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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十六章 三年目の始まり

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挨拶

「ハリス先生、戻りました」

「おお、おかえり……どうした? どこか具合悪いのか?」


 結局横抱きされたまま教室まで入ってきてしまったリィカは、教師であろう人の言葉に泣きたくなってしまった。抱えられている理由を、純粋に体調のせいだと思ってくれるとは……むしろそれが普通の考え方かもしれない。


「大丈夫です。単に、アレクのアホが暴走しただけなんで」

「アレク、いい加減リィカを下ろしたらどうですか?」


 アレクはと言えば、バルの言葉に「アホとは何だ」とブツブツ言って、ユーリの言葉にひどく不満そうな顔をしたが、それでもリィカを下ろした。


 リィカは、足が床についてホッとする。アレクに抱えられていて不安定なわけではない。ないのだが、横抱きにされているのをガン見されているのは、気分がよろしくない。

 ほとんどが初対面の人たちが集まる場で、さらには貴族たちの集まっている場であるから、なおさらだ。


「……体調は問題ないのか?」

「は、はい。大丈夫です」


 教師らしい人……というか、間違いなく教師だろう人に聞かれて、リィカはしっかり答えた。

 ここで動揺してまともに答えることもできなかったら、間違いなく自分は体調不良の印を押される。そうしたら、初日から医務室行きだ。


 そう考えると、この状況はアレクのせいだ。せめて教室に入る前に下ろしてくれれば良かったのに、そのまま中に入っていった。

 横目でアレクを睨めば、なぜか笑顔だ。


「そうか。ならいいが。では自己紹介といこうか」

「……え?」


 肩を押されて向いた方角は、多くの生徒が座っている。"自己紹介"の言葉に、リィカは一気に心臓がドキドキしだした。


 視線が集中している。自分はどう思われているのだろうか。平民クラスの時よりも、それを考えると怖く感じる。


 両手を握りしめる。少し下を向き、息を吐いて吸って、また吐いて、そして顔を上げた。


「わたしはリィカ……」


 そこまで言って、講堂での国王の言葉を、名乗れと言われた名前を思い出す。実感などないが、名乗るのであればそれを言うべきなんだろう。

 スカートを軽くつまみ、礼をした。


「リィカ・フォン・クレールムと申します。つい先ほど、国王陛下より名誉貴族の称号を頂きました。慣れない点が多く、ご迷惑をおかけしてしまうこともあるかと思いますが、今後ともどうぞよろしくお願いいたします」


 言えた。とりあえず噛まずに言えた。この挨拶で良いか悪いか分からないが、とりあえず言えた。

 そんなことを思いつつ顔を上げると、リィカの耳に拍手が聞こえた。


「よろしく、リィカ嬢」

「ご一緒できて嬉しいわ、リィカさん」


 アレクの兄の王太子アークバルトと、婚約者のレーナニアだ。

 そして、拍手をしたのは教師もだ。


「うん、良い挨拶だった。生徒同士での挨拶はおいおいやってもらうとして、私はエルマー・フォン・ハリスだ。一学年の時からずっとAクラスの担任をしている。よろしくな」

「は、はい。よろしくお願い致します」


 良い挨拶、の言葉に、ホッとしながら答える。とりあえずは合格点だったのだろう。

 ハリスはリィカに頷いて、アレクたち三人を見てから、生徒たちの方へ向き直る。


「三年生が始まったばかりだが、この四名がAクラスに特別編入する形になる。クレールムだけではなく、他の三人も丸々一年空いているからな。分からない事があれば、教えてやるように」


 クレールムって何、と一瞬リィカは考えて、それが自分のことだと気付く。はっきり言って違和感がひどいが、慣れるしかないのだろう。


「じゃあ四人とも、後ろの空いてる席に座ってくれ」

「お待ち下さい、ハリス先生」


 動き始めたリィカたちだったが、王太子アークバルトの声がそれを止めた。


「一つ、リィカ嬢について伺わせて下さい。このクラスであれば問題ないとは思いますが、他の二クラスから、いきなりリィカ嬢がAクラス編入になったことについて、不満が出る可能性があると思います。それの対処を何かお考えですか?」


 リィカは口の中で、え、と小さくつぶやく。

 問われたハリスは、面倒そうな顔だ。


「教師の中にも不満を言う奴がいた。何が問題だ、と学園長が一喝していたがな。元々クレールムは、魔法の実技において一位だったのだから」


 一クラスしかない平民クラスと違い、貴族はA・B・Cの三クラスある。そして、成績上位からAクラスに組み入れられていく。

 この場合の"成績上位"とは総合での成績も入るが、それ以外の座学や魔法、剣、それぞれにおいて成績上位の者も考慮され、教師が判断する。


 成績によってはその判断に悩む者も当然いるが、魔法の実技において上位一位を取ったリィカであれば、悩む必要もなくAクラス入りだ。


「とはいっても、元の身分を責めて、Aクラス入りを妬む者がいることも承知している。――四人とも、とりあえず席に座れ。お前たちだけ呼び出して話そうと思ったが、ここで伝える」


 立ったままのリィカたちへ声をかける。

 顔を見合わせ、アレクがリィカの手を引いて、席に座らせる。前の席の左側にリィカが座り、その隣にアレクが座る。

 そして、リィカの後ろにユーリが、その隣がバルだ。


「クレールムだけではなく、アレクシス、ミラー、シュタインの三人とも、試験を受けていない。まあこの三人についてとやかく言う奴らはそうはいないだろうが、Aクラスにいる以上、それにふさわしい実力があることを、周囲が認めるに越したことはない」


 ミラーはバルの家名、シュタインはユーリの家名である。

 平民クラスでは当たり前のように名前で呼ばれていたが、貴族クラスでは家名で呼ばれるんだ、ということを、ここでリィカは初めて認識した。

 アレクだけが名前なのは、兄のアークバルトもいるからか。


「今日の午後より、お前たち四人で模擬戦をやってもらう」

「「「「は?」」」」


 四人の疑問が見事に揃った。


「組み分けはお前たちに任せる。一対一を二回してもいいし、二対二、もしくは四人が一度に戦うバトルロイヤル方式でも構わない。その戦いから実技の点数をつける。ついでに、他の生徒たちにも観戦させるから、そのつもりでな」


 リィカとアレク、バルとユーリが無言のまま、お互いに何とも言えない顔で視線を交わす。

 その様子を見つつ、ハリスは表情を変えないまま、さらに続けた。


「何か質問があれば、後から聞く。――アークバルト、そういうことだ。分かったか?」

「はい。ありがとうございます」


 アークバルトへの確認は、最初の発言者だからだろう。納得した様子を見せたのを確認し、ハリスは頷いて、話を変えた。


「では、以前からも話していたが、二ヶ月後のキャンプについての話を行う」

「「「「キャンプ?」」」」


 またも、四人の声が揃ったのだった。


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