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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第二章 旅の始まりと、初めての戦闘

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捜索①

時は遡る。


パールとの戦闘を終えたばかりの、バル、ユーリ、暁斗、泰基の四人は、アレクとリィカが流されたと思われる川の下流に向かって、川沿いの崖を走っていた。


だが、戦闘時、すでに夕方に近い時間だったこともあり、すぐに辺りは暗くなる。



「これ以上は危ないな。今日はここで野営にしよう」

そう言ったのは泰基だ。


「だが……!」

バルが反論の声を上げかけるが、泰基はそれを遮る。


「俺たちが無理をしてもしょうがない。暗ければ見えなくなるから、二人の姿を見逃す可能性もある。夜に捜索は無理だ」

「…………………分かった」


バルが不承不承うなずいて、その場での野営が決まった。



その日の夕食中、誰も口を開かなかった。

暁斗は、相変わらず無表情のままだ。


だが、そろそろ食事が終わるという段になって、ユーリが口を開いた。


「今日の夜番ですけど、僕とバルとで行います。アキトとタイキさんはゆっくり休んで下さい」

「…………えっ!?」


その言葉に、ずっと無表情だった暁斗が反応した。


「お二人とも疲れているでしょう? 今日くらいは休んだ方がいいですよ」

暁斗が反応した事に、ユーリは少しホッとする。


「……疲れてるのは、みんな一緒じゃん。オレもやるよ」

「俺もできるから大丈夫だ。……気を遣わせてすまない」


暁斗に続いて、泰基も言葉を続ける。

ユーリは、少し困ったように二人を見るが、やがて少し嘆息した。


「分かりました。……では、二人は先に休んで下さい。そこは譲れません」


泰基が悩みつつもそれにうなずけば、暁斗も続いて素直にうなずいた。




二人が寝入ったのを確認して、食事の片付けをしながらバルはユーリに問いかけていた。


「……ユーリ、何があった? なんか知ってんのか」


魔族を前にしたとき、そしてパールとの戦いの時の、二人の様子を思い出す。

ただ、魔族を恐れただけ、とは思えなかった。


「僕も全部分かっているわけじゃありませんよ。ただ……」

ユーリは、あの時のアキトの言葉を思い出す。


『だって、相手は人だよ? 人と、変わんないじゃん!!』という叫び。

あの言葉に、衝撃を受けた。


「生きてきた世界が違うんですから、考え方だって違って当然です。それでも、僕たちにとって敵でしかない相手を、人と変わらないと言われたときには、何というか、こう……複雑でした」


ユーリが素直に心の内を吐露する。実際、複雑そうな顔をしていた。

そして、それを聞くバルも、複雑な顔をしている。


「……人と変わんねぇ、か。……ユーリ、お前人を殺したことあるか?」


「ありませんよ。バルは?」


「おれもねぇよ。……なんか、無理矢理召喚した挙げ句、キツいことばっかりさせてんのかな」


バルも、ユーリも、とてもじゃないが、人と変わらないとは思えない。

それでも、二人がそう感じながらも戦ってくれた事に、申し訳なさが募る。


「それと、もう一つ気になることがあるんです」


『……ちがう……母さんなんか、知らない……キライだ……いやだ……』という、心の奥から絞り出したかのような辛そうな言葉を、ユーリは話した。


「母さん、ねぇ」

バルは、大きくため息をついた。


父親がいて、息子がいる。じゃあ、母親はどうしているんだろう、とは当然疑問に思ったことだ。


それでも、それを聞けなかったのは、きっと家にいて、二人を心配しているんだろう、というのが、当たり前に想像されたからだ。


だから、二人の口から母親の話が出ない限りは、こちらからは聞かないようにしていたのだが。


「……思った以上に、訳ありか? 親父も、なんかアキトは抱え込んでるから注意しろ、とは言ってたが」


「……ああ、騎士団長がタイキさんにそんな話をしていた、と僕も父様から聞きました。タイキさんがきちんと分かっているから、大丈夫じゃないか、とも言ってましたけど」


「確かに、タイキさんは分かっちゃいるんだろうが……おれたちは素知らぬふりをしていい問題か?」


あの、アキトの無表情を思い出す。

あれを見ると、かつての、兄の毒殺未遂事件直後の、アレクを思い出してしまう。


あの頃のアレクを、もし一人で放っておいたらどうなっていたんだろう、と思うと、怖い。


「……タイキさんにこっそり相談してみるしかないですかね?」


アレクの時に強引にでも手を取れたのは、何が原因なのか分かっていたからだ。


しかし、アキトの場合は、何も分からない。

下手に手を出して、もしも逆効果になったら、目も当てられなかった。




次の日。捜索一日目。

陽が昇ると同時に、四人は動き出した。


川沿いをずっと行く。


しかし、場所によっては足場が悪い。

迂回する事は可能だったが、目的が目的なだけに、川沿いから離れることはできなかった。


「ずっと、流れが急だな。切り立った崖だから、上がろうとしても上がれねぇ」

食事をしながら、バルがため息をついた。


「この辺りは、一気に流されていった可能性が高いだろうな。流れが緩やかになる所までは、二人がいる可能性は低いかもな」

同じくため息をついた泰基が、それに答えた。




その日の夜、夜番で泰基と一緒になったバルは、アキトのことを聞いてみた。


泰基は、少し驚いたような顔をした後に、「そう言えば、ユーリに聞かれてたか」と、つぶやいた。


「本音を言えば、言いたくない。……信用してないとかそういうことじゃなくて、暁斗と同い年のお前達に、背負わせるような事をしたくない」


そんな泰基の言葉だが、バルはとても同意できるものではなかった。


「それで、おれたちが納得するとでも思うのか」


「してくれればいいなとは思う。……悪い、お前の親父さんに釘刺されてたのにな。迷惑掛けることになりそうだ」


「最初に召喚なんぞして迷惑掛けたのはこっちだろ。気にすんな。――で?」


さっさと話せと言わんばかりの態度に、泰基は苦笑いだ。


「――少し待ってくれ。アレクとリィカが見つかるまで。あいつらにもちゃんと話したいから」


その言葉に、バルは少し考えて、うなずいた。


「一つだけ教えてくれ。――母親は、どうしてる?」


「死んだよ。暁斗が生まれて三ヶ月くらいの時に、殺された」

泰基の答えは簡潔だった。



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