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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
番外編 どこに行くのも、いつであっても

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プロポーズ

 それは、あまりにも唐突だった。


「凪沙。大学を卒業したら、俺と結婚してほしいんだ」

「へ?」


 大学の帰り道、近所の公園でわたしは泰基からプロポーズされた。

 何の前触れもないそれに、わたしは立ち止まって泰基の顔をマジマジ眺めた。冗談……ではなさそうな気がする。


「俺と結婚してくれ、凪沙」


 もう一度言われた。真剣な表情に、本気で言っていることが分かった。それは分かったけど、いくら何でも唐突すぎる。


「わたし、就職したいの。結婚が嫌なわけじゃないけど、すぐは困る」


 パッと頭に浮かんだ返事は、我ながら可愛げの欠片もないものだった。泰基がすっごい不満そうな顔をした。



※ ※ ※



「結婚ねぇ……」


 家に帰ってきて一人になってからボソッとつぶやいた。


 泰基とは家が隣同士の幼なじみで、ほとんど生まれた時からの付き合いだ。彼氏彼女としてのお付き合いが始まったのは、中学生の時。


 正直、何がきっかけで付き合うようになったのか、よく覚えていない。気付けば、泰基に彼女扱いされていた。別に嫌じゃなかったから、多分わたしも好きなんだろうなと思って、そのまま素直に彼女扱いされてたけど。


 ちゃんと好きと言われたのは、高校生のとき。それは流石にちゃんと覚えてる。高校に入学してできた友達に聞かれた時だ。


『いつから付き合ってるの?』

『はて?』

『……は?』


 聞かれて首を傾げたわたしに、友達がすっごい胡乱げな顔をした。そうしたら、泰基がおもむろにわたしの手を握ってきたのだ。


『好きだ、凪沙。俺と付き合ってくれ』


 顔が赤くなったのが、自分でも分かった。

 友達の「キャーッ」という叫び声が、やたら遠く聞こえた。


 それらの事を思いだして、ハァっとため息をついた。


「結婚かぁ……」


 実感が湧かない、というのが、正直なところなんだろうか。

 泰基が嫌なわけじゃない。結婚するなら、泰基が良いと思う。でも、別に急ぐことはない。まだいいじゃないか、という気持ちが強い。


 何であんな唐突にプロポーズなんてしてきたのか。

 何かあったのかと聞いたら「別に」という返事が返ってくる。「ただ早く結婚したいんだ」とそう言われただけだ。


 何となく、左手の薬指にはめた指輪を手で触れる。高校生の時、泰基がくれた指輪だ。嬉しかったけど、その時に言われた言葉は妙に不穏だった。


『男よけにできるだけつけてろ』

『つけるけど、なんで男よけ?』


 確かに男の子に声をかけられることはあるけど、それだけだ。

 男よけって、もしかして話すだけでもダメとか言わないよね? そういえば、泰基が不機嫌になる時って、わたしが男の子と話をしているときが多いような……?


 まあでも素直に受け取って、素直につけてる。男よけとやらの効果はよく分からないけど。


 泰基とはずっと一緒だった。

 大学は流石に別だと思った。頭の良さが違うから、泰基はもっと上の大学を目指すと思ったのだ。

 それなのに、泰基はランクを下げた。わたしと一緒に大学に行きたいからと。勉強なんかやる気になれば、どこの大学に行ったってできるからと。


 だから、わたしは勉強を頑張った。少しでも、泰基に上のランクの大学に行って欲しかったから。結果的に、わたしと泰基の学力の、ちょうど中間地点くらいの大学に合格したのだ。


 でも、この先はどうなるか分からない。

 泰基に「就職したい」なんて言ったけど、正直何が何でも働きたい場所があるわけじゃない。でも、泰基にはやりたいことがある。それを知っているから、就職先まで一緒は無理だと思っている。


「でもだからって、会えなくなるわけじゃないし。別に今すぐ結婚しなくってもなぁ」


 結局は、泰基が何を考えているのかが分からなくて、戸惑っているのかもしれなかった。



※ ※ ※



 次の休み。泰基と一緒にデートだ。


 わたしと泰基のデートは、おうちデートが多い。お互いに小説とか漫画とかアニメとかゲームとか、そういうものが好きだからだ。たまに外に出かけるときは、アニメが映画化されて見にいくとか、そんなのばかりだ。


 だから、今日は外に出かけようと言う泰基に驚いた。


「何か映画あったっけ?」

「まあいいから」


 笑う泰基に、首を傾げた。

 そして、連れて行かれた先は、ジュエリーショップだった。


「ちょっと泰基、ここで何するの?」


 わたしがそう聞いたのは、ショップの中に入って案内された席で二人になった時だ。しっかり予約までしていた泰基を、問い詰めたい気分でいっぱいだった。

 だけど、泰基は妙にご機嫌だ。


「婚約指輪を買おうと思ってな」

「…………………はあっ!?」


 大きい声が出てしまい、慌てて口を閉じる。周囲をチラッと見ながら、小声で問い詰める。


「なんでよっ? わたし、断ったよね?」

「流石にそこは取り違えてないぞ。だけど、嫌じゃないって言ったじゃないか。だったら、そのくらいはいいだろ?」

「……えーと? うん、いい、のかな?」


 何か違うような気もしたけど、自信満々な泰基に、首を傾げつつもわたしは頷いた。そして気が付けば、左手の薬指に婚約指輪が嵌まっていたのだった。


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