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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
番外編 どこに行くのも、いつであっても

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腹をくくる

「泰基! 絶対おかしい!」


 わたしがその事実に気付いて、泰基に叫んだのは翌日の朝だった。


「どうした急に」

「どうしたじゃない! なんで婚約指輪!? 結婚の約束もしてないのに、なんで!?」


 確かに、泰基との結婚を嫌じゃないとは言った。でも、まだ結婚を了承した記憶はない。指輪を買うような段階じゃないはずだ。

 指輪を抜いて泰基に突き出すと、泰基の表情が曇った。


「……そんなに嫌なのか?」

「え、あの、泰基……?」

「……そんなに凪沙は俺が嫌か? 俺が嫌いなのか……?」


 なんかすっごい落ち込んでるっ!?

 ど、どうしよう……!?


「そ、そうじゃなくてねっ!? えと……その、わたしも、好き、だよ?」


 後半は小声になった。

 泰基からは高校生の時に言われて以降、しょっちゅう言われているけど、わたしから言うことはほとんどない。


 だって、恥ずかしいしねっ。そんなに言う事じゃないと思うし!


 正直今でも「好き」の言葉はちゃんと言えないことが多い。それでも頑張って言ったのに、泰基の表情は曇ったままだ。


「悪い、それを疑ったことはないんだ。だけど、凪沙はプロポーズを断ったじゃないか。だから俺も不安というか……。ちゃんと目に見えるものが欲しいんだよ」

「…………う……」

「だから凪沙。結婚の約束、してくれないか?」

「………………うぅ……」


 突き出した指輪をヒョイッと取られて、また左手の薬指にはめられた。早業すぎる。

 左手を握ったまま不安そうな顔を向けられてしまうと、嫌と言えない。わたしに何が何でも駄目って気持ちがないから、なおさらだ。


「……分かった、約束、する」

「本当か!?」

「するけど! 今すぐじゃないからね! そのうちだからね!?」

「分かった、そのうちな」


 泰基の顔がパッと明るくなった。「そのうち」であっさり納得したことが驚きだった。単純だなぁなんて思って、ちょっと面白かった。



※ ※ ※



 次の休み、泰基に「見に行こう」と連れて行かれたのは、ウエディングドレスのレンタル店。


「ちょっと、泰基?」


 我ながら低い声が出たと思う。今すぐじゃないって話をしたばかりだ。なのに、なんでこんなところに連れてくるのか。


「そのうちだろ? 何か問題あるか?」

「あるに決まってるでしょ!」

「そうか。でもまあ予約しちゃったし、今日決めなくてもいいから。入ろうぜ」


 予約した、の一言に渋々頷いた。予約までしてドタキャンはお店の人に失礼だ。わたしがそう考えることまで先読みされている気がして、悔しいけど。



※ ※ ※



「泰基、本当に何考えてるの?」


 お店から出たわたしは、泰基に問い詰めた。

 どこからどう考えても、泰基はすぐにでも結婚する気満々でいる。


 そのわたしの考えが間違っていないことを示すように、泰基が面白そうに笑った。


「今、俺たちは大学三年生。俺が結婚しようと言ったのは、大学卒業後。十分に"そのうち"じゃないか」

「断じて違う!」

「違わない」


 泰基は歩く足を止めた。つられてわたしも止めると、泰基は真っ直ぐわたしを見た。口元が笑っているように見えるけど、それはただ引きつっているだけの、泰基が緊張している時の顔だ。


「俺は譲るつもりはないから。それまでに凪沙が頷けば良い話だ」


 強い口調に、わたしは何も言い返せなかった。



※ ※ ※



「……なんで今まで気付かなかったんだろ」


 泰基と別れて家に戻って、一人になった部屋の中。泰基のあの表情が、昔と重なって見えた。


 中学生になって、わたしは泰基を避け気味だった。異性の幼なじみがいるということに、周囲の女子たちがからかってきて、恥ずかしかったから。

 そんなある日、自宅近くで一人になったとき、泰基が声をかけてきた。そのまま近所の公園に連れて行かれて、言われた言葉がある。


『凪沙、俺と付き合って欲しいんだ』


 緊張した泰基の顔に、わたしは内心で首を傾げていた。


『……どこに?』


 考えた末のわたしの返事に、泰基は何だかすごく難しい顔をした。何かを考え込むようにしていて、どうしたんだろうと思った記憶がある。

 でも、どこか行きたいところでもあるのかな、程度にしか、その時は思わなかったのだ。


『どこに行くのも。いつであっても。俺と一緒にいてほしい』


 だから、この言葉の意味もよく分からなかった。ただ、わたしが避けるようになってしまったことが嫌だったんだろうかって思った。


 だからわたしは頷いたんだ。周囲にからかわれたくらいで、大切な幼なじみと離れようとしていたことが申し訳ないなって思ったから。


「そしたら、次の日から彼女扱いされたんだよね」


 思い出して、クスリと笑った。

 何のことだって、最初は驚いた。でも全然嫌じゃなかったから、わたしを「彼女」という泰基の言葉を否定しなかった。いつの間にか、わたしも泰基が「彼氏」だって思うようになっていた。


「あの時、ちゃんと言ってくれれば良かったのになぁ」


 付き合ってくれ、は十分告白の言葉だったのに、それを自分がベタな勘違いをした。その勘違いを、泰基は正そうともせずに曖昧な言葉でごまかして。強引にわたしを「彼女」にした。


 そう考えてみれば、泰基の言葉の少ない強引さは、あの時から変わってないのかもしれない。


「けっこん、かぁ」


 彼女扱いは嫌じゃなかったから受け入れた。結婚も嫌なわけじゃない。でもどうしても、モヤモヤしたものが残る。


「よしっ」


 今度は強引に引きずられてなんか、あげない。ちゃんと言葉にしてもらうんだ。


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