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【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第十五章 帰郷

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前夜

「国王陛下、失礼致します。ただ今ヴィート公爵家のクラウス様、レーナニア様。そして、勇者様ご一行のお一人であられる、リィカ様が到着されたとのことです」


 家族団らんをしていたアレクたちの元に、報告のため騎士が訪れた。

 リィカが来た事に純粋に喜んだアレクだが、同時に首も傾げる。


「一緒に来たのか?」

「はい。なんでも、途中で会ったとのことです」


 リィカとレーナニアは顔見知りだ。そういうこともあるかと思い、足を踏み出したところを、先に動いたのは王妃だった。


「リィカさんが到着したのね。今度は何を着せようかしら」

「……あの」


 どこかウキウキしている王妃に、アレクがためらいがちに声をかけたが、そのまま王妃はいなくなった。


 何となく足を踏み出し損ねたアレクに、アークバルトが苦笑しながらその肩に手を置いた。


「今日……はさすがにないが、明日は祝いのパーティーになる。リィカ嬢のドレスを決めたいんだろう」

「……え」

「帰ってきたばかりで、着せ替え人形となるリィカ嬢が気の毒だが。まあ王妃もその辺りは配慮するだろう。儂への挨拶は、明日のパーティー時で良い」

「……はあ」


 アークバルトに続き、国王にまで言われて、アレクは思う。


 パーティー。そうか、やっぱりあるのか。まあ分かっていた事ではあるが。

 旅立ちの前のパーティーでも、王妃はリィカを着飾らせる事を楽しんでいた。それを思えば、意外でも何でもない。


 だがそれはつまり、着せ替え人形中のリィカに、自分も会えないわけで。


「……まあ、しょうがないか」


 ため息一つで、アレクは諦めたのだった。



※ ※ ※



「待っていたわ、リィカさん」

「……あ、は、はい?」


 城に入り馬車から降りて、歩くこと少し。目の前に現れた人物のことは、さすがに覚えていた。

 この国の王妃陛下。アレクの母親……ではないけれど。


 そんな事を思い出したリィカは、クラウスとレーナニアが礼を取っていることに気付いた。


 ドレスの場合は、その裾をつまむ。そうじゃない場合には、上衣でも何でも、つまんで広げられるものをつまめば良かったはず。

 ルバドール帝国の皇女、ルシアに教わったことを思い出しながら、リィカも二人に習って慌てて礼を取った。


 リィカのその様子を王妃は少し驚いた目で見たのだが、頭を下げているリィカは気付かない。

 やがて、王妃は僅かに笑みを浮かべて、リィカたちに声をかけた。


「顔を上げてちょうだい、三人とも」


 言われて顔を上げる三人。

 王妃はリィカに近寄ると、その手をガシッと掴んだ。


「え?」

「行くわよ、リィカさん。レーナニアも一緒にどう? リィカさんのドレス選び」

「まあ是非! ご一緒させて下さい!」

「……え?」


 何が何やらリィカは理解できないままだが、手を引かれれば歩くしかない。その後ろを楽しそうな様子のレーナニアがついていく。


 その様子を見送るしかなかったクラウスが、つぶやいた。


「……陛下への挨拶、いいのかよ」


 まあ王妃が連れて行ったのだから、いいんだろう。この事態を、国王自身がすでに知っている可能性の方が高い。


 鋭い推察力で、おおよその事実をクラウスは察していたのだった。



※ ※ ※



「よお、アレク。帰ってきたんだな」


 クラウスは近くにいた騎士に頼んで、アレクたちのいる場所まで案内してもらっていた。

 王妃に連れていかれたリィカとレーナニアの代わりに、自分が国王に挨拶する必要がある。


 挨拶はあっさり終わった。王妃に連れ去られたと言えば「やはりな」の一言で終わった。

そして、アレクに声をかけたのだが、そのアレクはどこかつまらなそうな顔をしていた。


「クラウス、リィカと会ったのか」

「ああ。レーナが気付いて声をかけて、馬車に乗せた。……アレク、お前リィカ嬢に何て言っていたんだ? 門番に声をかけられずにウロウロしていたぞ」


 実際にウロウロしているところを見たわけではないが、おそらくそういう事だろうとクラウスは思っていた。

 初めて父親に王城に連れられてきた時、門番の顔が怖いと思った事を覚えている。リィカも同じように思えば、声をかけるのをためらっても仕方がない。


「あー……もっとしっかり言っておくべきだったか」


 あの門前で大騒ぎになってしまったので、交わした言葉もかなり急ぎ足だった。そういう意味では、特にリィカが相手では言葉が足りなかったかもしれない。

 反省するアレクに、クラウスは僅かに目を細めた。


「リィカ嬢は、平民だよな?」

「……ああ、そうだが?」

「言葉遣いとか礼儀作法とか、旅の間に覚えたのか? 慣れない感じはあったが、出来ていて驚いた」


 馬車の中でクラウスと話をしたときのリィカの言葉遣い。王妃に対して取った礼。どれも、平民ができるものではない。

 そう言葉を続けるクラウスに、アレクは頷いた。


「ルバドール帝国で、ルシア皇女がリィカに教えていた。俺も知らなかったけどな。ダンスの練習相手に呼ばれて、その時に初めて知ったんだ」


 複雑そうな表情でアレクが語る。その意味をクラウスは分からなかったが、それでもできる理由は分かった。


(つまりは、ダンスも踊れるってことか。なるほどね)


 表情を変えることなく、内心でだけつぶやいた。

 貴族らしい礼儀作法ができる。その事実一つがあるだけで、ずいぶん状況は変わってくるな、と思いながら。



※ ※ ※



「……疲れた。久しぶりにアレクに会う気がする」

「非常に残念ながら、今日の昼以来だな。半日もたってないぞ」

「……そうだよね」


 王妃とレーナニアの着せ替え人形から解放され、ちょっと遅めの夕食はアレクと二人の席が用意されていた。

 本当は、王族一家と一緒に食事を、という話になっていたらしいのだが、それをアレクが止めたらしい。


 それを聞いたとき、リィカは心の底からアレクに感謝した。

 長い長い旅から戻ってきたと思ったら着せ替え人形にされて、クタクタになっているところに、そんな緊張する食事会などしたくない。


「……バルとユーリに、会えなかった」

「明日になれば会えるさ。二人とも家に帰ったからな」

「……わたし、学園の寮に戻るつもりだったのに」

「諦めろ。今日は王宮に泊まりだ。そして明日は朝からパーティー準備で忙しくなるからな。ゆっくり休め」

「……はーい」


 文句を言っても仕方がないことくらいは分かる。何せ気付けば「お部屋の用意が整いました」とか言われて、何のことだと目を白黒させたのだ。


 当たり前のように王宮に泊まる部屋が用意される平民って何かおかしい。それを、魔王を倒してきたばかりの勇者一行の一人への待遇だ、ということで、強引に自分を納得させたばかりである。


 リィカは食事に手を伸ばして食べ始める。同じようにアレクも食べながら、二人で普通におしゃべりする。今までの旅の延長のように。


 リィカは泣きたくなるのを我慢した。それはまだ後だ。

 あと少し。あと少しだけ、アレクといられるこの時間を、精一杯楽しむために。



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