十六章 三年目の始まり

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遭遇後の報告を

「なるほど。リィカ嬢、そこはいいところついたね」


 教室に行って少しするとアークバルトとレーナニアが登校してきたので、まずは朝のナイジェルのことを報告する。


 それに対して、アークバルトが笑いながら言ったのが、先ほどの台詞である。


「……いえ、その、普通にそういうものだと思ってただけなんですけど」


 リィカとしては、褒められても困る。名前を名乗り合うものだと聞いていたから、名前を聞いた。ただそれだけなのだ。


「うん、それでいいよ。学園内での例外はあっても、それを気にする事はない。ナイジェルも、名前を聞かれたのだから、普通に答えれば良かっただけなんだ。それを、リィカ嬢が知らないという事実に、勝手に怒ったのはあっちの方だ」


 そんなことを言いつつも、アークバルトはご機嫌そうである。


「小物感満載か。確かにそうかもね。ヴィンスだったら多少怒りはしても、多分普通に名乗っただろう。それが出来ない時点で、ナイジェルは器の小ささを見せてしまった、ということだね」


 いいのかなぁ、とリィカが心配するくらいにはご機嫌だ。貴族社会というのは、こういうものなのだろうか。まだ二日目でしかないというのに、先行きが不安だ。


「それにしても、アレクはどうやってリィカ嬢が絡まれていることに気付いたんだ? 突然馬車から飛び降りて、猛スピードで走って行くから、何があったのかと思ったんだ」

「あ……まあ、その、色々……」


 兄の問いかけに、アレクがタジタジになる。それに、リィカが心の中だけで、ごめんなさいと謝罪する。


 説明しようとすれば、風の手紙(エア・レター)のことを話さなければならないが、はっきり言って、これ一つでもこの世界の常識が覆る。

 幸いなことか問題かは分からないが、魔石に魔力付与ができなければ作ることができないから、作れと言われても物理的に無理だということだろうか。


「あの、レーナニア様はミラベル様の事を、どれだけご存じですか?」


 アレクへの助け船、というだけではないが、リィカはレーナニアにミラベルのことを切り出した。

 言いつつ、同じクラスのセシリーをチラッと見るが、離れた席に座っていて、こちらを気にする様子はない。


 昨晩のアレクたちからの話だと、「そういえばいた」程度の認識だったが、同じ女性で、さらに同じ公爵のレーナニアはどういう認識なのか。


「わたくしも、そんなに親しいわけではないんです。挨拶程度はするけれど、本当にそれだけで」


 問われたレーナニアは、少し困ったような顔をしつつも答える。


「ナイジェル様との婚約は、父から聞いて知っておりました。魔法師団が身内で婚約を結んだと、父が吐き捨てておりましたから」

「…………」


 吐き捨てる、という言い回しに、リィカの頬はヒクついた。


 貴族社会はこういう社会なんだろう、と思うしかないのだろうか。どういう社会と聞かれても答えられないが。

 仲が悪い相手とは、とことんまで悪くなるということだろうと、そう思ってしまったほうが間違いない気がする。


「入学当初はわたくしも身構えていましたが、特にこれといった悪い噂もなく。公爵家の令嬢がCクラスにいることを周囲が揶揄しておりましたが、それに対しても何を反論するでもなくて」


 影が薄い。今はそんな印象だ。

 そのため、レーナニアにとっての"警戒対象"からは外れていった相手だ。


「寮にいらっしゃることすら存じませんでした。……まったく、レイズクルス公爵家は何をしているのでしょう。侍女が母親だから、何だというのでしょう。その侍女に子供を産ませたのは、公爵閣下ご本人でしょうに」


 憤りを隠せない様子のレーナニアに、リィカは何となくホッとする。こういう所の感覚は一緒だ。ここが違っていたら、リィカが今後レーナニアと付き合っていくのは、かなりキツいことになっていた。


「……あの、ご相談なんですけど。わたしが、ミラベル様に魔法を教えるのって、いいですか?」

「え?」


 昨晩アレクたちに言ったことを、レーナニアに聞いてみた。目を大きく開けて、かなり驚いているようだが。


「あ、ミラベル様に何か言ったわけでも、言われたわけでもありません。上手く教えられるかどうかも分かりませんし。ただ、何となく、教えられそうなら教えたいと思いまして……」


 聞かれる前にまくし立てる。何故教えたいのか、と理由を聞かれたところで、答えられない。

 もしかしたら、自分も同じ立場にあったかもしれない。奴隷扱い、という単語が、心に残っている。同情、なのかもしれない。ただ、放っておけないのだ。


「……んー、そうですね」


 レーナニアは悩むようにつぶやいて、その視線がアークバルトへと向かう。そのアークバルトも悩む様子を見せつつ、口を開いた。


「そうだね。本音を言えば、レイズクルス公爵家の人間に、あまり強くなって欲しくない気もするけど。発言力が増すだけだから」


 考えつつ言われた言葉に、リィカが身を縮こませる。

 これが平民だったら、家のことまで考える必要なんてない。同じ寮で知り合った同士、お互いの同意があれば、それだけで済む話だが、やはり貴族だとそう簡単にはいかない。


「ただ、魔法師団の力が全体的に落ちてきている。リィカ嬢は勇者様に指導していたこともあるし、実際に教えてどういう結果になるかを、見たい気もする」

「え?」


 多少なりとも、教える事への賛成も含まれた言葉に、リィカは目を見張った。


 ちなみに、リィカが勇者に指導していた、というのは、まだ魔王討伐の旅に出る前の話だ。うまく魔法が使えなかった暁斗にリィカが教えて、暁斗は魔法を使えるようになったのだ。


「ミラベル嬢次第かな。仮に強くなったとして、彼女がどうしたいのか。家のため……というか父親のために力を使いたいなら、あまり歓迎はできない。ただ、力をつけて家を出ても生きていける道を作るのは、悪くない」


 そう言うと、アークバルトはレーナニアを見た。


「レーナ。その話、君からミラベル嬢にしてくれ。その時の反応次第で、教えていいかどうか、判断して欲しい」

「えっ!?」

「かしこまりました、アーク様。お任せ下さい」

「ま、待って下さい! その、話はわたしが……!」


 なぜいきなり話がレーナニアに及ぶのか。

 自分が言い出したのだ。教えていいと言われれば、話も自分がするつもりだった。


「わたくしたちは、レイズクルス公爵家の力が増すような判断はできません。ですから、わたくしが話をして見極めます。申し訳ありませんが、まだリィカさんには難しいと思いますから」


 困ったようなレーナニアの笑顔に、リィカは何も言い返せずに、ただ黙って頷いたのだった。


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