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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十六章 三年目の始まり

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夜の内緒話②

「そ、それよりダランの話をしようよ」


 リィカの強引な切り替えに、風の手紙(エア・レター)の向こう側の三人の反応はなかった。

 相手の顔が見えないというのはやりにくい、でも見えなくて良かったかもしれない、などと思いながら、相手の反応を待つ。


『……ま、そうだな』

『元々、ダランの話をする予定だったわけですし』

『……ちゃんと明日話せよ、リィカ』


 ほんの少し笑いを覗かせたようなバルとユーリの言葉に対して、アレクの声は妙に低いし迫力があるしで、リィカが口の中で「う……」と呻く。


『じゃあ本題にいくぞ。あいつがここに来ていた。話の時期からして、俺たちが会った後だよな?』


 だが、そこでしっかり気持ちを切り替えるのが、アレクのすごいところだと、リィカはいつも思う。

 フランティアの話を確認するように投げかければ、まず答えたのはバルだった。


『ああ、だろうな。微妙っちゃ微妙なタイミングだが……』

『あちらには転移がありますからね。数日後などでも問題なく移動できます。まったく、非常識ですよ』


 実際、魔国から帰るときに転移を使ったのだ。

 最初は短い距離から試していったが、段々飛ぶ距離も長くしていった。そのたびに、ユーリが難しい顔をしていたのを、リィカは何となく思い出す。

 まあ、非常識なことは、リィカも否定できない。


『聖地で僕たちの身分のことなんかを話してしまったことは、失敗でしたね』

『しょうがないだろう。あの時は想像すらしなかったんだ』


 ユーリがため息をつくように言うと、アレクの苦笑気味の声が届いた。


 色々と気にくわないところがあったとしても、それでもダランが魔族の仲間だなどと、思いもしなかったのだ。

 話したのは身分だけで出身地までは言わなかったが、勇者がアルカトルから出発する以上、そこの出身だと考えるのは自然なことだ。


「魔王はアレクのこと、王の子って呼んで、すごく気にしてたよね」

『ある意味、アキト以上にな。勇者以上に気にされる王子の存在って、すげぇよな』

『すごくないし、嬉しくない』


 リィカが思い出しつつ言ったことにバルが答え、それに対してアレクが憮然とする。リィカは首を傾げつつ、疑問を口にした。


「ダランがここに来たのは、その情報収集だけなのかな。フランティアさんもエレーナさんも、ダランに何かされた感じじゃなかったよね?」


『そうだな。闇魔法見た、って嬉しそうに言ってるだけだったな』


『魔物退治するのを、守って助けてくれていたわけですしね。それが終わったら、ダランは王都から出ていったという話でしたし』


 正確に言えば、王都の門の方向に歩いて行った、というだけの話だったから、本当に王都から出たのかどうかは分からないが。


『どうしますか、アレク。ダランの痕跡が王都にあるかないか、探しますか?』

『探せるのか?』

『やってみなければ分からない、というところでしょうか。痕跡、というより魔力を探す感じになるでしょうけど。リィカは出来そうですか?』


 聞かれて、リィカは首を傾げつつ答える。


「うーん、多分。でも、魔石とか使って別の人の魔力を使われちゃってたら、分からないなぁ」

『その可能性もありましたね』


 魔族の中で倒すことが出来ていない中で、リィカが自信を持って魔力を察することができるのは、ジャダーカだけだ。


 カストルが魔法を使ったのを見た事がないし、もう一人光魔法を使うという魔族も、一度だけ魔法を使ったのは知っているが、あの時はリィカもユーリも人食い馬(マンイート・ホース)の戦い直後で、魔力を感じている余裕などなかった。


 他に思い浮かぶのは、その人食い馬(マンイート・ホース)と一緒に、魔封陣の中で襲ってきたうちの二人。全部で四人いたが、二人は倒したから、残るは二人、ラムポーンとディーノスだ。


 だが、あの二人は一度も魔法を使っていない。

 魔封陣という、魔法を封じ込める陣を使うに当たって連れてきた人員だ。もしかしたら、魔法を使えない可能性もある。


「今度の学園の休みの日、散歩ついでに変な魔力ないか、見て回ってみようかな」


 ふと思いついたことを、リィカが口にした。


 一年生の時は、クラスメイトたちと王都近くの森に魔物退治に出かけたり、魔法の練習をしたりして過ごしていた。魔法の練習はしたい気持ちはあるが、今の自分が学園内で魔法の練習をするのは、色々な意味でやめた方がいい気がする。


 久しぶりに王都に帰ってきたことだし、街中の散策ついでに魔力の探査でも行ってみよう、と思ったのだが。


『ああ、いいなそれ。一緒に行こう』

「……はい?」


 問いかける風でも何でもなくアレクに断定されて、リィカは疑問の声を上げたのだった。



※ ※ ※



 風の手紙(エア・レター)を切って、アレクは座っていたソファにゴロンと寄り掛かる。次の休みは、リィカとのデートだ。誰にも文句は言わせない。


「聖地での、あのワンピースを着てきてくれ、って言ってみるかな」


 言えば、きっとリィカは着てくれるだろう。なんだかんだと、自分の我が儘な頼みに嫌と言わないリィカだ。


『アレク、旅の間とは違うんだ。あんまりリィカにベタベタすんな』

『模擬戦のときの、リィカの腰に手を回していたあれ、どう思われたか分かりませんよ』


 ふと、学園からの帰りにバルとユーリに言われたことを思い出す。

 確かに、何も意識することなく、リィカの腰を抱いてしまったことは良くなかったかもしれない。男と女だ。あんなことをすれば、普通に勘ぐられる。


 けれど、別にいいじゃないかと思う。自分に誰か相手がいるわけではないし、リィカだって貴族になった。十分に釣り合うのだ。


 強引に貴族にしてしまったから、リィカがもう少し慣れて落ち着くまでは待とうと思うが、だからといって手を離してやる気は全くない。

 リィカは可愛いし、きっとモテるだろう。だから、今のうちからリィカは自分のものだと、周囲に牽制して何が悪い。


(父上の許可くらいは、もらっておかなければ駄目か)


 王子である自分の結婚を、自分の意思だけで勝手に決められない。ここまで婚約者を決められる事がなかったのだから、きっと好きにしていいと思われているのではないかと思ってはいるが、だからといって許可をもらわなくていいわけではない。


 昨日、リィカに別れを告げられた日。

 バルとユーリと共に、国王である父の元に行って、"リィカを貴族にして欲しい"と望む報酬を告げたとき。


 国王は驚いた後、ひどく嬉しそうなホッとしたような顔をした。そして、いともあっさり、その願いを叶えることを了承してくれた。あっけなさ過ぎて逆に心配になったくらいだ。


 何か事情がありそうだが、その事情がなんなのかは聞いていない。必要であれば、いずれは話してくれるだろうと思っている。


「……行ったか」


 アレクは体を起こして、小さくつぶやく。


 風の手紙(エア・レター)で話しているとき、姿が見えない誰かの気配が、確かに部屋の中にあった。それが、国王直属の諜報機関『影』に所属しているうちの一人、一度会ったことがあるジェフであることに気付いていた。


 旅に出る前は、『影』の気配などあちらが意識して強くしてくれなければ気付けなかったのに、今は普通に感じることが出来てアレクは苦笑する。


 気付いていることを隠さなくてもいいのかもしれないが、何となく知らない振りをしてしまった。


 先ほどの風の手紙(エア・レター)での会話で、意識してダランの名前を言うことを避けた。国王に知らせるつもりはなかったからだ。


 最も、それ以外は普通に話したから、自分が何かを隠している事くらいは勘付くだろう。近いうちに、危険が残っていることを話さなければならないが、まだいい。


 アレクは大きく伸びをして、ソファから立ち上がる。

 おそらく今頃、ジェフの口から国王に報告がいっているだろう。危ない独り言を言っていた、とは思われないはずだ。何らかの手段で、遠く離れた人物と話をしていたと判断されるだろう。


 転移といいアイテムボックスといい、秘密にしているから、これもその一種だと思われるだろう。きっと、ため息一つで放っておいてくれる。


 そんなことを考えながら、アレクは寝室に入って眠りについたのだった。


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